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黒い夕闇 -Light Of Day-   作者: SOUTH
剣と雷
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第三章 第二話 Thunder Road

 アルトはアストに見送られた後、暗くなってきた町を一人、見えない姿で駆け抜けていた。


 「(夢にみたあの男は、徴兵を受けた学徒兵。ならばどこかに大きな施設があるはず)」


 町の中には見当たらない。だとすると、ここに来る途中、別れ道のあった丘の上か?

 予想は的中した。町から少し離れた小高い丘の上に穏やかな町並みとは似合わない施設があった。


 「(間違いない。ここだ、例の男はここにいるはず)」

 

 しかし、ここは敵の巣窟。むやみに入り込んでいくのは危険か。

 木の陰から入口の様子を窺う。

 どうも、先ほどから学徒と思わしき人たちが門をくぐり施設へと帰っていく光景を何度も目にしている。


 「(今日は外出日だったのかな?)」


 そうか、つまりあの男はまだ町にいる可能性があるのか。


 「(まずい。こんなにも人の出入りが多いと行動に移すのが難しい)」


 思い切ってもう一度町に降りることを決めた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 


 

 「パレちゃんはどう思う?」


 「ん~?普通にこっちでいいと思うよ」


 サラとパレットの声が右から左へ、左から右へ。順番に交差する。


 「お兄ちゃんは?」


 「え?いや、俺もこっちでいいと思うけど……」


 「ふ~ん。なんか普通」


 「普通でいいだろ。お母さんにあげるものなんだから」


 「うん。私もあまり奇をてらうよりも普通にこっちの花束でいいと思うな」


 閉店間際の小さなフラワーショップでお母さんの誕生日祝いを考えているところだった。


 「ほら。そろそろ決めて。門限過ぎちゃうよ」


 「急かさないでよ~。すいません!これ次のお休みの時に作っておいてもらえませんか?」


 「はい。わかりましたよ。代金は当日でよろしいですからね」


 「ありがとうございます!」


 「さぁ行こう。門限ぎりぎりだよ」


 花屋での予約を済ませ、俺たちは宿舎への帰り道を辿った。


 「もう暗くなってきちゃった」


 「そうだね。最近はめっぽう陽が短くなっちゃってこれからどんどん寒くなっちゃうね」


 「もう少し町の灯を増やしてくれたっていいのに」


 「まあ、この道くらいだろ。もっと人通りの多い通りに出れば明るくなるさ」


 とめどない会話をしている中で、俺の右側を歩いていたパレットの動きが急に止まった。

 それに気付いて振り返ったときには、10歩ほど歩みを進めたところだった。


 「パレット?どうかしたのか?早く来ないと――――パレット?」


 「ようやく見つけたぞ。剣の戦士!」


 聞きなれない声。

 それは俺たち誰のものでもない。


 「!?誰だ?」


 パレットが動けない理由がわかった。敵がいる。パレットのすぐ後ろに!


 「姿が見えないってことは、あの迷彩……。バケマイティスか?」


 「……ああ」


 男の声は、どこかで聞き覚えがあるような、そんな印象を受けた。


 「僕は今、刃をこの女の首元に向けている」


 そう言って男は透明化を解いた。


 「!?……子供じゃないか。一人でここまで乗り込んできたのか?」


 「それは後でわかるさ」


 「レッド……。」


 パレットの恐怖に満ちた震え声。俺もサラも下手に動くことができない。


 「―――――」


 少年の口元がかすかに動いた。


 「きゃあああああ!!」


 パレットの悲鳴が響く。


 「何をした!?」


 「少し体に電気を流したんだ。気を失っただけさ」


 「何が目的だ?どうしたらパレットを解放してくれる?」


 「目的か。目的ならある。僕らはお前と勝負がしたい」


 僕ら?敵は一人じゃない?


 「勝負なら今ここでしてやるよ」


 右手を構える。


 「いや、ここは敵国の領土。そんなところでは圧倒的に不利だ。場所を指定する」


 「場所?まさかバケマイティス国か?」


 少年は可笑しなように少しだけ笑みを浮かべる。


 「そこまでいかない。……お前が倒したバケマイティスの軍人を憶えているか?決着をつけた場所。そこだ。そこでやる。すぐに追って来いよ、次の日にはこの女がどうなってるかわからないからな」


 「……パレちゃん」


 サラの震える声が鼓膜を揺さぶっても俺の脳には届かなかった。


 「ああ、あと一人でくるんだ。用があるのはお前だけだから」


 「……わかった」


 了承せざるを得なかった。

 こいつがここに来てパレットが囚われたのは俺のせいだと、もうわかっていた。

 

 「……」


 男は静かにその場を後にした。


 「サラ、急いで施設にもどるんだ。そしてこのことを上官に伝えてくれ、他にも敵の兵がこの町の近くまで来ているかもしれない」


 「……」


 サラは固まっていった。急な出来事に心底から恐怖心が沸き上がっている。


 「……サラ!!」


 「あ、はい!」


 「頼んだぞ」


 「うん、……お兄ちゃん!パレちゃんのことお願い……」


 「……。わかってる」


 日が完全に沈みかけている。

 だけどどこに行けばいいのか、どう行けばいいのか。

 そんなこと体がよく覚えている。


 「待ってろ、パレット!今行くぞ!」


 彼は誓った。その誓いを守るために全力で雷への道を駆け抜けていく。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 「アスト」


 アルトの声だ。


 「アルト、戻った――――え?誰?その子」


 「人質」


 「は?人質?まさか、あの時任せろって言ったのは」


 「そ。これ」


 「嘘だろ……。ぐったりしているけど大丈夫なの?」


 「多分。そのうち目覚ますんじゃない?」


 「人の道を踏み外したな……」


 「アストも同罪」


 「是も非もない」


 「はやく移動しよう。奴が来る」


 「接触できたの?」


 「もちろん。ものすごい形相で走ってきてた」


 「了解。あの場所へ行こう」


 そうして僕らは父の死地へと向かった。雷の遺志が残る道を駆けて。

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