第二章 第六話 旅立ち
「……深夜だ。アルト、深夜になったら抜け出そう」
今夜、ついに実行する計画について、戦士となった二人は計画を練っていた。
「この家からヘマタイティス側の国境付近の街まで歩いていくとしたら、早くても二日はかかってしまう」
「とんでもない距離だね」
「うん。だから、まずは隣町まで歩いていこう。深夜に出れば明け方にはつくはずだ」
「それから?」
「そこからは電車が国境の街まで走っているから朝一番で乗っていこう。だから明日の昼には国境付近には近づけるはずだ」
「なるほど。うん、いいと思う」
「そして、国境門の付近で待機する」
国境門が常時開放しているとは限らない。
「そして開放しているタイミングでスキルスを使って行動を開始する」
「そのまま国境を越えるんだね」
「スムーズにいけばいいけど、実際の警備を見たことがないからね。迅速な行動が重要になる」
「了解」
イライザさんからの情報では国境門の警備は外からの守りを重視しているようだった。
「アスト、国境を越えるまでは多分、問題なく行けると思う」
「それは同感……。だけど、国境を越えてからはどうするの」
アルトの言う通り、そこからが大きな問題になる。
「あの男が何処にいるのかってことだよね」
「うん。それにヘマタイティスなんて土地勘もないから」
「まったくもってその通りなんだよね。だけど、これを見て」
僕はイライザさんからもらった資料をアルトのすぐ前に置いた。
「報告書だね。お父さんがいった戦いの」
「これ……機密文書だよね……」
「まぁ、こんなのを持っているってばれたら、即刻投獄ものだね」
「めまいがしてきた」
「大丈夫、落としたりしないから」
改めて文書に書いてある、とある部分に指さした。
「ここ、実際にお父さんの部隊がどのようなルートで進軍したのかが、細かく記載されてる」
「ほんとうだ」
「ね。そして、お父さんの部隊は合流しようとしていた学徒の部隊と交戦したとある」
「つまり、どういうこと?」
「その学徒の部隊は北に向かって進んでいた。だからその学徒たちはこの地点よりも南から来たってことになるよね?」
「……確かに」
「だから、まずはお父さんたちの部隊と同様の道筋で交戦した地点に向かう。その後は方角だけを頼りに南の方へ向かおうと思う」
「それが一番合理的だね」
「でしょ?」
しかし、まだ一番肝心な課題が残っていた。
「あとは、どうこの家を出ていくかなんだよね……」
「お母さん?」
お父さんをなくしたばかりのこの時期に息子2人が突如消えたら、お母さんはどうなってしまうのだろうか。
「せめて」
アルトが続ける。
「せめて、置き手紙だけでも書いていこうよ。長くなるかもしれない旅にでるって」
「そうだね」
アルトの言う通りに一枚の紙に二人でメッセージを残した。
―――――少しの間、二人で遠くへ出かけてきます。心配しないでね。要件が済んだら直ぐに帰ってきます。―――――
そして、夜は更けてゆき一番深い夜の時刻となった。
「……。アルト。行くぞ。必要なものはもった?」
「うん。大丈夫。アストこそ大丈夫?」
「そうだ。最後にひとつ、持っていくものがあるんだった」
「?」
そういって僕は父親の部屋に入った。
「きっと、ここにあるはず」
そういって、棚の引き戸を開けるとお父さんが生前使っていた短剣が出てきた。
「これ、借りるね」
短剣を懐にしまい、二人で家を抜け出した。
「……。それじゃ、行ってきます」
返事のない誓いを家に放ち、僕らは歩みを進めた。
――――僕らは窓からみつめるお母さんの姿に気が付くことはなかった。
「……いってらっしゃい。アスト、アルト。気を、付けるのよ」




