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黒い夕闇 -Light Of Day-   作者: SOUTH
The Sun Also Rises
20/71

外伝 第二話 二人の絆

 あくる日、俺は心を弾ませながら我が家を飛び出した。

 昨日と同じ山道を駆け足で上がっていく。

 息を切らしながらも、コルラの足は止まらない。

 昨日よりも早くつけただろうか。


 「約束の時間よりも早く着いたのね。ずいぶんと紳士的じゃない」


 「もちろん」


 「息、あがっているわよ。別にそんなに急がなくてもよかったのに」


 「時間通りに来いって言ったのはリノのほうだろ!」


 「別にあたしは逃げたりしないわ。安心なさいコルラ」


 まただ。その少し意地悪な雰囲気と言動。

 だけど心の底から感じられる暖かな人間味。

 惹かれるには十分すぎる根拠だった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 

 約束通り、俺たちは二人で一緒に薬草採りを行って、たくさん話して、また日が暮れて。

 本当に楽しかった。それから俺たちは来る日も、来る日も会うことを重ねた。

 日毎に募る愛しい想い。

そのうちなる想いに目を背けることは出来なかった。




 とある日、俺はまたいつものように約束の場所へ向かった。


 「リノ!来た―――――」


 「バカ!大きな声出さない!」


 「―――ッ!」


 リノの手が俺の口元を塞ぐ。しかし、思わずその距離に高鳴る鼓動を抑えきれない。


 「ついさっきまでそこらに国境警備隊の連中がいたの!むやみに声を上げないで!見つかったらどうなるかわかっているでしょう?」


 小さめの怒号が耳元を襲う。


 「ごめん、俺が悪かった」


 謝りながら辺りを見渡した。本当に敵がいないか。自分でも確認したかった。


 「今は……。いないみたいだな」


 「そうね。いないみたい。本当に幸運よ」


 しかし、いつまでも密着状態なのは心臓に悪すぎる。


 「……なぁ。いつまでこのままなんだ」


 「え?ああ!ごめんなさい!」


 「いや別にやめてくれなくても……」


 「なによ!?」


 「ああ!ごめんなさい!」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 「……。あたしたち、もうここでは会わない方がよさそうね」


 「え。もう会わない?」


 「ばか。聞き逃さないで。ここではって言ったの」


 「あ、ああ。よかった」


 「ほんと、早とちりなんだから」


 「……。まぁいいや。それで?どういう意味なんだよ。ここでは会わないって」


 「そうね。あなた、あたしと初めて会った時あたしのことバケマイティス人だってわかった?」


 「え?なんでそんなこと」


 「いいから、答えて」


 彼女のまっすぐな瞳が俺を捉える。


 「……そうだな。うん。わからなかったと思う」


 「やっぱり」


 「それが一体何だっていうんだよ?」


 「少しは考えを巡らせなさい」


 「はい」


 「私、これからあなたの村に行くわ」


 「ごめん。もう一回言って」


 「あなたの村に行くと言ったの!」


 「うそ」


 「嘘偽りなんてないわ。本気よ」


 「だけど、そんな急に」


 「何?あたしに見られたら都合の悪いモノでもあるの?まさか、村に別な女がいるとか―――」


 「いない いない いない!」


 「冗談よ。あなたがあたし以外の人に夢中になることなんてありえないんだから」


 「それもそうだな」


 「これも冗談よ!なに本気にしていんのよ!」


 リノは紅潮しながら顔を背けた。うん。かわいい。


 「……わかった。安全面とか色々考慮したら、やっぱそれが一番だよな」


 「理解が早くて助かるわ」


 「だけど、俺がバケマイティスに行くのはナシなんだよな?」


 「当然。だって一目でわかったもの。あなたがミラビリスの人だって」


 「そうなのか。多分、俺の村ではリノはあまり浮かないかも」


 「でしょ。あなたのあの時の反応で恐らくそうなんだろうなって感じていた」


 「あ、でも外見良すぎて別の意味で浮くかもな。きっとみんな振り返る――――」


 「言わせないわよ。これ以上照れさせてどうするつもり?」


 「はい。すいません」


 「よろしい」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 「だけど、服装とかはどうするんだ?」


 「ああ、しまった。そうだった。ねぇ、今時のミラビリス人の若い女性はどんな格好するのよ?」


 「ええ。みんな似たような服着ているからな」


 「それは男も女も、年寄も子供もって意味?」


 「うん。少なくとも男と女では服装は大して変わらないかな」


 「そう。じゃあ服、貸して」


 「え?」


 「あなたの服よ。せっかくいい具合に身長差ないんだから。大きさもきっといい具合になるわ」


 「そんなのありかよ」


 「だってそれしか策は思いつかないんだもの。大目に見なさい」


 「うん。わかった」


 「それじゃあ、さっそくあなたの村に向かいましょう。案内して」


 「え?リノの家のことはいいのか?」


 「……。どうせあんな親だもの。あたしが急にいなくなったって心配もしないわ」


 「? 向かおうか」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 茂みを超え、俺の村が見えてきた。


 「コルラ、止まって」


 リノの声も小さくなる。


 「いい?あたしはここで待っているから、服をとってきて。なるべく怪しまれないようにね」


 「おう、わかった」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 「リノ戻ったぞ」


 「いいの持ってきた?」


 「いいモノかはわからないけど、新しめのやつを持ってきたよ」


 「ありがとう。じゃあ、あっち向いてて」


 「え?」


 「早く向いて!着替えられないでしょ!」


 「あ、はい」


 すぐ後ろで女の子が着替えているという状況。生きた心地がしない。

 早く終われ。早く終われ。ハヤクオワレ。はやくおわれ。


 「終わったわ。どうしたの?顔が真っ白よ?」


 「あ、ああ、呼吸を忘れていた」


 「なにそれ」


 「気にしないでくれ」


 「まあいいわ。それよりどう?」


 「おお、すごく似合っている」


 「そういうことを聞いているんじゃないの。違和感ない?ってことよ。もう」


 「ああ、完璧にミラビリス人だ。バケマイティス人って言われても信じる人の方が少ないと思う。出来は俺が保証する」


 「そ。褒め言葉として受け取っておくわ」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 「それじゃあ村に入るわけだけど、いい?段取り通り、うまくやるのよ」


 「お、おう。承知した」




 「た、ただいまー。母さん。ちょっといいかな?」


 自宅に俺一人が戻り親に問いかける。


 「何?コルラ、さっき帰ってきたと思ったら、また飛び出して、そしたらまた帰って―――。……。誰?その女の子?」


 「あー。紹介するよ。恋人のリノっていうんだ」


 「はじめまして。お母さま。リノと言います。コルラくんにはいつもお世話になっております」


 「え、え」


 母はひどく困惑しているようだった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 「ふふ、あなたとお母さん。本当にそっくりなのね。困った時の反応、まったく同じだったわ」


 「からかっているのか?」


 「いいえ。ちょっとうらやましく思っただけよ。夕食ご一緒したけど、他人のあたしにも気配りしてくれて、優しい人たちだったわ。あなたのお父さんもお母さんも」


 「そいつはどうも」


 「あなたの人間性の根本が少し見えた気がする」


 「なんだか照れくさいな」


 「こんな家だったら、一生住んでいたっていいって思えるわ」


 「え?それってどういう」


 「寝るわよ!くれぐれも同じ布団に入ってこないようにね」


 「しないよ!そんなこと!」


 「冗談よ。ホント、面白いわ。あなたと一緒にいるのは」


 「どうせ、からかったりするのが楽しいからだろ。わかっているよ」


 「それもそうだけど、それだけじゃないわ。あなただからいいの。それ以上は、言わせないで」


 「うん。それじゃ灯消すぞ」


 「ありがと」


 暗い部屋。並んだ布団。無音の部屋だから、余計に鼓動が耳にさわる。

 なんだか照れくさくてリノに背中を向けて眠ろうとした。


 「……寝ちゃった?」


 「……起きてる」


 「ねぇ、こっち向いてよ」


 「ん?」


 ゆっくりと寝がえりをうつ。


 「ばあ」


 「!?」


 目の前に、目と鼻の先に、リノがいた。


 「びっくりしているのね。鼓動、早くなっているわ」


 「あ、当たり前だろ!布団に潜り込むなっていったのはお前のほうじゃないか!」


 「そんなこと言ったかしら?」


 「本当、なんなんだよ」


 「迷惑?」


 「いや、うれしいけどさ」


 「……」


 「……」



 急なことに頭は回らないし、言葉が出てこない。

 真っ白な頭の中で一つだけ思い出したことがあった。


 「なぁ、リノ。一つ聞いてもいい?」


 「なに?いやらしいことじゃないでしょうね?」


 「違うよ!」


 「そ。なに?」


 「さっき言っていた親がなんとかってどういうこと?」


 「ああ。気にさせちゃったのね。ごめんなさい」


 「いや、別にいいんだけど。少し気になって」


 「別にどうってことないわ。親とあまり仲良くないのよ。小さなころから放任主義だったから独りきりの時間が長かったの。あまり、愛情を受けずに育ったのよ。それだけ」


 「それだけって、子供にとっちゃ大事な問題じゃないか!」


 「親と仲のいいあなたにとっては一大事かもね。だけど、あたしが一人に慣れればそれでいいって思っていたから」


 「今もそう思っている?それが正解だったって」


 「正解なんてわからないけど、あれが最適解だったとは思っているわ」


 「そっか。寂しかったよね」


 「いいのよ。今は寂しくないから」


 「リノ」


 「何?」


 「いや、ありがとう。話してくれて」


 「あなただけよ。コルラ」


 安心していたのは俺の方だった。

 リノの優しくて心地いい声でいつの間にか眠りについていた。

 俺の腕の中で眠るリノをいつまでも離さないと誓う。

 冷めない恋はまるで醒めない夢。

 決して途切れることのない、そして傷付くことのない二人の絆を見つけた。

 そんな夜だった。

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