第七章 第十二話 In My Defence
闇が続く。深く、深く、どこまでも続く闇。
不安はない。まるで眠ったときのように緩やかに意識は上下する。
浮いて、沈んで。浮いて、沈んで。
そのような繰返しをしていたところで、不意に腕を強く攫まれた。
それはまるで不可思議だ。
だってここに、俺の体はないはずだから。
「レッド」
誰かが俺の名を呼ぶ。
返事はしない。だってできないのだから。
「レッド」
まだ声は続く。
俺も答えない。応えられない。
「レッド」
しつこい。
残念ながら、返事はできないのだ。
もはや、できなくて返事をしないのか。面倒でしないのかわからなくなってきた。
……思考が変だ。普段の自分ならこんな簡潔で怠惰な考え方はしない。
そうか。これは夢だった。
そして思い出してきた。
急激な痛みに襲われて、為す術も無く意識を失ったのだ。
視界の闇は晴れない。
意識がないのか。意識があるのか。
わからない。
思考は徐々に洗練されていく。
「レッド……」
諦めたと思ったが、今までのそれよりも一層悲し気にその声はこだまする。
そしてその声は、悲しみに包まれたまま続けた。
「聞こえてなくてもいい。俺の声を聴いてくれ。俺の声を……。俺は俺でなくなってからどれくらいの月日が流れたのかわからない。知る由もない。見えない体のまま、跪いて手を合わせて神に祈ったよ。どうすれば解放してくれるのかって。俺は、魂を捧げたんだ。後戻りできないなんて思わなかった。すべて無駄だった。いくら祈っても神は、奴は、嘲笑うだけだった。やがて俺の意識は闇に失せた。でもレッド、お前が現れたんだ。俺の前に。あの時、俺は目覚めることができたんだ。でもこの闇の中から抜け出すこと叶わない。奴がそれを赦さないからね。だからレッド。最後のお願いだ。俺を、止めてくれ。俺はもう、人として背負える限界以上の十字架を背負ってしまった。これ以上、人として罪を重ねてしまう前に。俺を、俺を……」
震えたままの声が心を揺さぶる。
そして振り絞られたように出された言葉は、重く俺にのしかかる。
「殺してくれ」




