3.パパとじいたん
妊娠中だった娘はすでに予定日を過ぎて、もういつ生まれてきてもおかしくないという時期に差し掛かった。
「よほどお腹の中が居心地いいのかしら」
「そろそろ出て来てくれないと腰が痛くて…」
そんな母と娘の会話が頻繁に出てくるようになったある日、娘は掛かり付けの産婦人科に入院することになった。その翌日、父親の元へ母親からLINEが届いた。
『生まれた!』
『すぐ行く!』
父親は現場での打ち合わせを早々に終わらせて電車に飛び乗った。途中、ふと思いつき、東京駅で下車。娘の好物のカステラを買った。
娘が入院したという、産婦人科病院の名前は解かっていたのだけれど、行ったこともなく、どこにあるのかも判らなかった。そこで病院のホームページで住所を確認して地図アプリで探しながらたどり着いた。便利な世の中になったものだと感心しながら。
病院に到着すると、受付で娘の名を名乗り、案内してもらった。娘と母親はまだ分娩室に居た。父親の顔を見た娘は安堵の表情を浮かべた。
「早っ!」
父親は辺りを見渡して尋ねた。
「優輔君は?」
「仕事だよ」
「そうか」
父親は時計を見て苦笑する。赤ちゃんもベビーベッドに寝かされて娘のわきに来ていた。そのことに父親は驚いた。自分たちの時は生まれたばかりの赤ちゃんは保育室のようなところに入れられて、しばらくの間は病院側で面倒を見てくれていた。ここでは赤ちゃんは生まれてすぐに母親のもとに預けるのだという。
「パパそっくりでしょう!」
「そうか…。生まれたばかりの赤ちゃんなんてみんな同じ顔にしか見えないよ。それに、パパってどっちのパパだ?」
「パパだよ」
「じいたんだよ」
娘と母親が同時に言う。
「だから私にそっくりでしょう!」
娘が付け加える。つまり、父親に似た娘にそっくりだから父親つまりは祖父にそっくりなのだと娘も母親もそう言っているのだ。父親はそれからしばらくの間、不思議そうに赤ちゃんの顔を眺めていた。そして、娘が歩けるようになると、母親がベビーベッドを押して、娘は自力で歩いて病室へ戻った。