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1.リフォームと忖度

 結婚した娘が旦那と二匹の猫を連れて戻って来ると言った。今まで住んでいた部屋の家賃が上がるのを機に実家に戻ることを決めたのだと。もちろん旦那の了解も得ているらしい。元々娘が過ごしていた部屋も今は空き部屋になっている。

「壁紙を貼り替えたらいくらくらいかかるかしら?」

 久しぶりにその部屋を見に来た娘が父に尋ねた。父親はリフォーム会社に勤めている。

「忖度だな」

「えっ? どういうこと?」

「娘の結婚祝いだ。俺が一言声を掛ければタダでやってくれる業者がいくらでも居る」

「マジ? ただでやってもらえるの?」

「任せておけ」

「やった! ラッキー。パパって偉いんだね」

「まあね」

 娘に褒められてご満悦の父親だが、勢いで言ってしまったことを少しばかり後悔した。いくら忖度があるとは言え、この規模の壁紙の貼替には安く見積もっても10万は掛かる。大規模な内装工事を請け負っている業者であれば、それくらいの金額なら二つ返事で引き受けてくれるだろう。しかし、会社ではそれなりの立場でもある父親は責任感からか多少のうしろめたさを感じてしまったのだ。ところが、そんな父親の心配をよそに、話をした業者の社長は二つ返事で引き受けてくれた。

「そんな水臭いこと言わないでくださいよ。日頃からお世話になっている松坂さんのためならお安い御用ですよ」


 数日後、娘が旦那と二人で訪れた。既存の壁紙を剥がしに来たのだという。

「自分たちで出来ることは少しでもやらないとね」

 なかなかいい心がけだ。さすが俺の娘だけのことはある。父親は心の中でそう思い、嬉しくなった。

「どこからやればいいのかしら…」

「ちょっと待ってろ」

 父親は居間からカッターナイフを持って戻ってきた。

「こうやってやるんだ」

 そう言って壁紙の継ぎ目の部分をカッターナイフでめくると、その部分を持ってそっと引っ張った。すると、壁紙は面白いようにはがれていった。

「わあー! 面白い」

「高いところは危ないから(ゆう)(すけ)君にやってもらえよ」

「任せてください」

 そう言って踏み台に上る旦那。娘のおなかには既に赤ちゃんが居るのだ。



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