外伝 第二話 パレットのとある一日
私はパレット・トラウト。軍の養成機関に通う17歳です。
今日もいつものように座学の時間が始まります。
私が普段習っているのは戦場での応急手当の手法だったり蘇生法を学んだり、と言った救急医療だったり、あとは戦地での上下水道が清潔かどうか、汚染されてはいないかといったことを中心に勉強しています。
さて、今日はどんな一日が待っているのかな。
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「おはよう~パレット。」
「あ、おはよう。フォンちゃん。」
同級生の女の子です。中等部の頃からの友人です。
「今日の講義なんだっけ?」
「たしか今日は特別講習で、外部の人が話に来るんじゃなかった?」
「うわ寝そう。」
「ひどい。」
そう、今日は少し変わったお話が私たちを待っていたのです。
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始業の時刻となり教壇に立っていたのはこれまでに出会ったことのない雰囲気を放つ人物でした。
その見た目はまるでおとぎ話に出てくる古い古い魔女のようで。
「どうも。みなさん、はじめまして。今日はお招きいただきましてありがとうございました。」
(物腰柔らかそうないい人なのかな?)
「さて、今日みなさんにお伝えするのは、この世界の誕生についてです。」
世界の誕生。考えたこともなかった。
「ああ、今年は何年だったか。そこの貴方、教えていただけません?」
適当に女子が指名される。
「N.E.210です。」
「ありがとう。彼女の言う通り今はN.E.210です。これが一体いつからの数え年なのでしょうか。そこの貴方。」
また、今度は違う女子に当てられた。
「えっと、始まりの閃光からですか?」
「半分正解で半分不正解です。」
聞いていたのと違う。私も彼女と同様に始まりの閃光から210年だと思っていた。
「これはあまり知られていないのですが、この暦は始まりの閃光の後、かつての4大国だった小さな集落が文明として栄え、国となりそして戦争をはじめた。この開戦日から今年で210年ということなのです。」
初めて知った。そんな歴史があったなんて。
だけど、210年間も戦争を続けているなんて、途中停戦があったとしてもそんな状況がこんなに。
「今、みなさんのほとんどの方が人はなんて愚かなのだろうと感じているのではないでしょうか。」
老婆は続ける。
「では、みなさん。始まりの閃光が起こる前のことはご存知ですか?」
始まりの閃光の前?そんなものがあるの?
「この世界はもともと6つの大陸で出来上がっていました。その名残というのは各地に見られています。もっともっと前を辿るとその大陸も姿形を変えていますが。」
「いまこの世界はとても不思議な形に大陸は変化しています。ご存知の通りヘマタイティス国とバケマイティス国、ミラビリス国のほとんどは同じ大陸にあります。そしてイマノティス国と一部のミラビリス国は海を挟んで別の大陸に存在しています。」
だとしたら今の世界は2大陸なのかな。
「しかし、この世界はもっと広い。未曾有の地があるはずだとわたくしたちは信じています。」
老婆の言葉は止まらない。
「そして始まりの閃光が起こる前の世界ではおよそ2000年。文明が続いていたとされています。」
2000年!今の10倍以上!
「その長い長い歴史では常に大小不同の戦争が繰り返されて来ました。しかし、時が経つにつれその規模は小さくなっていったのは事実です。」
そしたらこの世界もそのくらい時間がたたないと平和にはならないってこと?
「しかし、わたくしたちはこのような無意味な戦争、直ちに終わらせるべきだと、そして終わらせることが可能だと思っています。」
皮肉だと思いました。
こんなにも力強く語っているけれどその場所は軍の養成機関。
つまり軍人を育てる場所。
あの人が戦争は止められるといっているけれど私たちにその選択肢はきっとないのです。
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「パレット、なんだか眠そうじゃないか?」
話しかけてくれたのは、レッドです。
小さな頃から私の親は家を空けることが多かったので、よくレッドの家にお世話になっていました。
その頃からなのでもう十数年になるかもです。
「今日は少し眠たいお話だったの。何回もあくびしちゃった。」
「珍しいな。あんまりないだろパレットが眠たそうにするの。」
「世界の始まりとか戦争は終わらせるべきだとかテーマが大きすぎて現実味の欠片もないんだもの。」
「まぁ、戦争は終わらせるべきなんて至極当然過ぎてな。」
「最終的にはみんなが仲良くできる世の中になるといいんだけどね。」
理想はいくらでも語れると思います。
結果が欲しいのであれば行動しなければなりません。
だけど、ただ行動するだけでは何も変わりません。
きちんと考えながら、何が最適解なのかを考える必要があるのかもしれません。
今は少しずつですが、自分自身の能力を引き延ばすことができていると思います。
いざというときに後悔しないように、自らの全力を出し切れるように、そして彼の隣をずっと歩いていけるように今日も、明日も、来る日も来る日もひたすらに私を生きていくだけなのです。




