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黒い夕闇 -Light Of Day-   作者: SOUTH
悲しみ深すぎて
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第二章 第一話 双極の芽

 ―――――バケマイティス国 東部。

 文化の急成長を遂げた中心部と比べると、少し田舎のような雰囲気に包まれた町。

 この町にとある兄弟がいた。


 「アスト。アルト。降りてらっしゃい」


 ……母の声が聞こえる。どうやら昼寝していたらしい。


 ふぁあと、大きな欠伸を垂れる。

 夕暮れの赤い光が窓から差し込む。


 「アスト、結構寝ちゃってたみたい」


 隣から声がする。


 「……アルト。うん。だいぶ寝ちゃったね」


 “まるで鏡写し”そんな存在が僕の目の前にいる。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 僕達はバケマイティス軍に所属する兵士を父に持つ家庭に生まれた。

 家族は両親と、双子の僕と弟。決して裕福ではないが、温かい家庭に生まれ育ってきた。

 ここ、バケマイティス国では技術の進歩が4大国の中で最も進んでいるとされている。

 技術の進歩……。それが生み出す“恩恵”と“功罪”。生じた格差。

 それは埋められないほどに広がっていた。なれる職業。なれない職業。向き不向き。

 何をすべきかわからないまま15年間生きてきた。




 「またお昼寝なんてしちゃって。お父さんがいたら『さっさと起きろ~!』って叱られちゃうわよ」


 下に降りると、母親が夕飯の最後の支度にとりかかっていた。僕らの大好きなメニューだ。


 「大丈夫だよ。今は長い休みなんだから」


 「そんなの言い訳にはなりません!あのしっかりとしたお父さんからは似ても似つかないわ」


 母親の声が賑やかな空気にこの場を変えてゆく。


 「お母さん似だったりして」


 「なんですって~!?」


 母親が食卓に料理を並べつつこちらにゲキをとばす。


 「ほら、食べちゃうわよ」


 「「いただきます」」


 声が揃った。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ―――――――。

 ―――――――。

 ―――――――。

 ――――――雨だ。土砂降りの雨。

 ―――――――。誰だろう。良く見えない。2人、いや3人?いるのかな。

 ――――。一人は、僕と同じくらいの年齢だろうか。

 もう一人は地面に寝そべったまま全く動かない。

 最後の一人は、なんだか見覚えがあるような。……え?お父…さん?

 その見覚えのある姿は凶器を、その男の子に、向けている……?

 なんでこんな景色を?ていうかこれ戦場?

 お父さんが、雷を纏っている。あれって“ChEチェンジ・ザ・エレクトロン”だよな。

 ……ChE。全身を電子化するバケマイティス軍の限られた兵士のみが使える技。

 まさかお父さんがその使い手だったなんて…ていうことは僕も…。

 いや、そんなことはどうだっていい。

 なぜ父親とあの男の子が戦っているその様子が、こんなにも鮮明に見えているんだ?

 何を言い争っているのか。――――!

 仰天した。そして、絶望した。

 父親の放つ一撃を、彼は右腕を大きな剣に変化させてそれを切り捨てた。

 それが意味するものはとても明らかなものだった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 「―――――」


 「――――――――はぁ」


 最悪な夢だ。肉親の死。それが夢だとわかっていても、その目覚めは決して良いものではない。


 「おはよう。アスト。また昼寝しちゃったね」


 アルトの声だ。


 「……ねぇ、アルト」


 話そうと思った。あの最悪な夢のことを。でも、それはやめておこうと思った。


 「……じゃあ、アスト」


 同じ表情をしていたはずだ。この時の僕とアルトは。


 「……変な夢。見たんだ」


 アルトの発言は、予想できた。

 そして、アルトの語った夢の始終は僕の見たそれと全く同じであった。

 僕らは何故、そのような夢を同時に見たのか。その意味を知るのに、そう時間はかからなかった。


 「なんか凄く気持ちの悪い夢だったね」


 「うん。不吉すぎる」


 額に溜まった寝汗を服の袖で拭きとる。

 僕らは、根拠もわからないその夢に二人して悩まされていた。


 「……そういえば」


 アルトが続けて言う。


 「今日、帰兵の日だよね」


 そうだった。今日はヘマタイティス国へ出兵していた兵士たちが帰還する日だ。

 何もなければ、いつも通りであればお父さんは、ちゃんと帰ってくるはずだ。


 「……大丈夫だよね」


 「……」


 弟の言葉に、アルトの言葉に何も言葉を返すことはできなかった。

 ――――――トン、トン、トン。

 階段を上る足音が聞こえる。その歩みはとてもゆっくりで、どこか沈んでいた。

 ……ドアが開く。そこには母親の姿があった。

 だけど、その姿、雰囲気は普段とは全く違っていた。目に涙をため、体は小刻みに震えていた。


 「……アスト、アルト。……落ち着いて、聞いてちょうだい」


 悲しみが溢れないように、声にならない嗚咽を漏らしながら、僕らに語り掛けてきた。

 そして、口から紡がれる言葉はあの夢が現実だとうなずける充分すぎる証拠であった。




 下の居間に戻ると、聞いていた通りの父親の亡骸があった。

 胴部に大きな刀傷。やはり夢と一致する。


 「……あいつが殺したんだ。……あの男が」


 口から漏れていた言葉は心情を写していた。奴への怒り。あまりに強すぎる怒り、憎悪。

 そしてそれは、アルトも同じであった。


 「ねぇ、アルト。僕は15年間、何も考えず、流されて生きてきたけど、これから何をすべきか。はっきりわかったよ」


 「……」


 アルトはうつむいたまま動こうとしない。


 「僕は、やるよ。復讐する。あの男を見つけ出して、戦って、倒す」


 人生ではじめてこんなにもはっきりとした明確な決意をした。

 ―――――人を殺す。

 殺意。

それが根拠としてどうなのかはわからないけど、それがこれからの僕を突き動かしていく。 

 その未来だけはみえた。

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