第六章 第二話 On The Road
「エリーもずいぶんと大きなことをやってのけたんだね。」
「レッドさん。」
「もう呼び捨てでいいよ。トールも話を聞いたよ。召喚できたんだって?」
「はい!ついに成し遂げました!」
エリーの演説が終わって数時間。
まだ街頭の人たちの興奮は冷めやらない。
「俺も、もっと頑張らないと。」
「レッドは、この後はどうするつもり?」
「迷っているんだ。このままここでこの国を見守りたいというのもあるし、自分の町へ戻るべきなのではないか、という気持ちもある。」
この国はたった今、世界の希望の光になったと同時に、世界の腫物として排除されるべき対象となったのも事実。
俺にできることと言えば、それは。
「うん。今決めた。もう少しこの国に残って世界を見たい。アスト!アルト!付き合ってもらえないかな?」
「もちろんですよ。このアスト、レッドさんあるところいつでもはせ参じます。」
「うわ、そういうこと言って後で後悔しても知らないよ。そういうのは後になって撤回しにくいんだから、ちゃんとものを考えてからしゃべらないと――――。」
「早口だな!あとお前に言われたくないわ。……とにかく!僕らはとことんレッドさんについていきますよ。」
「まあ、うちの兄貴がこう言っているんで、そういうことにしておきますよ。」
「頼もしい限りだよ。ありがとう。二人とも。」
俺には恵まれすぎている仲間たちだ。
「それじゃあ、引き続きこの5人で、頑張っていきましょう!」
エリーが全員を鼓舞する。この国を変えたチームは、これから世界を相手にする。
その過酷さ、厳しさは全員わかっているはずだ。
それでも、誰一人としてその表情に迷いの影などはなかった。
「……。」
「レッドさん。隣いいですか?」
バルコニーで空を眺めていたところに、アストがやってきた。
「ああ、どうかしたか。」
「この半年間。今日のためにといっては何ですが、たくさんの辛いことを乗り越えてここまできました。」
「うん。」
「アルトも相当苦しい思いをしてきたはずなのに、泣き言言わず僕についてきてくれました。」
「いい兄弟だと思う。お前たち二人を見ていると。」
「レッドさん、兄弟は?」
「兄がいた。そして妹がいる。」
「いたって……。」
「行方不明なんだ。もう4年になる。音沙汰もなしに。どこかでくたばっているのか、かろうじて生きているのか。誰にもわからない。」
「……信じていますか?」
「……さぁ。」
「妹さんの方は?」
「今年で14歳だ。色々と心配もかけてきた。実際、今も心配させていると思う。何も言わずに、出てきたから。」
「僕も、お母さんを一人にしてきました。一応、お世話になった人に母さんのことを気にかけてもらえるようお願いしましたけど、やっぱり心配です。」
「後悔は、ないか?」
「それはないですね。今は、ないです。」
「そうか。俺たちにはやるべきことがある。この道の彼方にある理想を手にするために、今は進むしかない。」
「いつか空と交わる日が来ますかね。」
「きっと来るさ。雲ひとつない青空が待っている。」
選んだ道はきっとどの選択よりも激しく、嵐のような日々だろう。
だけど、夢という舟を沈ませるわけにはいかない。
だけど、その舟を漕ぐことを諦めることもできない。
俺たちが成し遂げようとしていることは、そういうことなのだ。
「さぁ、夢が待っている。軽く手合わせでも頼もうかな。」
「勝てませんって!」
「じゃあ、二対一だ。」
「うおっ、アルトいつの間に。」
「いいぜ。二人ともかかって来い!」
出逢った時とは違う。この三人には固い絆が存在している。
互いを信頼しているからこそ、笑顔を見せあうことができる。
途切れることなど決してないのだから。
「おい、遠くに見えるあれはなんだ?」
ミラビリス国国境。
「あれ……全部人じゃないか!?」
「嘘だろ!?今すぐ城都へ!」
「ああ、また戦いが始まるぞ……。」
最初の試練が訪れようとしている。




