第二章 最終話 どんなに遠くても辿りついてみせる
家を飛び出した後は、アルトと話し合った通りに隣町まで歩いていき、予定通り朝方に到着した。
よく訪れる街なので、特に迷うことなく駅に着き切符を購入し目的地へと駆ける電車に乗り込んだ。
席に座ると、これまで夜通し歩き回ったせいか、足の疲労感がとても感じられた。
「目的地はほとんど終着の方だから、せいぜい4時間はかかるね。今のうちに休んでおこう」
「足つらい」
「降りるまでに何とかしておけ」
ぶつぶつ言いながら、アルトは自分の足をさすっていた。
「こんな風に遠くへ出かけるのも久しぶりだな」
物思いに耽っていたわけではないが、ふと口からこぼれていた。
「そうだね。学校に通い始めてからは初めてかも」
「うん。お父さんの出兵のタイミングも重なっていたし、お父さんがいないのならってどこへも行きたくなかった」
「こんなこと言うのもなんだけど、楽しい旅になるといいね」
「アルト……」
二人にとって初めてだらけの旅になる。その時その時で、僕自身がどんな感情を抱くのかはわからないけど、うん。いい旅になればいい。それは本気で思っている。
「休もう。旅はまだ、始まったばかりなんだから」
「了解」
二人を乗せた電車は目的地を目指して、ひたすらに進み続けていた。
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数時間後、もうじき目的の場所に到着するとアナウンスがあった。
「アルト、起きてる?直ぐ動けるようにしておきなよ」
「承知承知」
『到着しました。メック・シティです。お降りの方はお忘れ物のないようにお気を付けください。』
「着いたみたいだね。降りよう」
初めて訪れた街。生まれたところからかなり遠く離れたところに来た。
「ここが国境門のある街、メック・シティか」
「でかいね」
バケマイティス国が技術の進歩の国と言われる所以は、ほとんどこの街の風景が語っているようなものだ。高層ビル群に、たくさんの乗り物。人の服装もなんとなく故郷とは違っているように感じられた。
「……。この街はきっと住みよくないな」
「同感。さっさと国境門の近くまでいこう」
人混みを避けるように、遠くに見える大きなオブジェクト。
国境門を目指して僕達は歩き出した。
慣れない道をなんとか潜り抜けてようやく国境門の近くにまでやってきた。
「よし、アルト。ここで様子をうかがおう」
「了解」
国境門は常時開いている様子だった。
しかしそこを通る一般人の姿はなく、軍人の人ばかりだった。
だけど、警備は門の右側に一人だけだった。
「警備は本当に薄いみたい。これならいつでもいける。アルト、スキルスのパワーをオンにしよう。門の左側を通っていく」
それからは意外とあっさりと事が運び、あっという間にバケマイティス国領地から抜け出していた。
しかし門外の方が警備は厳重のなので、そのまま足を止めることなくルートの軌道に乗り、森へと入っていった。
「やっぱり森の中だね。全然人に会わない」
「いたら逆に怖いよ……」
「はは、そうだね」
森の中の景色はまったく変わらなくて、歩みを進めていくほど精神的に参ってきた。
「そろそろ、例の地点に着くかな」
茂みを抜けると、そこはこれまでの森の景色とは異なり、全く別の場所だった。
「……なんだ、ここ」
荒れ果てている。ただ、荒れ果てていた。
木々は倒れ、草は剥がれ、穴の開いた地面。
……。これが戦場の跡。
「……血の跡もある。本当にここで戦いがあったんだ」
しばらく立ち尽くしていると、アルトが肩をたたいた。
「早くいこう」
真剣な眼差しで語り掛けられたので、一瞬遅れて返事してしまった。
「あ、ああ。よし、ここからさらに南の方角だな。行こう」
そうして僕達は、無我夢中できっとあの男がいるであろう町へ向かった。
「ねえ、アスト。夢の中で見たあの男を見つけたとして、それからどうするの?」
「それから?」
「まさか、その場で戦いを申し込む、なんて馬鹿な真似しないよね?」
「それはまあ、そうだな」
「あくまでこの先は敵国なんだ。すべての人間は敵。だから、例の男は誘い出すしかないよね」
「アルト……。なにか策があるのか?」
「……。うん。奴を誘い出すのは僕に任せてほしい」
アルトはなにかすごい決心をしたような瞳でこちらを覗いていた。
「自信あるのか?」
「大丈夫。まかせろって」
「……。わかった。それに関しては任せたぞ。無理だけしないように」
「うん」
「……」
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風の感じが変わった。きっともうすぐ町に出る。
その予感は的中し、青く沈む夕闇を背に浮かぶ町が視界に広がってきた。
「……。町だ」
「……。この町に絶対いる。ここが、あの男が育った町だ」
「アスト。僕が町に入って奴を探し出す。アストは奴との戦いに備えてここで休んでいて」
「わかった。まかせたよ」
こうして、双極の種は芽生えの時を迎え、不屈の剣を打ち倒すためについにここまで来た。
友を亡くしたものと、父を亡くしたもの。
互いに深すぎる悲しみを味わったもの同士が出会うとき、その悲しみの連鎖は断たれるのか、それともより深くなるのか。今はまだ誰にもわからない。
第二章 完




