第六章 第一話 We Are Alone
ミラビリス国の宣言から一夜明けたヘマタイティス国エドタイル地域。
「……レッド。」
レッドがこの町を離れてから、すでに5日経とうとしている。
「どうして話してくれなかったんだろう。今どこにいるの……?」
レッドがおかしくなった、というよりも戦いに意欲的に参加しだしたのも半年前のあの一件からだ。
―――――5日前。早朝。
「レッド!」
「……パレット?」
「どこに、行くの?」
「……。約束を果たしに行くんだ。止めないでくれ。」
「私も行く!」
「だめだ!パレットはここに残ってくれ。」
「いや!」
「頼む!サラの為に。ここに残ってくれ……。」
「サラちゃんの名前を出すのは、ずるいよ……。」
「すまない。」
「レッド!」
私には、止められなかった。
夜毎、布団のなかで恐怖に煽られる。
このまま、彼が戻ってこなかったら。そんな事ばかり考えてしまう。
「―――――ット!パレット!ちょっと聞いてる?」
「あ、フォンちゃん。ごめん聞いてなかった。」
「もう、パレットらしくないよ。彼氏がいなくなって結構経つのに。」
「なっ、彼氏じゃないよ!」
「心配なのはわかるけどさ。今は信じて待つしかできないじゃん。一番アイツのこと信用できるのはパレットしかいないんだから。ね?」
「うん。ありがとう。フォンちゃん。」
「下ばっかり向いていたらせっかくの美人が台無し。」
「もう、なに言ってるの! ……それでさっき言おうとしてくれていたことって?」
「そう!それが、これ見てよ。」
いったいどこから持ちだしてきたのか。
フォンちゃんは二人を挟んでいる机に今朝付けの新聞を持ち出してきた。
“ミラビリス国革命派勝利!世界から戦いの根絶願う声明発表”
「こんなことが起きていたんだ。」
レッドがいなくなってすぐにこんなことが起こるなんて。
……まさか、ね。
「ねぇ、どう思う?」
「どうって、何が?」
「革命派が勝利したってことは今はまだ国の新しい体制が確立されていないということだよね。」
「……嘘。」
嫌な予感がする。
「攻め込むなら今ってことよね。……まぁ、上の人たちが考えることだから私達はそれに従うだけだけど。」
戦争を根絶したがっている人たちに対して戦いを仕掛けるなんて……。
そんなことがあっていいの?
嫌な予感はことごとく的中した。
あくる日、高等部の学生が校庭に集められた。
そして、あの時同様に教官がその声を響かせる。
「知っての通り、一昨日の朝ミラビリス国が革命声明を発表した。国の上層部は、攻め込むのは今が好機と考え、全戦力を投じ総力戦を行うはこびとなった。全戦力、それらには当然君たちも含まれている。……凱歌の鐘を響かせよ!」
大人たちの考えることはよくわからない。
ミラビリスの人が言っていることはきっと正しいはずなのに皆それを押しつぶそうとする。
誰もが、何が正解で何が間違いなのか言い出せないんだ。
何百年と莫大な期間をかけて築き上げられてきた伝統。
それで私は、いや私たちは気付いているはずなのに声を出すことができない。
誰かが言い出せば、耳を傾けてくれると分かっているのに……。
「誰か、どこかで……。」




