第四章 第三話 悲劇
「トール、エリー、会議の時間よ。部屋にいらっしゃい。」
エリーが施設に来て十日程度経過した頃、エリーにとっては初めての抗争運動参加だった。
「母さん。今回はどこへ?」
「城都の中央城よ。」
「いきなり城都!?しかも中央城って……。エリーは初めてなんだよ?」
「初めてなのはエリーだけよ。大丈夫よね?エリー?」
「……はい。大丈夫です。」
そうか。母さんは試そうとしているんだ。
今回の抗争で真にエリーが非情に徹することができるのか。それを確認したいんだ。
「バクタ。今回の作戦の先陣はあなたにまかせるわ。部下たちを引き連れてどんどん攻め込みなさい。」
「承知。」
「私とトールとエリーは後方で敵陣の動きを確認しつつ攻め込むわ。いいわね。」
「わかった。」
「わかりました。」
「今回は特にバクタに負担がかかる。無理だけはしないで、危うくなったら撤退しなさい。」
バクタさんは無言で2本の指でサインをした。
「他のチーム、そして現地の人たちとの協力が不可欠よ。エリーはとにかく周りの観察を怠らないように。」
「はい。」
「さぁ、作戦は明日よ。今日はゆっくり休みなさい。」
「エリー?どこだ?」
エリーと明日の作戦を確認したくて、もう夜だがエリーを探して歩いていた。
部屋にもいなかったので、しょうがなくいつもの場所に向かった。
「……。ここにいたんだ。」
「トール。」
彼女は僕だけの場所にいた。
「気に入ったんだね。ここ。」
「ごめんなさい。どうしても落ち着かなくて。」
「わかるよ。僕も初めての時はそうだった。」
「トールも?」
「めちゃくちゃ怖かった。本当は行きたくなんてなかったんだ。だけど母さんの立場もあったから、震えたままの足でなんとか現場にたどり着いたって感じ。本番はそこからなのにね。おかしな話さ。」
「それは何歳くらいのとき?」
「10歳の頃だね。6年前かな。」
「それは怖いよ。リノさんはなんで連れて行ったんだろう?」
「多分、抗争に連れていくというよりは一人でこの場所にお留守番させることの方が心配だったんじゃないかな?自分の目に届く範囲に置いておきたかったんじゃない?」
「なわけ。」
重たい話題も次第と笑顔が見えてくる。
「ていうかトールって16歳なんだ。」
「うん。この間なったばかり。」
「私、今年で18歳だよ。」
「え?年上……なんですか?」
「いいよ。楽にしゃべって。」
「うん。ありがとう。」
「年上に見えなかった?」
「まぁ、同じ年くらいかなって。」
「はは。これでも、お見合いは何回かやっているのよ。」
「え!?お見合いってあのお見合い?結婚相手をさがす、あの?」
「そうだよ。あのお見合い。」
「え、じゃあ旦那さんいるの?」
「いるわけないでしょう。王子として生きてきたって言ったじゃない。やってくるのはいつも女性。相手の人には悪いことをしてきたわ。真実を話したら相手は去っていくか、逆上するかの2つに1つよ。」
「……そっか。」
「ねぇ、さっきどうしてあんなこと聞いたの?」
「あんなことって何さ。」
「旦那さんいるの?って。」
「別にいいだろ!気になっただけなんだから!」
「ん~?何かな?」
エリーが視界にグイッと入り込んでくる。
「近いよ!!」
「ふふ。年下って知っちゃったらなんか意地悪したくなってきちゃった。ごめんね。」
エリーはウインクをして僕に微笑む。
「なんかさ。エリー、母さんに似てる……。」
「え?リノさんに?」
「うん。ちっちゃい頃とか、よくイタズラされたんだけどその時の表情にめちゃくちゃ似てる。」
「褒め言葉として受け取っておこうかな。」
「ほら、明日も早いんだから。行こう?エリー。」
「そうね。行きましょうか。」
翌日、作戦のために本土へつながる橋を渡る。
朝一番に出発したが、目的地へ着くころには昼頃になっていた。
そして、僕達のチームが現地へ到着した時には、すでに抗争は始まっていた。
「バクタ!先頭へ!」
「承知!!」
バクタさんが勢いよく先陣をきる。
目前に広がる光景は本当に凄まじい。
人と人がまるで二つの荒波のようにぶつかり合い弾ける。
先頭の人たちは必死になって互いを抑え込む。
「どう?エリー。抗争の現場は?」
母さんがエリーに問いかける。母さんの表情はいつものものだ。
「こんな近くで見るのは初めてです。とても圧倒されています。」
「いつかはあなたも率先して参加することになるの。できそう?」
「最善を尽くします。」
「そう。……私達はこのまま全体の流れを見極める。そして攻め込むべき場所を見つけてそこを一気に叩き込む!そうね。トール、今日はあなたが指示を出しなさい。あなたの指示で一気に攻め込むわ。」
「僕の指示で!?」
「そうよ。何年一緒に見てきたのよ。大丈夫、きっとできるわ。」
「……。やってみるよ。」
母さんは戦場の流れを見てきた。僕も一緒になって見てきた。
母さんならどう考えるか。この流れをどう見極める?
期を誤れば他のメンバーが痛手を負う。
一度逃せば、そのチャンスは二度と現れないかもしれない。
間違えるな。良く見ろ。感じろ。そして最大限に考えろ。
「―――――――。」
まだだ。波を見ろ。どこが一番攻め込んでいる?
「―――――――。」
まだだ。先を見ろ。これからどこが動く?
「―――――――。」
「……今だ。」
時は来た。
「今だ!左前方!一気に押し切るぞ!」
「「「おおおおおおお!」」」
僕の合図で後ろに待機していた革命派の面々が一気に駆けだす。
中央城の入り口を守護していた兵隊たちをなぎ倒していく。
「いい間だったわ。トール。さすが私の息子。」
「僕達も行く?」
「もちろん。この流れに乗っかっていくわ。遅れないでねエリー!」
「了解です!」
次々と中央城へ人が流れ込んでいく。
「エリー、一番のお偉いさんはこのお城のどこにいるわけ?」
「ついてきてください。案内します。」
「それにしても本当に広いのね。私達の島と同じくらい大きいんじゃない?」
「それくらいあるかもですね。お城の中でも馬を使うことがありましたし。」
「狂っているわね。」
「母さん。走りながらしゃべっているとすぐ体力切れるよ。」
「うるさい。おばさん扱いしないで。」
「ごめんなさい。」
「もう少しです。あの角を曲がったところです。」
「ついにこの時が来たのね。」
母さんにとっては悲願の成就。父さんのためか、自身のためか。……僕の為か。
とにかく、願いの始まりが今、叶えられようとしている。
大きな扉を開けると、複数の兵と雰囲気のある男が立っていた。
「……エリー。いなくなったと思ったら、そういうことだったのか。」
「……お父様。」
この男がエリーの父親、そしてこの国の王。この男をどうにかすれば。
「城の扉が突破されたと聞いたが、この部屋にたどり着くことができたのはたったの3人か。」
そうだ。真っ先にこの部屋にたどり着くことができたのは僕達三人。
王を囲む兵士は5人……。なんとかなるかならないか。
「私達を甘く見ているのかしら?」
「女2人、子供1人。なにができる?……やれ。」
「は!」
兵士が襲い掛かってくる。
兵士は鉄の剣を携えている。
「鉄、ね。」
母さんが不敵に微笑む。
「二人とも少し下がっていなさい。」
「おおおおお!」
兵士たちが一気に母さんへ切りかかる。
「不運なことね。そんな装備。」
「「――――!!!」」
なにが起きた?母さんの体の周りに雷が走った。
当然、鉄を身に着けていた兵士たちは感電してその場に倒れ込む。
「貴様、何者だ?」
王も困惑を隠せない。
「何者でしょうかね?」
「……ミラビリス人ではないな。」
「それがどうしたっていうのよ。」
「……リノさん!口を塞いで!」
エリーが叫ぶ。その瞬間であった。
「え?」
母さんの口から、……血?
「うそ、いつ?……油断したわ。」
母さんがその場に倒れ込む。咳嗽、喀血が止まらない。
「普通、ミラビリス人同士の戦いではこんなものは通用しないからな。使わないのだが、ミラビリス人でないことが分かった以上、正攻法でやらせてもらった。」
「母さん!しっかりして!母さん!」
眼が虚ろになっている。これはまずい状況だ。
「……。子供。お前には通用しないのか。」
「トール!急いでここから出るわよ!手遅れになる前に!」
気付いたらエリーの近くに白い馬が現れていた。
「3人くらい行けるわよね?サリー!」
「!!!!」
白馬が吼える。
「急いでトール。」
パニック状態のまま、エリーの馬に母さんごと乗り込む。
「母さん!母さん!」
駆けだした馬の上で、ぐったりしたまま動かない母親に必死に呼びかけていた。




