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影元さんは怪異に憧れる  作者: スタイリッシュ土下座
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シャイな男はすぐデレる

 オカルト研究会。俺が読んだ漫画だと、そういった部活は話の隅に追いやられる事が多い。

 俺自身、マナをオカ研から取り戻す為に何度も部室へと足を運んでいるのだが──。


「またいらしたんですか。照男さん」


「マナを連れ戻しに来た。何処にいる?」


 会長は力が抜けた表情を変えずに応えた。


「何処にいるも何も、今日の活動はお休みなので不在です」


「あだっ、俺とした事が.......」


 拍子抜けした俺はズレたサングラスを再び上げ直した。相変わらずだが、顔だけは見られたくない。そこだけは譲れないポリシーだ。


「最近よく来てくれますね。マナさんの事が心配なんですか?」


「そんな無配慮に聞かないでくださいよ。別にそんな事.......」


 頭をポリポリと掻いた。単純に古くからの幼馴染な彼女をこの怪しげな集まりに入れたくない、それ以外の理由など持ち合わせていないのだ。


「保護者みたいですね」


「だ、誰が保護者だ!俺はマナを下手な道に進ませたくないだけで」


 猫田さんはクスクスと嘲笑した。この人だけはどうも読めない。天敵という程でも無いが、扱いに困るタイプの人間だ。


「でも彼女なりに楽しんでくれているみたいですよ?この愛好会で」


「そもそもそこが疑問だ。愛好会だと部室なんか貰えないはず。認可されている訳でもあるまいし」


 よくぞ聞いてくれました、と言わんばかりに彼女は不敵に目を光らせた。


「秘密結社ってロマンあるじゃない?」


「何の話だ」


「私達もね。建前は愛好会として地味な風に見せてるけど、本当はきちんと許可も取った部活なのよ」


「ますます読めなくなってきた」


 俺は頭を抱えた。そうでなくとも、この学校はやたらと不可解な点が多いと話題である。意味深な発言をされる方が困るのだ。


「だから、秘密結社みたいな愛好会ってワケ。こんな話を部員以外で語るのは照男君ぐらいよ。毎日の様に来てくれる分、興味持ってくれているみたいだから」


「オカルトなんて嫌いだ!存在しないものをあえて好きになる奴は理解できない」


 急に猫田さんはムッとした顔になった。俺も言い過ぎたと言わんばかりに口元を押さえたが、時すでに遅かった。


「誰がどう考えてようと人それぞれだけど、ここに来たからにはそのような発言は控える事」


「は、はい.......」


 俺の悪い癖だ。一度自分の中で思い込みが確定してしまうとどこまでも止まらなくなってしまう。心の底から反省した。


「ともかく、あなたの言い分としてはマナさんをここから解放したいって事よね」


「そうだ」


 強気に出るも段々と申し訳ない気持ちも込み上げる。そもそも彼女が心から楽しんでいる趣味に対し、俺がつべこべと横槍を入れる資格があるのだろうか。


「できれば諦めてほしいけど、どうしても彼女を食い止めたいなら勝手にするといいわ。好きな事をさせてあげる方が今は懸命な判断でしょう」


「納得は.......できないですけど。分かりました」


 俺は諦めの悪い男だった。彼女自身が幸せだったとしても、本当にそれで良いのだろうかと深く考えてしまう癖があるからだ。


「頭冷やしてきます。それと一つだけ、言いたい事が」


「何ですか?」


 俺自身、認めたくはなかったが思ってしまった以上仕方ない。大きく息を吸い込んだ。


「俺はオカ研と聞くと、あまりいいイメージを持ち合わせていなかった。だけど猫田さんみたいに良識ある人が会長なら、もう少しの間、マナを頼みます」


「誤解が晴れたならいいわ。またいつでも来てね」


「べ、別に来たくて来てやった訳じゃない!覚えとけよ!」


 俺は走って部室を後にした。前述した通り、どうもあの会長だけは苦手だ。サングラスとマスクで隠した隙間から見た事ないほどに顔が赤くなっているのが自分でもわかった。


 オカ研から逃げ出した下校中、偶然にもマナに遭遇した。自転車置き場で空気入れに専念している。


「お前、下校時間過ぎてんのに」


「照男君!少し手伝ってよ」


 手伝うも何も、後輪が見ただけで分かるレベルでパンクしているので手の施しようがなかった。この子は昔からアホの子の気質がある。


「これじゃ空気入れても意味無いぞ。俺の自転車貸してやるからそれで帰れよ」


「いやぁ、でも悪いし」


「いいから。さっさと帰らないと大変だろ。色々と」


 彼女はフフっと笑った。こうして眺めるだけだと普通の高校生なのだコイツは。誰が訳アリだと予想できただろうか。


「一緒に帰ろ?家近いんだし」


「別に俺はいいよ。宿題は教師の目を盗んで終わらせてきた」


「そんな事言わずに、ね?」


 俺は何も言わなかったが、彼女の方から勝手に歩幅を合わせてくれていた。

 つい最近までこんな下校はしてなかったはずなのだ。俺としては青春という響きはどうも苦手だ。極端に田舎臭い田んぼだらけの通学路は虫と鳩のの鳴き声が聞こえる以外、静かだった。


「そのサングラスとマスク、久しぶりに取ってみようよ」


「やめろ馬鹿っ!もし仮に通行人がいたらどうする!?」


「何でそんな嫌がるの?私からしたら美形なのに」


「無理なものは無理だ!ちょっ、やめっ.......!」


 魔奈こいつがオカ研に入るのを断じて許すつもりはないが、しばらくはこの辺で勘弁してやろうと思ったこの頃だ。

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