表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

転生したらデニムでした。

(ハイ横合いからトラックがすっ飛んできましたー! 私はもうすぐ死ぬでしょう……!)


 その精神実況の0.2秒後、私は乗っていたチャリンコごとトラックに吹き飛ばされていました。

 一瞬だけ、電波の悪いテレビのように意識をシャットダウンさせていたのですが、意識が戻ったとき、不思議と痛みは感じられませんでした。


(というかイヤに意識がハッキリしていますね~。身動きは取れないようですが)


 トラックに轢かれたなら当たり前でしょうね。と、あたりが騒がしくなってきました。交通事故ですからね。誰かが救急車を呼び、あとは「大丈夫か!?」「これはひどい……」系統の台詞が飛び交うばかり。


 その中に、白いシャツとデニムのジーンズというそっけない格好の美人がいました。私の意識は完全に彼女に囚われていました。おお、正面なのが惜しいですが相も変わらず素晴らしい体躯の持ち主ですねー。


 ここいらで自己紹介しましょう。私はストーカー(♀)です。なんと、私がずっと付け狙っていた相手がわざわざ私のもとまで駆けつけてくださったではないですか。なんと喜ばしい。まあ向こうさんは私のことを知らないでしょうけどねー。つけてましたと宣言するのをこらえた甲斐がありました。


 ええ、はい。私はずっとあの方のジーンズに包まれたお尻を追いかけていたのですよ。文字通り。チャリのペダルから時折気持ちよく浮き上がるお尻……ああ、もし背を向けたなら手を伸ばしてそのお尻にタッチをば頬ずりをば……。

 ま、それでもってトラックにぽーんなわけです。つまり私の事故の責任はおねーさんにもあるのですよ。聞いてます? まあ、口が動かないから伝えようがないのですがね。


 ぴーぽーぴーぽーうるさいですねの救急車のご到着。当然、私の身体が運ばれるわけでしょう……って、おいおい隊員ども私の前を横切りやがったじゃないですかーおいこら社会人になっても税金払ってやんないぞー。


 ブーたれた私はやれやれと視線を隊員たちに向けて……そこで私は見てしまったのです。担架に運ばれる血みどろの私自身の遺骸を。


 いやー、マズい。これは非常にマズい。どれくらいマズいかというと、たぶん魂だけになってしまった私が今度こそ昇天するのではという勢いでヤバいですよ……あーくらくら。私スプラッター系は弱いんです。


 私の亡骸が救急車に乗せられた時には、私は貧血の百倍の勢いでスーッと意識が飛んでいきましたとさ。


 ……


 めでたし、めでた……し?


 おはようございます。なんか私、目がさめてしまったようです。

 ここはどこですか? 地獄ですか虚無ですか? だから何も見えないのですか?


 いや、視界が明けてきました。だけど何でしょう。私の前に映っているのは……テーブルの下?

 なんと! 正面にいるのは短いスカートを穿いた女性のようですね。いちごちゃん柄、ばっちりとらえましたよ。ぶーい。


 とか言ってる場合じゃない。これじゃ私、ただの変態さんじゃないですか。私はただ、あの人のデニムのジーンズに包まれたお尻に恋い焦がれる清純なおにゃのこですからー……。


 おや、何か話し声が聞こえてきたようです。


「おい、ストロベリーフロートなんか頼むなよ。胸糞が悪い」

「ええーっ! イチゴ好きのあたしに喧嘩売ってるつもり?」


 なるほど、だからあなたはいちごちゃんが好きなのですね。そして、もう一人の声は私のストーカーの対象様ではないですか! まさか、こんな近くで聞くことがかなうとは……。


「……ここに来る途中、嫌なものを見たんだ。私たちと年の近い女性がトラックにやられた」


 あーはいはい、それ私のことです。思わず手を上げようと思ったのですが……

 手、手? 私の手は一体どこでしょー?


 それと私、一つ気づいたことがあります。なんか私、ずっと重くて柔らかいものにのしかかられているんです。ぐえーというほどではないです。せいぜいむぐーくらいでしょう。伝わりますか。伝わってください。


「うえー……それで、そんなひどい顔をしてるのね。まるでゾンビみたいよ」

「そこまでひどいのか……」

「ええ。一度お手洗い行って鏡見てきなさいよ」


 ああ、と言って彼女が立ち上がります。重さが消えました。ですが、なんとも離しがたい感触は依然として健在のもよう。あ、私の視界がイチゴちゃんから離れていく~! あーなんてこと……っていうか私の意思を無視して私を連れて行くのは誰ですか~!


 私は自分でない意思で喫茶店と思しき内装を進んでいます。まるで一人称視点のゲームに入っているかのようです。ここまでくると、さすがの私も不安と不穏その他もろもろを感じていました。なんか勝手にトイレのドアが開いて、トイレの中に入って、そして見上げると、デニム並みに青ざめた顔のおねーさんが洗面台の鏡に映っています。


 んでもって、正面を見ると……おお、なんだこれ! 洗面台下の扉も鏡になってるじゃないですか! ハイ、おっしゃんてぃー♪


(……………………)


 えーっと、それって、そういうことでいいんですかね?

 いいんですよね? 声高に叫んじゃいますよ私。どうせ叫んだところで聞こえやしないでしょうし……


(私、もしかしてあの人のデニムに乗り移っちゃってるー!?)


 いや、憑依にしたってもうちょっと気を利かせた展開があるでしょーが! なんですか好きな人のデニムのパンツに取り憑いた元ストーカーの女なんて……!


(……………………)


 んー、あー、でもこれはこれで悪くないかも……

 つまりこれってあれでしょ? さっきまで感じていた重い感触はあの人のお尻ってことですよね。そして、すべすべしているこの感触は、い、いとしのあの方の、お、おぱ、おぱ……


「…………ぬあっ!?」


 その方が突然素っ頓狂な声を上げてあたりを見回します。どうしたのでしょう。困り果てた様子でお尻をさすってきます。ああ、もっと撫でて……♪


「なんなんだ……今の」


 焦った様子でトイレを後にして、私の視界は再びお相手のイチゴちゃんに戻ります。

 当然、あの人は椅子に深くもたれかかっています。重い感触再び。だが、その正体を知った私は全身(デニム地)に悦びを感じずにはいられません。ああっ、圧死する。あっしをお尻とおぱんつで圧死させてくだせえ……。


「ちょっと、どうしたの? 今度は顔色が紫になってるわよ」



 …………


「……ふぁ」


 気がついたら私はお昼寝から目を覚ましていました。


 あ、ああ……あれはあまりにも心地の良い夢だったのですか……。なんと名残惜しいことか。


「おっと……そろそろ、あの方が講義を終える時間ですね」


 甘美な夢の続きを妄想のトランクに押し込み、私は自室を出て自転車を乗って駆けだすことにしました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ