第六章 第十六話 Go Back Home
偽りの王子が信頼する相手を捜そうと歩み始めて少ししたところで雷の双子と合流した。
「あ、エリーさん。」
アスト君は軽い涙目で私を見つけた。
どうやら彼らも強敵と戦っていたらしい、右肩に荒々しく巻かれた包帯が目に入った。
「そっちも大変だったようね。アスト君、その肩、大丈夫?」
「ええ。なんとか。」
「嘘こけ。さっきまで痛くて悶えていたくせに。」
「黙れこの。」
戦場でも相変わらずの掛け合いに少し心が和んでいた。
「そうだ。二人ともトールを視なかった?それにレッドも。」
最重要なことを忘れてはならない。
あの二人はまだ戦いの最中かもしれない。
「レッドさんの戦いは途中までは見えていたんですけど、自分たちも戦い始めてからは見れていません。というよりいつの間にか見えなくなっていました。トールに関してはなにも。」
双子の回答は当然だ。
戦いの最中に他人を視られるほどの余裕はないだろう。
「そうよね。……トールを捜しましょう。レッドはきっと大丈夫よね。」
「「そうですね。」」
纏わりつく生ぬるい風に何とも言えぬぼんやりとした嫌な予感を抱えながら歩いた。
そして、城都のシンボルでもある中途半端に大きな門が小さく見えたころには私達は森に入っていた。
「こんなところにいます?」
「そうね。……ちょっと、待って。」
偶然目に入った。
向こう側に見える小さないくつもの影。
あれは、虫?
もしかして召喚術?トールがやったの?
だとしたらここまで戦場から離れたのもわかる。
きっとレッドたちを気遣ってここまで来たのだとしたら……。
「二人とも、向こうに小さな虫たちが見える?絶対に触っちゃダメ。虫たちの方から寄ってきたなら頑張って避けて。」
「そんな無茶な、ここまで来てまるで蜂に恐怖感を感じるあの感じを味わうなんて……。」
弟が嘆息を漏らす。
兄がなだめて首肯している様子からすると、少なからずあの双子は分かり合っているようだった。
「きっとトールは近い。まだ敵と戦っている可能性も否定できない。」
ゆっくりと物音を立てないように忍び歩く。
しかし、彼女らはまだ気づいていない。
気付くはずもない。
あの悪い予感が意味することが。
ああ、見つけてしまう。
惨状の現場を、見つけてしまう。
「―――え。」
目に飛び込んできた景色は信じがたいものだった。
二人の男が倒れ込んでいる。
一方は舌を長くしたままうつぶせに。
そして、よく知るもう一方の男は仰向けに倒れ込んでいた。
「トール!」
夢中で駆けよる。
彼の首回りには痣ができている。
状況から察するに敵の下による攻撃で締め付けられたのか。
「トール!トール!……ああ、返事を、お願い。」
何をどうすればいいのかわからない。
「トール君……。」
双子も唖然として悲劇を見つめている。
まさか仲間がこのような状況になっているなんて想像もつかなかった。
確かにトールは新しい力に目覚めたばかりで仲間内のなかでは弱い方だったのかもしれない。しかし決して弱者ではない。
「……とにかく城都へ運びましょう。このままここにいたところで何もできないから。」
冷静な声。しかし細かく震えていた。
三人は動かない一人の仲間を大事に抱えて歩き出した。
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「……眠っていたのか。」
剣の男は目を覚ました。
しかし、この状況をうまく理解することができない。
まず、俺の頭はパレットの腿の上にある。
心地がいい。
瞼を開くとパレットの寝顔が飛び込んでくる。
うん。可愛い。
そして俺の服がない。
正確には俺の上半身にはおそらくパレットが着ていた上着がかけられている。
心なしかいい匂いがする。
……おっと、危ない。煩悩にあふれるところだった。
「パレット。おいパレット。」
このままの状態で声を掛ける。
声に反応し少し瞼が動いた。
「あ、レッド。」
「手当してくれたんだな。ありがとう。」
体のそこらに縫い合わせた後がある。
皮膚の張りを感じる。少しの違和感。
「本当に、心配したんだから。」
「ああ、ごめんな。」
パレットは優しい微笑みを見せる。
「大丈夫?起き上がれる?」
「うん。なんとか。」
俺たちは立ち上がった。
どれだけの時間眠っていたかもわからない。
少し遠くの主たる戦場からももう音は聞こえない。
……パレットを、連れていきたい。
パレットを連れて、城都に戻りたい。
「パレット。一緒に来てくれないか?」
恐る恐る聞いてみる。
この判断が正しいかどうか、パレットのことを思うと正しいかどうかわからない。
しかし、こんな心配を他所にパレットはまた優しい微笑みで答える。
「あたりまえでしょ。誰がその縫合後の抜糸をするのよ。」
「パレット……。ありがとう。」
こうして二人で、戦場をあとにし城都へ向かうことにした。




