第五章 第四話 絶望
「来て!サリー!」
エリーの合図であの白馬が召喚された。
しかし、サリーとあの大熊では体格差が明らかすぎる。
「エリー、なにか作戦でも?」
「……。」
どうやらないようだ。
「サリー!行って!」
サリーは加速をつづけながら大熊の周りを駆けまわる。
「ちょこまかと……。やれ!」
バクタさんが大熊に指示を出す。
「避け続けてサリー!」
サリーもうまく躱し続ける。
「トール!奴を攻撃して!こっちは二人いるの!」
「わかった!」
懐からナイフを取り出し、バクタさんの元へ向かう。
「はああ!」
バクタさん目がけ刃を振るう。
――――感触は十分だった。確かに肉体に突き刺した感触――――。
しかし、突き刺した対象はバクタさんではなかった。
「―――――」
目の前には、大きな獣。
僕が攻撃したのは大熊だった。
「トール!そいつから離れて!はやく!」
「え―――――。」
体が浮いている?ここは、空中?
地面はどっち―――――
「トール!!」
「あ、ああ。」
体に力が入らない。苦しい。まるで肺の中から空気が無くなってしまったかのようだ。
息ができない。立ち上がることも、何もできない。
……視界が霞んでくる。ダメだ。立ち上がらなければ、エリーを一人にしてはいけない。
「立って!トール!!」
エリーの声も遠くに感じる。
「サリー!!」
エリーはなんとか善戦してはいるが、その実力は明らかにバクタさんの方が上だった。
このまま持ちこたえることができたとしても、いずれかは敗北する。
そうなれば、僕もエリーも殺されてしまう。それだけは、嫌だ!
「ああああ!」
エリーの悲鳴!?
なんとか視界でとらえることができたその姿は、あの大熊に僕と同じように吹き飛ばされた光景だった。
「エ、リー。」
地べたを這いずりながら、エリーの方へ向かおうとするが、うまく体を動かせない。
いくつかの骨や関節がいかれているかもしれない。
だけど、エリーの元へ……。やっと仲直りできたんだ。僕達は、これからなんだ。
頼む。エリーの元へ……。
「―――!!」
「ふん。今すぐ母親の元へ送ってやるよ。」
バクタさんに思い切り右手を踏みつぶされた。
もう痛みは感じられない。
「バ、タさん。な、んで?」
「理由などどうでもいい。今の俺にとってお前らは敵でしかない。おとなしく死んでくれ。」
もう駄目だと思った。僕も、エリーも、このまま殺されてしまう。
覚悟を決めたその時だった。
「「滑稽だな!」」
目の前に雷が舞い降りた。




