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影元さんは怪異に憧れる  作者: スタイリッシュ土下座
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無口で泥沼な転校生

 ここ数週間、あの奇っ怪な部活を何度も訪れていた。しかし、俺の幼馴染であるマナがどうしてあの猫田という奴に釣られるのかは理解できない。悶々と考える内に、その本人に背中を押された。


「おはよ、照男君」


「お前っ.......驚かすなよ」


「ごめんごめん。ところで照男君は部活とかやらないの?」


 俺は自分の顔を覆ったマスクの中で鼻息をふん、と鳴らした。


「オカ研だけは死んでも無理」


「バレた?もし何処にも行く予定が無ければ勧誘しようと思ったんだけど」


「お断りだ!そもそもお前、何が好きで怪異になろうと思ったんだよ」


 彼女の目は暗いながらも光り輝いた。電気屋でよく見る眩しい光り方ではなく、暗い夜道に一つだけぽつんと置かれた電灯のような光り方だ。


「人を怖がらせたり、自分自身がこの世のものじゃなくなるのって楽しそうじゃないですか?」


「絶対楽しくねぇよ.......」


 思わずツッコミを入れてしまったが、あくまで自分の護衛対象とする人の夢だ。

 思わず泣きそうになる彼女に詫びを入れて、少しでも理解できるように努めた。


「イースター島のモアイに関する話って知ってる?オカルトと言うよりはミステリーだけど」


「唐突だな」


「関係あるんです!あれはその全てが海の方を向いているとされていて、色々な専門家の人達が説を出し合ってるんですけど、この謎に関する全ての原因はまだ完全に解明できないらしくて」


「それで」


「人間の文明が栄えても"分からない"事があるって凄い事だと思ったんです!だから、私もよく分からないものになって、人智を超えた存在に」


「話が飛躍し過ぎだ。俺にも分かりやすく説明してくれよ」


 兎にも角にも、彼女が怪異を目指す理由はぼんやりと分かった。依然として俺が共感できる範疇のものでは無かったのだが。


「研究に熱中するのもいいが、程々にしておけよ。後でどんな目に遭うかも分からないからな」


「そう言う照男君も割と不憫な方でしょ」


 話している内に予鈴が鳴った。教室に向かう最中ではあったので、少し急いで席に着いた。


「照男君。マスクは特別に許してあげますが、サングラスは取りなさい。風紀を乱さない事」


「いや、でも、取ったら死ぬほど恥ずかしくて」


「取りなさい」


 いつもの朝礼が始まった。俺とマナは偶然にも同じクラスではあるのだが、この担任は他よりも一段と厳しく、風紀を理由にしては生徒を正しにくるのだ。


「本当勘弁してくれ先公!これ取ったら窓から飛び降りる自信ある!滅茶苦茶自信ある!」


「教室に入ったら付けているものを外して挨拶するのが礼儀です!毎日毎日、いい加減にしなさい!」


 毎日の様にこれは行われるのだ。他の奴は勉強したり、読書したりで時間を潰すのが日課となっている。俺の2つ後ろの席の方でマナは呟いた。


「相変わらず不憫だなぁ」


 そっくりそのまま同じ台詞を言いたい気分だ。一通り格闘を終えた所で体力が尽きたのか、息を荒くしながら担任は教壇に立った。


「今日は転校生を紹介します」


 教室内がザワついた。よくあるパターンだ。本人にとっては凄いプレッシャーのはずなのにハードルを上げてくるスタイルは俺自身、あまり好きではない。


「転校生だって!誰が来るかな」


 マナもウキウキとグループ内で盛り上がっている。顔を隠して休み時間も静かに過ごす俺には関係の無い話だ。


「どうぞ」


 扉が開けられ、目線の先には根暗で背が小さい女の子が立っていた。目の下には隈が見え、長い髪はボサボサで、皮膚は少し緑にくすんでいる。

 教室内のザワザワが少しずつ不気味なものを見るものにかわっていく。


「何だあいつ」


「今日からこの学校に転入してきた『大沼おおぬま 愛江あえ』ちゃんです。仲良くしてね」


 彼女は終始無言だった。やがて歩いて自分の席に向かう時も皮膚からポロポロと何かが崩れ落ちているのが確認できた。俺も思わず息を飲む。


「照男君、あの子面白そうじゃない?興味出てきちゃった」


「普通この段階でそんな風に思えないけどな」


 休み時間に入ってから俺達は彼女を観察する事に決めた。

 身体が傷だらけで肌色が良くない事以外、基本無口だが普通の少女といった感じだ。

 最初の内は戸惑っていたクラスメイトも徐々に彼女と打ち解けていく。影から様子を覗いていたマナもうずうずとその身を震わせていた。


「こうしちゃ居られない!私もあの子と友達に」


「いや待て。明らかにおかしいと思わないか?見た目だけで判断するのも良くないと思うが」


「良くないって自覚してるなら別にいいよね!アエちゃん!」


「だから待てって言ってるだろ!?」


 俺は彼女を追いかけて、結局空気感に耐えられず、事情を説明した。アエと呼ばれるその子の方も最初は驚きはしたものの、次第に頷き、理解を示した。


「すまんな。俺の幼馴染が迷惑かけて。かくかくしかじかなんだ」


「ねえ、あなたもオカルト研究会に入ってみない?きっと楽しいよ!」


「怖いもの知らずにも程があるだろ!少しは遠慮というものを知れ」


 彼女の方は急に沢山話しかけられて戸惑ったのか口をもごもごとさせ、その場に伏せた。


「怖がってる。多分、話下手なんだこいつは」


「そっか、ごめんね。アエちゃん」


「またゆっくりと時間をかけて仲良くなればいい。今日はこのぐらいで勘弁しておけ」


「はーい」


 俺達はそそくさとその場を離れた。初見時のそれは見間違いだったのか?確かに肌色は残っていて、人間らしさは残っている。

 しかし、何か不気味なものは感じ取れるのだ。放課後、マナと共に部室で猫田会長にその事を伝えた。


「面白い転校生じゃない。私は歓迎するわ」


「歓迎する、しないも勝手だが本当にそんな奴勧誘して大丈夫なのか?」


「そうね。照男君よりはまともそうだし」


「俺がまともじゃないみたいな言い方止めてもらっていいですか」


 相変わらずこの人は読めない。ウキウキと期待を膨らませるマナの気楽そうな顔が見れるだけでも、別に悪くはない。


「照男君も馴染んできたね、このオカ研に」


「誰がだ!慣れる所か振り回されるばかりで余計に疲れるんだよ。そもそも俺が見に来る限りお前ら全然オカルト研究してないじゃないか」


 会長はこちらにニコッと笑みを見せて答える。


「それもまた怪異って事ですよ。お後がよろしいようで」


「全然よろしくないが」


「よ・ろ・し・い・で・し・ょ?」


「よろしいです」


 会長の謎の圧力により、またしても口元が歪ませれて本心でも無いことを言ってしまった。ゆるい部活というよりかは単純に変人がサボりたいだけの部活のようである。

 変人といえば俺も四六時中顔面は隠しているが、研究会こいつらと一緒にされては困る。


「マナを連れ戻せない以上、俺はもう帰ります」


「「また来てね」」


「二度と来るか!」


 勢いよく扉を閉め、家路に向かうが、何処か独りの寂しさを感じた。

 全くオカルト研究しないオカルト研究会に入り浸っていたせいで、心に悪いものが入り込む隙ができてしまったという事だろうか。ここでの悪いものというと思い当たる節しか出てこない訳だが。


「何考えてる。俺!」


 マスク越しに肌をパンと叩いて靴箱から外に出た。

もうすぐ春が訪れると言えども、外は寒く、家路に向かうまでに心まで寒くなってしまいそうだった。

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