第七章 第三話 故郷、燃ゆ。
「俺はお前に二つのものをやろう。ひとつは絶対服従の命令。そしてもうひとつは命だ。」
男の瞳はどこまでも続く深い闇のように思えた。
―――出口など、ない。
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ミラビリス国、城都―中央城。
トールの記憶が回復してから1カ月ほど経とうとしていた。
そして、この地を旅立とうとする者たちがいた。
「よし、そろそろ行くよ。トール、エリー。また。」
レッド、パレット、アスト、アルトの4人は一度、自らの国へ帰ることにした。
「はい。再会の時を楽しみにしています。……お元気で。」
別れの言葉を交わしたが、この6人は固い絆で結ばれている。
それは決して途切れることはない。
「それにしても勇気がありますね。レッドさんは。」
帰路についてしばらくすると、不意に運転中のアストが語り掛けてきた。
「まぁ、行かなくちゃならないと思うよ。俺が自国を裏切ったということはすでに知られてしまったんだ。手遅れになる前に一度家族に会っておきたいから。」
自らの責任から逃げ出すつもりはないが、どうしても割り切ることはできなかった。
「わかります。大事ですよ。そういうの。」
それからしばらく、沈黙のまま家路を辿った。
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「―――それじゃあ行ってくるよ。レッド。」
反響。残響。
親しみと懐かしさのある声が脳内を反復する。
俺は声を出せない。
ただの傍観者。
どうやら、またあの夢を見ているらしい。
だけど、少しだけ。
少しだけ、様子がおかしい。
サラがいない。家もない。
こんなのは初めてだ。
俺と兄貴だけの夢……。
何か、おかしい。
果ての無い白い世界に、一束の闇が迫る。
やがて、それは総てを貪る。
小さな俺は闇に放り出された。
兄貴も俺から背を向け、遠くへ歩き出してしまう。
行かないで、いかないで、イカナイデ。
オレヲヒトリニシナイデ―――。
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目覚めは突然だった。
「大丈夫?大分うなされていたけれど……。」
隣のパレットが小さな布きれで俺の額の汗を拭きとってくれていた。
「あ、ああ。ありがとう。嫌な夢を視ていた気がする……。」
つい先ほどまで見ていたものは、既に記憶の中から消え去っていた。
「もう少しで国境らしいよ。」
パレットの言葉で目的地の方角を向いた。
そこで、見たこともない景色に気が付いた。
「……空、変じゃないか。」
その景色は、夕方であれば妥当だと思うかもしれないが、なにせ今は真っ昼間だ。
……何かおかしい。この感覚だけが虫の知らせのようだった。
そして、その感覚は間違いではなかったのだ。
「……嘘だろ。こんなの。」
俺の故郷は、一面の劫火に包まれていた―――。




