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黒い夕闇 -Light Of Day-   作者: SOUTH
Dust to Dust
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第四章 第二話 Who wants to die

 「もう少しだよ。頑張ってサリー。」


 夜中に城都を飛び出して、もう太陽は真上にある。

 この子にも相当無理をさせている。

 


 ミラビリス人の固有能力。

 その一つは解毒の作用で、私たちには毒などの攻撃は効かない。

 そしてもう一つ。

 それは、召喚術だ。

 人それぞれ能力値にバラつきがあって、当然スケールも異なってくる。

 一番簡単で、召喚の登竜門とされているのは昆虫系の召喚だ。

 それができたら、その昆虫の内部に病原体を忍ばせる。

 それを放ち攻撃するのがミラビリス人のやり方。


 そして、私は幸運なのか、血筋なのか。

 この愛馬、サリーを召喚できるくらいの力は持っていた。





 「少しだけ休みましょう。サリー。」


 私自身の消耗もある。どうしても休息は必要だ。


 「……。」


 途中、恐らく抗争の跡と思われる荒地があった。

 王政と民の熾烈な争い。

 無意味とも思われる抗争。人々だって本当はこんなこと望んでいない。

 悪いのはそう、すべて王政の連中。

 民の声を一向に聴きもせず、過去からの悪しき伝統が正義と思い込んで疑うことを知らない奴ら。こんなの、あまりに悲しすぎる。

 

 「やっぱり、変わらなくちゃいけないんだ。」


 サリーのたてがみを撫でる。

 もう王政のせいで、私の肉親たちの愚かな行いで民が血を流すようなことはしたくない。


 「サリー、もう少し進んで町があったら入りましょう。今の私の姿だったら王子とは、ばれないはず。」

 

 今は、女としての姿だ。私が望む自由の姿。


 「行きましょう!」


 サリーに跨り、近くの町へと急いだ。




 「町が見えてきたわね。サリー、一回戻って。」


 主の声にサリーはおとなしく、その姿を光に変え消えた。


 「少し休めればいいな。お腹もすいちゃったし。」


 入った町は城都とは打って変わって自然に囲まれたのどかな町だった。

 食事ができるところをさがして中に入った。


 「いらっしゃい。お好きなところへどうぞ。」


 「こんにちは。」


 お昼はとっくに過ぎていたからすぐには入れたけれど、数人のお客さんは席についていた。


 「ご注文は?」


 「あ、このお店で一番人気なのをお願いします。」


 「はい。かしこまりました。」


 料理が来るまでの間、今日あった出来事を知りたいと思って厨房に注文を伝え終えたフロアの人に声をかけた。


 「あのすいません。」


 「どうかしましたか?」


 「今日の新聞とかってないでしょうか?」


 「ああ、少々お待ちください。」


 「すいません。ありがとうございます。」


 「どうぞ。」


 「ありがとうございます。」


 今日の日付の新聞だ。

 一面の記事に目を通したところで驚愕した。

 

 『王政中央城で殺人事件!被害者は城に仕える執事と十代の貴族の少女。王子が行方不明!依然見つからず。』


 「これ一面に取り上げられている。そうか、王政の不祥事だから。」


 記事はこう続いていた。

 『王政最悪の不祥事。民間の支持率はほぼ皆無か。――――警察は王子を重要参考人として指名手配をする方針。』


 「そんな!?」


 いや、冷静に考えればわかることだ。

 彼女を殺したのは私じゃなくて神様だったとしても、この状況。真っ先に疑われるのは私しかいない。


 「その記事、やっぱり目を引きますよね。お待ちどう様です。」


 「あ、そうですね。はい。ありがとうございます。」


 「お客さん。あなた、そのまま髪の毛長いままの方がいいかもね。」


 「どうしてですか。」


 「髪の毛切ったら王子様と瓜二つじゃない。気を付けた方がいいですよ。」


 「あ、……そうですね。ありがとうございます。」


 「みたところ旅人のようだけど、気を付けて、この先はもっと抗争が激しい地域になる。なんせ革命派の本拠地がもう近いのだから。」


 「そうなんですか?」


 「ええ。隣町にいくと海があるの。そこに大きな橋が架かっていて、それが本拠地の島とつながっている。」


 「そうだったんだ。」


 「とにかく気を付けて、いい旅を。」


 「ありがとうございます。これ代金です。」


 「毎度。」


 もう近くまで来ていた。もう少しで、自由への第一歩だ。

 急いで出された食事を平らげ、町を後にした。


 「来て、サリー。」

 

 呼び声に反応し、愛馬が現れる。


 「行きましょう。夢をかなえるために!」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 「トール君。こんなところにいたのかい。」


 「バクタさん。」

 

 トールの前に現れたのは母さんの直属の部下のバクタさんだった。

 この組織のなかでは一番のタフガイでいつも訓練に付き合ってくれる。


 「今日も少しばかり、体を動かさないか?」


 「うん。やろう。」


 バクタさんはまるで年齢の離れた兄貴みたいな、本当に頼れる人だ。




 「そりゃ!」


 「まだまだ!」

 

 訓練を始めて数時間は経過したか。


 「そろそろ、終わろう。トール君。」


 「はい。ありがとうございました。」


 「バクタ!トール!ちょっと部屋に来て!」


 「母さん?」


 「上司の命令だ。行くぞ。」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 「母さん。どうかしたの。」


 「トール。ちょっと静かにしていて。」


 母さんのいつになく真剣な表情。その視線に捉えていたのは……。


 「……。ずいぶんな歓迎。」


 「当たり前でしょ。信頼もできない人はまず拘束しなきゃ。」


 「信頼も何もないですよね。」


 母さんに拘束されている女性は、どこかで見覚えのあるような顔をした若い女性だった。

 もしかしたら僕と同じくらいの年齢かもしれない。


 「あなた、名前と出身は?」


 「エリー。出身は城都。」


 「王族の人かしら。」


 「まぁ、昨日までは王子をしていました。」


 「ふざけているの?死にたいのかしら?そもそも王族は私達の目の敵なのよ。」


 「知っています。だから来ました。」


 「頭沸いているのかしら?」


 「ちょっと母さん!この子の顔、やっぱり王子そっくりだよ!ほら、今朝指名手配された!」


 母さんがこの子に手をかけようとした寸前のところでなんとか制止した。


 「トール。わかっているの?この子の存在はこの場所に在ってはならないの。」


 「少しくらい話を聞いてあげたっていいんじゃないかな?」


 「……。優しいのね。トール。いいわ。トールに免じて話くらい聞いてあげる。納得させてみなさい。」


 そういうと王子と名乗った女性は口を開いた。


 「私は昨日まで王政のために、男としてできることを尽くしてきました。」


 「それで?」


 「ですが、王政の在り方に疑問を抱くことは決して少なくありませんでした。」


 淡々と話す彼女に、次第に引き込まれていく。


 「国と民の争い。それぞれ掲げているものがあると思います。それぞれの正義が。私にはあなたたちの正義の方が正しいと思った。自由になれると思った。これが私の今ここにいる理由です。」


 少しの沈黙が母さんの部屋を包む。


 「トール。どう感じた?」


 「え?僕?」


 「そう。あなたが決めなさい。この子を生かすか、殺すか。」


 「……。」


 彼女をじっと見つめる。彼女も僕の目を真っすぐにとらえて離れようとしない。

 彼女の言葉が真実か偽りか。

 指名手配を受けてまでここに来たのだとしたら相当の覚悟あったに違いない。

 なにより彼女の目。

 こんなにも真っすぐなのだから、きっと本当のことを言っているはずだ。


 「この子はきっと、嘘はついていないと思う。それに僕達の活動が生んだ成果じゃないかな?王政側の人がこうしてこっち側に来たっていうのは。」


 「そう捉えることもできる、か。しょうがない。」


 「母さん?」


 「いいわ。歓迎する。エリーといったわね。」


 「ありがとうございます!」


 「私はリノ。この組織の幹部の一人よ。他の人には私から話を付けておく。」


 「俺はバクタだ。リノさん直属の部下だ。」


 「そしてこの子はトール。私の息子で物心ついたころからこの場所にいるの。ちょうどいいわ。トール、この子にいろんなこと教えてあげなさい。」


 「え。うん、わかった。よろしくね、エリー。」


 「よろしく。トール。」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 そうして母さんの指示でエリーを施設の主要な場所へ案内してまわった。

 ひとしきり案内し終えて、最後にいつも夜になると僕がいく海岸へと連れて行った。


 「ここが最後、夜になったらいつもここでゆっくりするのが好きなんだ。」


 「素敵な場所じゃない!わぁ、月きれい!」


 「良いとこでしょ。もし夜、僕に用があったら大抵ここにいるから。」


 「わかった。……ねぇトール。昼は本当にありがとうね。」


 「なんのこと?」


 「たぶん、トールがあの場にいなかったら私はきっと今ここにはいなかったと思う。」


「そんな、当然のことをしただけだよ。こちらこそ母さんの言葉きつかったでしょ?気を悪くしたのなら謝るよ。母さんも組織のみんなを思っての言動なんだ。許してほしい。」


 「うんうん。いいの。」


 風が吹いている。優しい風。そっと頬を撫でていく。


 「ねぇ、トール。」


 「どうしたの?」


 「トールはこの戦争のこと、どう考えているの?」


 「どう、か。そうだね。終わらせられるのなら今すぐにでも終わらせたいと思っているよ。」


 「その決意はどこから来るものなの?」


 「……。僕は戦争にお父さんを殺されている。僕が生まれてくる前にね。だからお父さんはきっと母さんのおなかの中に僕がいたことすら知らなかったんだと思うんだ。戦争が僕をこんな気持ちにさせたのなら、僕の他にこんな気持ちになる人を増やしてはいけない。素直にそう思うんだ。」


 「本当に優しいんだトールって。」


 「はは。それ母さんに言われたよお父さんそっくりだって。会ったこともないのにね。」


 「でも、素敵だと思う。その考え方、私にはできない。」


 「そういうエリーは?どうして?」


 「私はさっき言った通りよ。あれがすべて。戦争なんて誰が死にたくて始めたものなのかわからないし、知りたくもないけれど間違っているのはわかるから。止めたいだけ。」


 「そっか。これからきっと長い戦いになると思う。最後まで一緒にやりきろう。エリー。」


 「うん。ついていく。頑張ろう。」




 美しい月夜。固く交わした手と手。

 自由を望む少女と平和を望む少年の戦いは始まったばかりである。

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