表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒い夕闇 -Light Of Day-   作者: SOUTH
LOST IN FAITH
64/71

第七章 第七話 少女の目覚め

 暗闇の中を泳いでいたはずだが、いつの間にか光の中に立っていた。 

 懐かしい温もりを感じる。

 目を開くと、そこは夢の中だとすぐにわかった。

 だって先刻まで真っ暗な雑木林の中にいたというのに、ここはどうだろう。

 あたり一面、美しい花々に包まれた楽園のような場所だった。

 これから戦いに行くというのにまるで気の抜けた夢を視ていると嘆息をついた。

 稀に見る不思議な夢だ。夢と自覚し、さらに傍観者ではなく主観的に動作をすることができる。

 休むために眠ったはずなのにこれでは活動しているのと何ら変わらないじゃないかと再度嘆息をついた。

 しかし折角なので歩き回ることにしてみた。

 しばらく歩いたところで正面から強い風が吹いた。

 夢のくせにここまでリアルにするのかと文句を垂れそうになった。

 だが、そんなものは一瞬で吹き飛んだ。

 そう、一瞬であたり一面が暗闇に包まれていったのだ。

 太陽が直視できた。雲に隠れていたとかそういうことではなく。

 太陽が黒かった―――。


 「……」


 目が覚めた。

 うすぼんやりと炎が揺れているのが霞んで見える。

 周りでアストとアルトの話し声が聞こえる。

 物を焼いている香ばしいにおいもする。

 先程まで見ていた夢を思い出すことができない。

 握りしめた拳にうっすらと汗がにじんでいるのを感じる。

 不思議なものだ。


 「あ、起きましたか。レッドさん」


 「うん。そこの女性は?目を覚ました?」


 「いいえ。ぜんぜん」


 そう、と声を漏らしながら話題の女性の方へ目を向ける。

 先刻までは暗闇が視界を支配していたために、その顔の詳細を把握することは難しかったが今ようやく、その顔立ちを目の当たりにした。


 「ずいぶんと痩せこけてみえる」


 素直な感想を口にした。

 緑混じりの肩まであるブロンドヘア。端正な顔立ちに、薄めの唇。飢えによるものなのか少々、頬がこけて血色もあまり良くはないと感じられた。

 寝に落ちる寸前、パレットが衰弱の様子が見られると言っていたが大丈夫なのだろうか。

 

 「無理にでも起こした方がいいんじゃないか?」


 「そんなの絶対ダメ。……本当は輸液とかできたらいいんだけど器具もないし」


 こちらを視ずに反論するパレットの手元を見ると、木の実やら何やらを磨り潰して水と混ぜている。

 それは?と質問する前にパレットが答えた。


 「流動食よ。口に流し込んで直接摂取してもらう。レッド、ちょっと」


 手招きされる。どうやら手助けを求めているようだ。

 俺はパレットの傍らに行き、指示を仰ぐ。

 パレットは手元の医療器具の中から空のシリンジを取り出し、液体を充填した。

 

 「顎を抑えといて、気管に入ったらマズいから……」


 指示通りにする。

 無気力に、わずかに開いた少女の口にシリンジをゆっくり加えてゆく。

 そして注入。

 

 「顎、閉じて。……飲み込んだ」


 頷くパレット。

 どうやらうまくいったらしい。

 

 「これで少しはマシになったかな」


 安心したようにパレットは木にもたれ、腰を下ろして目を閉じ、すぐに眠った。

 一番疲労が溜まっていたろうに……。

 いつのまにか喋りこんでいた双子も健やかな寝息を立てていた。

 余っていた食物を口にし、空腹を満たす。

 ……何時間か経ったか、いやもしかしたら数分かもしれない。

 話し相手もいないし、景色も変わらない。

 思考に耽るのも飽きてきたと思っていた時だった。

 

 「―――ん」


 知らない声。例の少女からだ。

 表情を窺うとわずかに瞼が震えている。

 目を覚ますのだろうか。


 「あった、かい。……ここ、は?」


 想像よりも少し高く、そしてか細い声だった。

 また、ゆっくりと開いた瞼の中に在ったのは、その下にある隈がもったいないと感じるくらい、美しい瞳だった。

 

 「大丈夫かい?」


 怯えないように優しく声を掛ける。

 遅めの反応でこちらの存在に気が付いたようだった。

 

 「私、おなかがすいて、川で」


 虚ろな表情で淡々と声を吐く。

 

 「お腹空いてるなら、ほら」


 香ばしいにおいを放つ食物を差し出す。

 すると、勢いよく少女はそれを口に運んだが、勢い良すぎたのか咳込んでしまった。


 「ゆっくり、ゆっくり。慌てなくても逃げないよ。そいつらは」


 少女は軽く赤面しながら再度、食事を続けた。

 少し落ち着いたところで会話を始めてみることにした。


 「俺の名前はレッド。君を川で見つけて、運んできたんだ。君は?」


 水筒の水を飲みほしてから少女は続けた。


 「私、アン。助けてくれてありがとうレッド」


 「君はイマノティスの人?」


 少女は頷く。

 よし。少しずつ、疑問を投げかけてゆく。

 思考も朦朧としているだろうから、“はい”か“いいえ”で答えられる簡単な質問で。

 一人でここに来たのか、この森に迷い込んでしまったのか、家族はいるのか、すべてYESだった。


 「そっか。君は幾つ?」


 少女の見た目は10代前半に見えた。サラの11歳とか12歳とか、そのあたりに雰囲気が似ている。

 しかし返ってきた返答は予想を遥かに裏切るものだった。


 「は?ごめん、もう一回言ってくれないか?」


 「6つだよ」


 ……6歳!?いやいや、いくら何でも早熟だろう。

 なにか病気の類を疑うレベルだ。

 あまりこの話題は深堀しない方が得策だろう。

 

 「ここに迷い込んでしまったんだよね……。じゃあ一人では帰れないね……」


 しかし、こんな幼い子を連れまわすのも危険だ。いざって時、守るものが増えるのは正直難しい。


 「俺がお守りしますよ」 


 考え込んでいると、横から声がした。

 アルトだ。いつの間にか目を覚ましていたらしい。


 「ああ、この子アンっていうんだ。年は―――」


 「聞いてましたよ。信じらんないですけど」


 「あ、そう」


 「でも可愛いんでOKです」


 「……何が?」


 「……何でもないです」


 アルトは立ち上がりアンの傍らに寄り添う。


 「アンちゃん。アルトお兄さんにすべて任せるんだ。君を絶対、お家に返してあげるからね」


 お兄さん?……ああ、そういうことか。

 アルトは弟だから、なるほどね。


 「アルト、お兄ちゃん?」


 アルトに電撃が走るようだった。


 「アンちゃん。もう一回」


 「? アルトお兄ちゃん?」


 アルトは天高く、その拳を掲げていた……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ