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黒い夕闇 -Light Of Day-   作者: SOUTH
CHANGE THE WORLD
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第六章 第十五話 Threads Of Light

 私の近くで止まった足音。

 レッドなの?それとも―――。

 未だに視界は戻らない。

 瞼を開ききる力もない。

 足音の主が私の傍らにそっと近づく音がする。

 もどかしい。

 思うように感覚を働かせることができないことがこんなにももどかしいことだとは。

 身じろぎひとつできないから、すべてを受け容れることしかできない。

 その時だった。

 頬に何かが触れた。

 それはまるで私の顔を優しく包み込むように触れてきた。

 暖かい手―――。


 「……パレット。」


 ああ、レッドの声だ。

 あの戦いは、レッドの勝ちだったんだ。

 しかし、どこかレッドの声に余裕はない。

 相当、激しい戦いだったに違いない。

 

 「本当に、すまない。パレット……。」


 どうして?どうして謝るの?レッド?

 

 「……。」


 レッド?何故声を止めるの?


 ―――え?何今の音?

 今、私の隣に倒れた?


 「レ.ッド?」


 少し遅れてから返事が返ってきた。


 「すまない。……相打ちだった。」


 衝撃だった。

 ああ、こんなにも弱弱しい声を聴いたことがない。

 再生がうまくいっていないの?

 だとしたら治療しないと。

 私が、やらないと!


 その戦いはあまりにも熾烈なものだった。

 互いに防御などせず、切る切られるの果たし合いだった。

 力尽きるまで切りあった。

 何度も何度も、倒れるまで何度も何度も。

 そして戦いが終わるころには、もう再生し尽くせないほどに裂傷にまみれた軀が二つ、そこにはあった。

 常人ではとっくに絶命している程度の傷。

 しかし男は、男たちは未だそこに立っていた。

 叛逆の騎士は立っている。

 天を仰ぎ、光の糸を見つめている。

 そして、力を振り絞り愛しの存在の元へ歩み寄る。

 ただ、謝りたかった。

 切られてもなお笑顔を見せてくれたパレットに謝りたかった。

 そして男はそれを成し遂げ安心したかのように倒れ込んだ。

 後のことなど、もうどうでもよかった。

 

 レッドを助けたい。

 今はそのことだけを考えていた。

 そのためにもこの軀は起き上がらなければならない。

 大丈夫。立てる。立たなければならない。

 

 「レッド、レッド!」


 なんとか立ち上がる。

 眼をこすって無理やり霞を取除く。

 そして、傍らに倒れ込むレッドの肉体に刻まれた数多もの傷跡。

 浅い裂傷は再生しているけれど深めの傷はまだ再生されていない。

 そしてそこからの出血が収まっていない。

 今すぐ傷を塞がない限り失血性ショックが引き起こるのも時間の問題だ。

 

 「待っててレッド。今すぐ治してあげるから!」

 

 応急処置を施す。

 再生能の補助のために裂傷の皮膚と皮膚の間を縫合する。

 そして大きな傷の再生が完了したら抜糸し、糸の後の小さな傷を再生させる。

 手持ちのキットで間に合うかどうか。

 見境なく処置するのは非合理的だ。

 より重症な裂傷から処置を行う。

 ちょうど私が羽織っている長いコート。

 これをレッドの下に敷く。

 レッドの服を鋏で裂く。

 もともと服の上からでもわかるくらいの裂傷。

 やはり直接肉体を見ると、その傷の多さに息をのむ。

 まずは仰臥位、太い血管の近くの傷から縫合を開始。

 使用する糸の量を最小限に、だけど確実に傷を処置する。

 ……こんなところだろう。

 次は腹臥位。

 やはり剣士ということか。

 背中の傷は仰臥位のそれに比べて少なかった。

 

 「ふぅ……。」


 糸を断つ鋏の音が響く。

 主要な傷の処置は完了した。

 縫合用の糸ももう残っていない。

 

 「あとは、傷が治ってくれれば……。」


 しばらくは目覚めないだろう。

 たくさんの痛みもあっただろうし、体力も使い切ったに違いない。

 

 「ゆっくり、休んでね。レッド。」


 木にもたれ、レッドの頭を私の膝の上に乗せる。

 木陰と優しい風、葉の擦れる音。

 彼の閉じた瞼、少し安らいだ表情を見ると安心してしまったのか眠気が襲ってきた。

 

 「私も少し、休もう……。」


 木漏れ日がそっと二人を包む―――。

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