外伝 最終話 双子の週末
レッドさんとの戦いの後、僕達は再度イライザさんの研究所に訪れていた。
「本当にいろいろありがとうございました。」
「いや、どうであったにせよ。今の君たちが納得できた結果なら私は何も言うことはないよ。」
イライザさんの優しい言葉にまた心を救われた気がした。
「そうだ。アスト君、アルト君。君たちは学校終わりとか休日は時間あるかい?」
「え?まぁ多分、あるとは思いますけれど。」
「そっか!それで、もしよかったらこの研究所のお手伝いをお願いしたいのだけれど、どうかな?もちろんお給料は払わせてもらうよ。」
思ってもみなかった提案に驚きも隠せなかったけれど、喜びも隠しきることはできなかった。
父さんがいなくなって我が家の収入が厳しくなったのも事実。
なにか学生でもできる仕事をと考えていたところだったから、これは本当に大きい。
「ぜひ!ぜひやらせてください!」
「「おねがいします!」」
「うん。いい返事だね。こちらこそよろしく頼むね。」
そして僕達に任された仕事とは……。
「――――――!」
「頑張ってアスト君!まだまだ!」
「―――キ、ツイ!」
何時間たっただろう。いや、もしかしてまだ一時間すら経っていない?
「君のChEのパワーはまだまだこんなものじゃないはずだよ!」
僕達の仕事は、イライザさんの研究成果の実験台、というと少し聞こえが悪いが間違いではない。
命の危険はないと言われているけれど、こんなにフルパワーの状態を持続させていると……。
ダメだ、もう持たない……!
「どうやらここまでみたいだね。よしカプセルから出してあげて。」
「――――――。」
肩で何とか息をする。イライザさんの部下の方に支えられて大きな機械から脱出する。
「現在のチェンジ・ギアでの持続時間はざっと15分くらいか。」
「15分!?」
まさか、15分しか経っていないなんて。自らの実力の無さを痛感する。
「この記録がどれだけ伸びるかだね。そしてチェンジ・ギアの改良も進めなければ。」
イライザさんが手を口元に当て何やら思案している。
何か、嫌な予感がする……。
「よし!実験スケジュールが決まった!1日2回。この工程をやってもらおうかな。」
「2回も!?」
「当然でしょう。チェンジ・ギアは改良していくし、回数を重ねれば君自信の実力だって向上していくはずだ。」
「だからってなんで2回も。」
「だって、1回だけだったら君の力で持続時間が伸びたのか、チェンジ・ギアの性能が向上していったのかわからないでしょう?だから2回計測するの、まず朝方に今回のチェンジ・ギアで計測するわ。それをブランクとして午後に―――――――。」
意識がどんどん遠くなっていった……。
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僕とアルトは、交代制で研究所に足を運んだ。
夕方には肉体は疲弊しきって、まるで重労働の建築業者のような足取りで家のドアを開けていた。
お母さんはそんな僕らの姿を見て毎晩心配してくれていたが、お金の心配がなくなった今、日に日に元気さを取り戻していく母親の姿がひたすらに嬉しかった。
それにイライザさんは『実力の向上』という言葉を繰り返し使っていた。
確実に強くなれる、レッドさんとの約束。僕は忘れてはいない。
半年後、ともに世界を変えるためにもう一度再会する。
レッドさんに失望されないように努力しなければ、不屈を誇るあの人の剣に追いつけるように。
「アストはずいぶんと嬉々としているんだな。もしかしてマゾ?」
「ちょっと黙れ。」
とある日、僕はまたいつもように研究所へと足を運んだ。
「おはようございます。イライザさん。」
「……。」
「イライザさん?」
ものすごく真剣な眼差しで一通の手紙?に目を通している。
そして、なんとなくその表情から少しだけ怒りも感じられた。
「あ、ああ。おはようアルト君。」
「アストです。」
「え?あ、そっか。ごめんごめん。」
「どうしたんです?らしくないですよ。」
「いや、アスト君に話してもね……。」
「話くらいは聞けますよ。」
「……。」
それからイライザさんは少し迷った後に、口を開いた。
「手紙が来たんだよ。封筒は差出人不明。それで中身をみたら、行方不明だった同期の友人からだったんだ。」
「行方不明?いつから?」
「もう20年くらい前じゃないかな。」
「そんなに!?本当に差出人は本人なんですか?」
「どうやら本人のようだよ。私と彼女しか知りえないことを列挙していたのだから。」
「そんなことあるんだ。」
「今までロクに連絡もよこさないでどれだけ心配したんだって思っていたら、手紙の内容もありえなかった。」
「なんて書かれていたんです?」
「彼女は今、ミラビリスの孤島で身を潜めているって、しかも子持ち。」
「ちょっと何言っているのかよくわからないです。」
「でしょ!?さらに、近頃よく耳にする反政府組織の幹部なんだって。」
「あの、すいません。情報量が多すぎて。まず反政府組織ってなんです?」
「ああ、ごめん。軍の人しか知らない話題だよね。今ミラビリス国は国内部での抗争が激しさを増しているんだよ。」
「その政府と相反している組織の幹部ってことですか?」
「その通りだね。」
「なんでバケマイティス人のその人がよりにもよってミラビリスで革命家をしているのでしょう?」
「そんなこと私に聞かれたって。」
「手紙には書いていなかったんだ。」
「うん。それで肝心の本文なのだけれど。」
「なんて書かれていたんです?」
「助けが欲しいってさ。」
「はぁ?」
「私も“はぁ?”だよ。自分から飛び出していって、ミラビリスの男と子供作って、それで革命家になって手を貸してほしい?自分勝手にも程度ってものがあるでしょう!?」
「まったくもってその通りですね。」
「なにが世界平和のためよ。一体何ができるっていうのよ。」
「世界平和?」
「ええ。どうやら反政府組織のスローガンは世界の平和・安定らしいの。まずは国を変えて戦いを失くしていく。最終到達目標はそこなんだって。」
「ふーん。世界平和。」
「アスト君?何か引っかかっているようだけれど。」
「少し興味がありまして。」
「……本気?」
「だいぶ。」
「冷静に考えなさい。一体どうするっていうの?」
「まずはその彼らと会ってみないことには。」
「あー。正気?」
「わりと。」
「……わかったわ。ただし、今すぐになんて行かせられない。」
「わかっています。その気はありません。」
「そこは冷静なのね。」
「ええ。なので半年間、改めてよろしくお願いします。」
「わかった。今度は本物の戦場になる。私も最大限のサポートをする。あなたたちには生きてもらわないと、私の大事なモルモットなんだから。」
「うわ。その言い方は無いですよ。」
「ふふ。じゃあ今日も始めましょう!」
「お願いします。」
約束の半年後は、本当に世界を変える第一歩を踏み出す約束の日となった。
そして同時期のミラビリス国ではイライザの言う通り、激しい抗争が続いているのであった。
外伝 戦士の週末 完。




