第五章 最終話 RISING SUN
「準備はいい?」
次の日の早朝。アスト君から聞いていた例の機械。唸りを上げてたたずんでいる。
「これを回収するのに皆より1時間も早く目覚めたんだよ。少しは労ってほしいね。」
「何を偉そうに、ろくに運転もできないのに。」
「ぐぅの音も出んなぁ。」
朝からこの双子は相変わらずである。
「来て、サリー。」
白馬が登場する。僕はこれに乗って城都まで向かうのだ。
「よし、エネルギーも満タンだ。いつでも行けますよ。」
全員の視線がエリーに集まる。
「行くよ!私についてきて!」
白馬と機械が荒野を駆ける。
「トール!気持ち!大丈夫?」
僕の前で前を向いているエリーが大きな声で僕に問う。
「大丈夫だよ!心配ご無用!」
「それはよかった!」
僕は、大丈夫だ。落ち着いている。
目の前にエリーの背中があるっていうのもあるかもしれないけれど今はとても安心できている。
「このままいけば夕方には城都に着くはずよ!」
少し離れたところにいるレッドさんたちにエリーが声をかける。
レッドさんは親指を立てサインを返してくれた。
「サリー、頑張ってね。」
エリーが白馬のたてがみを撫でる。
日がすっかり沈みかけてきたころ、視界の遠くに巨大な城を捉えることができた。
「見えてきた!城都よ!」
「丸々半日かけてようやくか。ついに、ここで。」
戦いが始まる。
夜になってから、手筈通りに作戦を決行した。
「敵襲だ!敵は城外で暴れているらしい。止めに行くぞ!」
「……やっぱり中央城の警備は普段よりも手薄になっている。遠征の後だし、外ではレッドさんたちが大暴れしている。この隙に行くよ!トール!」
「よし!」
この戦いで僕なりの形を残す。未来のために、ひいては世界のために!
「この場所にいると吐き気がするわ。大人たちの腐ったにおいがする。」
「変えようエリー。この城を、この国を!」
「そして世界もね!」
大きな扉を開く。そこにいたのは……。
「やあ、久しぶりだね。偽りの王子さま。」
「あなたは……。あの時の神様……!」
神様?なんなんだ一体。この人は―――!!!。
「……お父様。」
視界に飛び込んできたのは王の生首……!
部屋中に飛び散った鮮血。ついさっき、殺されたんだ。
「あなたがやったの?神様。」
「そうだよ。死ぬ間際の断末魔は情けなくて聞いていられなかったなぁ。」
神と名乗る少年は王の首をまるで玉遊びをするかのように投げて捕って投げて、を繰り返している。
「どうして……こんなことを?」
「だって、どうせ君たちにこの人は殺されるんだし、僕がやったってよかったじゃない?」
「それは……。意味がまるでわからない。理由はそれだけではないでしょう?」
エリーは先ほどから身構えている。
「まあね。ちょっと遊ぼうよ。殺す気で、かかってきなよ。」
「トール、気を付けて、こいつは本気でやばい……。」
エリーの言葉からは恐怖が感じられた。
本当にこの少年が……?
「来て!サリー!行って!」
白馬が召喚され、一気に勢いをつけ突進を仕掛ける。
「へえ、馬ね。」
激しい音。サリーが少年に衝突した音だ。
「……。サリーが、負けた。」
隣のエリーがつぶやく。
そして、視界に在ったサリーの姿が光となって消え失せた。
「ねぇ、こんなものじゃないでしょ?王子様はここまででも、そこの希望の子。君はどうだろう?」
「希望の子?僕のこと?」
「君以外いないじゃない。まだ覚醒の兆しは見えないけれど、……うん。無理やり、やろうか。」
奴の言っている意味が解らなかった。
覚醒の兆し?昨日エリーが言っていたきっかけのことか。
そして、奴は無理やりと言っていた。何をするつもり―――――。
「う、うう。」
隣のエリーが唸り声を上げた。
奴からの距離は十分にとっているはずなのに、まるで首を絞められているかのようだ。
「エリー!エリー!お前!何をした!」
「軽く首を絞めているだけさ。だけどこのままだと、呼吸もできなくなって死んじゃうかもね。」
「やめろ!やめてくれ!」
「やめさせてみなよ。頼まれてやめるほど神様だってお人よしじゃないんだ。」
「エリー!くそっ、どうしたら……。」
やめさせるということは奴を倒せっていうことか。そんなの、できっこない。
「ト、-ル。」
「エリー!」
「戦った、ら、……ダメッ!逃げ、て。」
「エリー!」
このまま戦うことを諦めちゃエリーが殺されてしまう。
だけど、どうする。どうすればいい。
「さぁ、希望の子は覚醒できるのか。それともこのまま希望を咲かせることができないのか。」
「あ、ああ……。」
「エリー!」
「力の込め具合が難しいんだ。」
「やめろ!」
「ほら、早くしないと。」
僕には何ができる?何ができるんだ。それでも何かしなくちゃ。
母さんのような電撃。エリーのような召喚術。
この二つができたなら僕にも勝機があるはずだ。
頼む。最初で最後のチャンスなんだ。応えてくれ!
「エリーを!助ける!」
―――走れ稲妻。駆けろ。その馬蹄を鳴らせ。曇天を揺らす閃光よ。その姿を表せ!
「ああ、やはり希望の子だ。」
目の前に現れたのは、体に雷を纏った蒼い一角獣だった。
「現れて……くれた。」
「これが、君の真の力か。」
「やるぞ。放て!」
一角獣の角先から青い電撃が放たれる。
「これは未来が楽しみだ。……今日は帰らせてもらおうかな。」
電撃が少年に命中した。激しい光が周囲を包む。
「う!」
あまりの眩しさに眼を閉じる。
再び眼を開いたころには、あの神の少年は姿を消していた。
『今日は大人しく帰るよ。次に会えるときを楽しみにしているね。』
「声!?どこから!?……エリー!大丈夫か!?」
「うん。大丈夫。ありがとう。」
エリーは咳込みながら答えてくれた。
「それよりも、ついに呼び出せたのね。あなただけの召喚獣を。」
「ああ、やっと会えた。」
「名前をつけてあげなさい。あなたの相棒よ。」
「名前……。こいつの?」
本当に自分が呼び出せたのかと疑問に思うほどに美しく、強靭な肉体をもつ一角獣。
こいつの名前……。
「……フラジェリーア。お前の名前はフラジェリーアだ。」
フラジェリーアと名付けた蒼き一角獣はまるで僕の心の奥底を見つめるかのように、真っすぐに瞳を見つめてくる。
そして、フラジェリーアはなにか満足したかのように光を放ち消え去った。
「これからよろしく。フラジェリーア。……エリー、サリーは大丈夫なの?」
「ええ、平気よ。あのまま現界させ続けていたのなら結果は違ってきていたのでしょうけど、なんとか無事。」
「そっか。よかった。」
「ええ。あなたも強くなれた。」
「形はどうであれ、目的は完遂できた。エリー。それで、このあとの方針は?」
「うん。私が王位を引き継いで、この国の王になる。そして、全世界に宣告するの。戦争はもうやめましょうって。」
「なるほど。とりあえず今はレッドさんたちと合流しましょう。」
「そうね。」
「レッドさん!」
「終わったのか?トール君、エリーさん?」
「はい。終わりました。何もかも。」
「アスト!アルト!戻って来い!」
「いや、人をペットみたいに扱わないで下さいよ。」
「来るのはや。」
「とにかく今は城に入って休みましょう。明日の朝、市民の皆に説明をします。」
「この国の新たな夜明けということですね。ミラビリスの夜明けは近いぜよ。」
「ちょっとアルト、お前マジで何言ってんの?」
「自分でもよくわからない。」
「ふふ。とりあえず今はゆっくり休みましょう。案内します。」
翌日。エリーは新たな国王として、国民の皆に紹介された。
そして、世界から戦いを根絶させるべきと主張し、ミラビリス国は今後一切の戦闘行為を認めないとの声明を発表した。
その声明が意味するもの。それは全世界からの標的となることを表していた。
しかし、少しずつ、そして確実に世界は変わり始めていた。
第五章 完




