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黒い夕闇 -Light Of Day-   作者: SOUTH
CHANGE THE WORLD
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第六章 第八話 Change To Evolve

 「究極の生命体だろ。もはや……。」


 究極の生命体。アルトの放ったこの言葉がこの状況を端的に表していた。


 「……もう一回。……もう一回ィ!」


 上半身裸の狂人が飛び込んでくる。

 細長い図体。浮き出たあばら骨。

 余分な脂肪や筋肉は必要ないと言わんばかりに痩せ細った体。


 「アスト!どう倒す!?」

 「わからないけれど、とにかく倒す!」

 「アハハハハハハハハ!」


 

 雷の双子は幾度も男を殺した。

 一回は雷を纏った手刀で喉元を切り裂いた。

 一回は雷を纏った拳で肉体を貫いた。

 一回は雷を直接心臓へ流し込み、その拍動を停止させた。

 一回は、一回は……。

 


 何回殺した?何回雷を流した?一体何回、これを繰り返す?


 疲弊が心身を満たす。

 目的もなく走り続けることは極めて困難だ。

 双子は今まさに終わりのない道を誰からも止めてもいいと言われることもなく、ひたすらに走り続けていることと同じ状況にある。

 次第に、挙動のすべてが鈍くなる。

 雷も思い通りに放つことができない。


 「あれぇ?もうおしまいなの?へへ!つまらない!つまらない!」


 狂った声が耳を障る。 

 土足のまま耳道に入り込み、鼓膜を蹴り上げてくる不快な声。

 耳を塞ぐこともできぬまま、奴の挑発をその身に受ける。


 「こんなの、反則だろ……。」

 「刈ること能わずその命……。ただのヘマタイティス人じゃない……。」

 「えへへ!ボクは精鋭隊だからね!強いんだ!いいでしょ!?」

 「……。」


 双子は言葉を発しない。

 いや、それ以上言葉を発することができなかった。

 思考が消耗に対して真っ先に中止した選択が沈黙だった。


 「あれぇ!?しゃべれないのかな!?アハハハハハハハハ!」」


 すでにアストはどうでもよくなっていた。

 聴覚も声も今はいらない。

 とにかくあの変態の命を仕留めることだけに意識を集中させていた。

 そのためか、その瞳は未だに猛禽のごとく鋭く、狩りを諦めてはいなかった。


 「えへへ……。じゃあ今度はボクからだ!」


 男が突撃してくる。

 その突進でアルトが吹き飛ばされる。

 為す術なく、そして力なくアルトは地面を転がる。

 アストにも抜かりなく攻撃してくる。

 男は回転しながら、その長い腕を鞭のように撓らせ数回アストをたたきのめした。

 口の中からの出血か腹部を殴られたことで消化器から出血したのかわからないが、彼は口から血を噴出した。


 「うわぁ!君の血だ!綺麗だなぁ!!アッハーーーー!」


 狂っている……。相当に狂っている。

 だが、その強さは本物だ。

 決して自分たちの実力に驕っていたわけではない。

 だけど、自分たちが弱いとも思ってはいなかった。


 「君の血、君の肉、すべてがおいしそう……。食べられてボクになって……。」


 男の手がアストの両肩に置かれる。

 そしてそれは万力のように抑え込み脱出することも叶わない。


 「な、なにを……!」

 「いただきまぁす。」


 男の開けた大きな口。

 全ての歯がまるで犬歯のように咬み切るだけのものだった。

 次の瞬間。感じたこともない痛みが右肩を襲う


 「――――――!!」

 「君の肉は、味わったこともない味ィ……。オイシーーーーー!」

 「アスト!!」


 右肩の肉を食べられた。骨も少し持っていかれたかもしれない。


 「このまますべて、食べてしまいたい!えっへーーーーー!」


 視界に靄がかかる。右肩の激烈な痛みは引いていかない。

 傷口に当たる風。流れ出る血液。麻痺する右腕。


 「ソッカァ、君は再生できないんだァ……。じゃあ、食べてもイミナイネ。」


 食べても意味がない?その意味が分からない。

 まるで、人肉を食べることで再生能力が向上されるとでも?

 いや、それなら辻褄が合うのかもしれない。

 一人単位の再生能力と複数人単位のそれであるなら、蘇生以上の力を発揮したというのも可能な話なのかもしれない。

 しかし、そのような道理が通用するのか?

 ありえない。

 しかし、このありえないは信じたくないという意味だ。

 この世界は広い……。通用しないと信じるものが通用する世間があるのかもしれない。


 「僕の肉はおいしかったのかい……。それはよかった。」

 「もっともっと食べテイタイ!もっともっと食べサセテ!!」


 男は僕の肉を食べた。

 再生能力のない僕の肉を食べた。

 雷を操る僕の肉を食べた。

 雷を操ることのできない者が、雷を操る者の肉を食べた。

 雷の溜められた肉を食べたのだ。


 「……ボゥ!!!」


 男は体の内部から爆発したかのように声を出した。

 その影響で奴が僕を抑え込んでいた力が一瞬弱まった隙に拘束から脱した。


 「ナンデナンデ?」

 「胃に穴が開いたんだよ。火傷して潰瘍になって、とんでもない痛みだったんじゃないかい?」

 「アスト!」

 「ああ、ここからだ。そしてこれが最後のチャンスだ。」

 「うん。わかっている。これでだめなら、きっとこの先も乗り越えていけないから!」

 「最後の切り札だ!」

 「「CHANGE TO EVOLVE!!」」


 彼らは雷の世界を創造する―――――。

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