第六章 第七話 Ain’t Good Enough
挙を掲げる。
双子の拳から放たれた雷が天を穿ったのか。
雲上から下る雷が天を穿ったのか。
それは誰にもわからないし、わかる必要はない。
なぜなら、この双子が放つ電撃の総量がそのような思考を一掃するからだ。
「えへへへへへ!すごいすごい!一杯!楽しいーーー!」
「二度と笑えないように、肺ごとすべてを焦がしてやる!」
もしもこの光景を一般の市民が見たのなら、この膨大すぎる電撃を見たのなら、死の恐怖に震えあがり、怯えることは間違いない。
心臓の電気刺激は外部からの電撃に干渉され、それがより大きな電撃であれば心臓は問題なく停止する。
人々はそれを理解している。本能に刻み込まれている。だから、落雷を恐怖するのだ。
しかし、この狂人はどうだろう。
恐れおののくどころかこの状況をまるで心底より愉悦している。
その余りに露骨すぎる“違和感”、“異物感”にこの双子は“恐怖”していた。
世界の理として“異物”は排除されるべきだ。
その異物はやがて不快感へとすり替えられてゆく。
そして、双子は焦燥感に駆られる。
何も焦る理由はない。何も急ぐ理由はない。
なのに、勝利を焦ってしまう。
「「轟け!」」
巨大な電撃が放たれる。
双子を中心として、その周囲の地面はまるで半月のように抉れた。
本来この技は多数の敵を相手にしたときのための技。つまりは範囲攻撃。
単体の敵を相手にしたときには、本来の実力以下の攻撃力となってしまうが、それでもなお、攻撃の後の地面がその凄まじさを表している。
「―――――。」
数秒の間、土煙が視界を塞ぐ。風がそれを浚った後。
双子は勝利を確信した。
「やりすぎたかな……。」
視界に写ったのは、上半身を跡形もなく吹き飛ばされ、いや分解され男の臍部から上がない。
下半身だけがそこにはあった。
しかも、その下半身は自立し数歩ほど歩いた後、膝から倒れた。
「最期まで気持ち悪かった……。」
「死人を悪くいうものじゃないぞ。」
「へいへい。……え?」
「どうかした?」
「いや、見間違いじゃ、ないよね……?」
弟はこの世のものじゃない物体を見つけたかのような、思考が追い付いていない様子だった。
「ありえない、ありえないって……。気持ち悪すぎるだろ……。」
その震えた声に尋常ではない恐怖心を感じた。
思わず、先刻絶ったその命のあった場所を見る。
そして、アルトと同じ感情を抱いたのだろう。
僕の口からも同じような震え声が漏れ出ていた。
「ああ、あれはありえない。あんなの人じゃない!」
下半身だけだったはずだ。
途切れたはずの腰椎が伸びている。
そして、それは胸椎となり頸椎となる。
むき出しとなったまま神経が伸び垂れ下がっている。
やがて血管が内膜、中膜、外膜と新生され、細胞が取り囲み組織となる。
脆弱な筋肉が皮下組織、真皮、皮膚と重層する。
「……再生した。あの状態から……死んだ状態から、再生した!」
「もはや、再生の域を超えているよ……。そして蘇生すらも凌駕している……。」
やがて死体だったものは生体となり、何事もなかったかのように平然と立ち上がる。
「えへへ。もう一回遊べるね!」
あまりの衝撃に目を覆うこともできなかった。




