外伝 第一話 Mother’s Birthday
アスト、アルトとの一件のあと、意識の戻ったパレットとともに宿舎への道を辿った。
「もう体は大丈夫か?痛まない?」
「うん。痛みはもうないけれど、……レッドのほうが大丈夫なの?」
「俺は別に大丈夫だ。見てのとおりピンピンしている。」
「そうは見えないけど。」
(……まぁ、実際きつかったっていうのは間違いない。本当に死ぬかと思った。)
「こうして元気に話せているんだ!いいってことじゃないか!」
「ぜんぜんよくない!そうやって無理したこと、レッドはいつもごまかそうとする!」
驚いた。そして、何も言い返すことができなかった。
「今回も二人掛かりで襲われて!運よく勝てたなんてことで片づけられるレベルの話じゃないの!」
パレットの声が朝焼けの無人の通りに響く。
「……じゃあ。」
疲労しきった体から出た言葉は、あまりに冷たかったのかもしれない。
「じゃあ、どうすればよかった?あのままパレットを見捨てろとでも言うのか?」
「……それは。」
「二度とそんなことを言うな。何があっても守ると決めたんだ。だからあの時は闘うという選択肢以外を見出すことはできなかった。わかってくれ。」
それから宿舎にたどり着くまで俺たちは、一切言葉を交わすことなく黙々と歩みを続けた。
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宿舎へ着いて、入り口の門の前にはサラと教官の姿があった。
「お兄ちゃん!パレちゃん!無事だったんだね!」
心配で一睡もできなかったのであろう。
少し疲れのうかがえるサラの笑顔に少し救われた。
しかし、そんな安堵も教官の言葉で一気に醒めてしまう。
「お前たち、まずはよく生きて戻ってきた。サラ・エライドの報告では敵兵は単独での侵入と伺っているが?」
「敵は2人でした。」
「交戦は?」
「はい。しました。相手はおそらく戦闘経験がほぼないであろう子供でした。しかし、バケマイティス人固有の能力を持っていることに変わりはなかったので少々苦戦しましたが撃退に成功しました。」
「そうか。では、エライド。1つ聞きたいことがある。お前のとった行動についてだ。」
「行動について?」
「そうだ。サラ・エライドの話では透明化した敵によってパレット・トラウトが人質に取られ、そのまま拉致。そしてお前は妹に報告を任せ、一人で追跡・交戦した。これに嘘偽りはないな。」
「……。ありません。」
「では、これら軍人として取るべき行動であったか?」
「……。本来であれば、追跡後。味方の到着を待ってから交戦すべきでした。」
「その通りだ。」
「ですが、時間がなかった!彼女を人質に取られてじっとなんてできなかった!」
「確かにお前のとった行動は戦士としては正解かもしれん。しかし、お前はもう私たちヘマタイティス軍の貴重な戦力なのだ。つまり、軍人としては不正解なのだ。」
「……。仰る通りです。」
「以後気を付けるように。……今回は特に処分などは行わない。今はゆっくり休みなさい。レッド・エライド、パレット・トラウト、サラ・エライドの3名は今日のこれからの講義・演習は特別欠席扱いとする。まずはゆっくり休め。」
予想外の言葉に驚きながらもその配慮に感謝し、部屋へと戻った。
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例の件から時間はまた足早に進みだし、平常通り講義などをこなしてまた週末がやってきた。
少しせわしい日々であったが、大事なイベントが待っていた。
これを忘れるわけにはいかない。
いつものような解散の号令のあと、すぐにサラが駆け寄ってきた。
「お兄ちゃん!帰ろう!」
今日はいつにも増して元気がいい。きっといい気分なのだろう。
「ああ、行こうか。」
家路をたどる。サラの足取りがあまりに軽快過ぎて途中で何度転びそうになっただろう。
約束の注文をしていた花屋に到着した。どうやら開店直後のようだった。
両親の仕事が終わらないうちにいろいろな準備を済ませておかなければならなかった。
「ごめんください!予約していたエライドです!」
「お待ちしていましたよ。少々お待ちくださいね。」
「わくわくだよ。どんなのができあがってくるのかな。」
「うん。楽しみだね。」
しばらくすると奥から店員の両手いっぱいに綺麗にあしらったたくさんの赤い花たちが登場した。
「……すごーい。」
あまりの上等な出来にサラは口をあんぐりと開けてひたすらに感嘆していた。
「サラ、一つ聞いていいか?これ予算内だよな?」
「……えっと。多分、大丈夫なはずだけど。」
「ではお会計――――――。」
そこから少し、記憶が飛んだ。
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「あ!レッド!サラちゃん!ってすごいねそれ!」
「まあ、いろいろあって、無一文だ。」
「?何があったの。」
「パレちゃん。聞かないで……。」
「う、うん。」
「それで?パレットの方はどう?」
パレットには別行動でいろいろ準備してもらっていた。
「完璧よ。私史上一番の上出来ね。」
「そいつは期待してる。」
家につき、裏口から部屋へ入っていく。
サプライズのために花を隠すが、果たしてこれは隠れているのか?
「よいしょ。」
パレットは黙々と作業を始める。パレットに任せていたのは料理だった。
「どうだ?」
「家で大体の工程は終わらせてきたの。あとは温めるだけ。」
「そっか。」
どんどんといい匂いが部屋に立ち込める。
「よし。こんなところかな。」
「パレちゃんおいしそう!」
「ほんとにすごい完成度だな。」
「当たり前でしょ。こんなの朝飯前!」
その後も色々と準備を整えて診療所のほうから両親が戻ってきた。
そしてお母さんが顔を出したところで3人のタイミングを合わせ、
『おめでとう~!!!』
それからは楽しい団欒の時間を家族と、そしてパレットと共に過ごした。




