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黒い夕闇 -Light Of Day-   作者: SOUTH
CHANGE THE WORLD
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第六章 第十一話 The New Ability

 「そういう風な言葉遣いはやめた方がいいよ。……馬鹿に見えるからさ!」

 「てめえ……。死んで後悔しな!」

 「再召喚!フラジェリーア!」


 不愉快な表情を浮かべる男の目の前に先ほどまで現れていた蒼馬が出現する。


 チッ、と大きな舌打ちが聴こえた。


 「だからよ、そいつで何ができるっていうんだよ。」

 「たった一回攻撃を防いだからって、いい気にならないでよね……。」


 虚勢でもなんでもいい。

 とにかく、あの男には弱みを見せてはいけない。

 弱者を軽んじ、弱さを悪とする。強者のみを正義とし、強さを正論とする。

 きっとそういう思考の持ち主だ。

 つまり、自らが絶対強者にして絶対正義、まるで王のような自尊心の持ち主だ。

 そのような自らの強さに自信しか持たないような男は“同等”を嫌うはずだ。

 弱者が強者に咬み付くには微かな隙を生じさせていくしかない。

 真の強者には通用しないだろう。

 しかし、驕れる者たちには通じるはずだ。


 「ああ?てめぇいい加減にしろよ。その減らず口、二度と開けなくしてやんよ。」


 男の苛立ちは確かに感じる。

 そこから生まれる隙は確かにあるはずだ。


 「だったら早くやってみなよ。どうしたの?ほら……。」

 「―――!!殺す!!」


 今だ。思いついた作戦を実行する!


 「フラジェリーア!……走れ!」


 蒼馬に跨り、僕はあの男から―――――逃げる!


 「おい!てめえ!待ちやがれ!」

 「待てって言われて誰が待つのさ!ほら、おいでよ!」

 「ぜってぇ殺す!」


 敵に背中を向けながらも挑発を続ける。

 僕がこの男と渡り合うためには、この場から少しでも遠く離れる必要がある。


 「待てこら!」


 森に入る。

 城都の門から大分距離をとれた。

 レッドさん、アスト君、アルト君からも離れることができたはずだ。


 ここで、フラジェリーアの足を止め、愛馬から降りて男を待ち構える。


 「……なんだよ。追いかけっこもここまでか?ああ?」


 男は軽く息を切らせながらも、その高圧的な口調は変わらない。


 「逃げる必要がないからね。」

 「何を言っていやがる?」

 「僕はミラビリスの住人だ。」

 「だからなんだっていうんだよ。」

 「僕にはあって、君にはないもの……。」

 「回りくどいんだよ!さっさと言え!」

 「……。刈れ。命を。奪え。命を。」

 「ああ?なにをぶつぶつと。」

 「その羽音は闇に溶ける。故に静寂。誰からも気付かれず、ただ命を刈る……。」

 「おい!てめえ、なめやがって……。」

 「狙うは一瞬。時に紛れ、光を奪う。我らは妬み、嫉み、嫌う。我は讐を忘れない。――――お前の命はもう、終わりだ。」

 「はあ?何を言って―――――ッ!」


 男が左手で首筋を抑える。

 そうして見つめた手のひらには一匹の虫の死骸があった。


 「……殺したね。その子を。」

 「だから何だってんだよ!くどいぞ!」

 「言ったでしょ?讐を忘れないって。」

 「意味が解らな―――――。」

 「しー。」


 人差し指を口元に当て、男に静寂を促す。


 「聞こえない?怒りの羽音が。君に対しての怒りが、君が殺したその命の代償を求めてやってくる……。」


 3秒もなかった。

 先程男が殺めた虫と同じ類の虫たちが数千、数万と男めがけ一気に襲い掛かる。

 そうして、虫たちは男の全身を包み込み、羽音を鳴らしている。


 「命の重さをこれまで考えることがあったかい?暮らしの中で何気なく殺してしまった虫たちと戦争で息絶えた人間。果たしてこの二つにはどのような違いがあったろう。」


 羽音が大きく、この声が男に届いているかはわからない。


 「それは、同種か否か、だ。善良な人間であれば同じ人が殺されたと聞けば心を痛めるだろう。なぜならそれは意思があり、その人間にも人生があったのだろうと同情するからだ。しかし、虫に同情する人間など相当優しい心を持つものか、自らを虫と信じる人間くらいだろう。」


 虫たちは未だに男のもとへ集まってくる。


 「怒りが聴こえるか?恐怖が聴こえるか?それを感じるか?お前に奪われた小さな命をこんなにも多くの命が嘆き、悲しみ、そして憎しみをお前に感じている。復讐を忘れない。必ず成し遂げる。僕は彼らにその力を与えただけ。」


 僕の体内で精製した毒をその虫たちを介して敵へ流しこむ。

 それが、ミラビリスの血を引くものとしての能力。

 敵国の人間にはこれが通じる。

 通じるはずだと信じていた。


 「邪魔だぁーーーー!」

 「―――!?」


 男は舌を鞭のように振り回し、体に付着した小さな命たちを振りほどき殺していく。

 ……なぜだ!?なぜ生きていられる?

 即効性のはずなのに、……いや効き目はある。

 実際、男の眼は充血し眼窩からは流血。

 全身の皮膚からは蕁麻疹、紅斑が出現。

 口元からは吐瀉物。

 呼吸も浅い。

 だというのになぜ立っていられる?

 これは再生能力があったとしても生命活動の維持は困難のはずだ。

 これは男の地力……。

 なんてやつだ。


 「へへ、戦いはこれからだぜ。」

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