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黒い夕闇 -Light Of Day-   作者: SOUTH
悲しみ深すぎて
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第二章 第五話 7回の夢を超えて

 一日目の昼。

 僕はまた、アルトと二人で秘密の場所へ来ていた。


 「アルト、昨日は夢を見た?」


 僕は当然、そのことが気になっていた。お父さんが倒された瞬間の夢は二人でみられたのだから、今回の夢も、もしかしたらアルトも見ていた可能性も十分にある。


 「夢?うーん。見てないかな」


 「え?」


 驚いた。この夢は共有できていなかったんだ。

 そうだとするのなら、これからの昼はアルトにも僕が夢の中でしたお父さんとの特訓の内容も共有していかなくては……。


 「アルト。僕は昨日、夢を見たよ。お父さんが出てきたんだ。話もできた」


 「本当に!」


 アルトはとても羨ましそうに僕の瞳を覗き込んだ。


 「うん。夢のなかではまるで現実のように自由が利いたんだ。本当に不思議だったよ」


 「へー!それで?どんなこと話したの?」


 「うん。……。夢の中のお父さん、知っていたよ。僕らがどんな考えを抱いているのか。これから何をしでかそうとしているのか。そりゃそうだよね。“僕の中”のお父さんなんだから」


 「止められた?」


 「まあね。だけどやっぱり僕の中のお父さんだった。条件付きでそれを飲み込んでくれたよ」


 「条件?」


 「うん。まずChEの習得に協力してくれるっていうのもあるんだけど、その7回の夢のあと、お父さんと決闘する」


 「決闘!?勝てるわけないじゃない!だってお父さんだよ!」


 「だけどあの男は勝ったよ。お父さん」


 「それは……。そうだけど……」


 「そう、お父さんからの勝利。これは、あの男を倒すうえで必要最低限の条件なんだ」


 「勝算は?」


 「もちろん、まだない」


 「……だよね」


 アルトの言う通り、軍人ですらない僕には、あの父親を超えうる策など一つだってない。


 「とにかく今は、夢とそして現実での特訓で着実に力を付けていくほかはない」


 「……。アストばかりに負担がかかっている気がする」


 「何を言っているんだアルト。夢でやった特訓は現実でやらせるからね」


 「教えてくれるの!?」


 「うん。二人で強くなる。そう決めたでしょ」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 

 

 「……。アスト」


 「来たよ。お父さん」


 「始めるか」


 ――――1日目の夜は、ほとんど何もできなかった。だけど基礎という基礎は習った。

 あとは昼に現実で修練する。それを繰り返すだけだ。

 その後は2日、3日と時間は矢のように過ぎていった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 4日目の昼。

 アルトと一緒に外に出ようと、家の扉を開けたら見知らぬ女性が小さなメモを片手に家の前にいた。

 女性は形式正しい服装に眼鏡をかけている。髪は黒色のロングだ。

 女性にしては背丈が大きい方だと感じた。僕らとそう大差ない。

 

 「あ!こんにちは!君たちはアスト君とアルト君かな?」


 「はい。そうですけど……」


 「私は君たちのお父さんと古い友人でね。とてもお世話になっていたんだ。だけど今回、残念な知らせを聞いて色々残っていた仕事を片付けてから来たもので、少し遅れてしまったんだけど何とか来れてよかったよ」


 「そうだったんですね。どうぞ上がっていってください。お母さん!お客さん!」


 そうして少しばかり時間が経った後、客の女性と、その姿を見送る母の姿が出てきた。

 母が深々とお辞儀をして、その女性は去っていこうとした。それを見ていた僕は彼女と目が合った。彼女は一瞬微笑んでこちらへと歩を進めた。


 「今回は大変だったね」


 彼女は僕らに寄り添うように語り掛けてきた。


 「いえ、とんでもないです」


 「私はね、軍の開発部にいた人間なんだ。今は軍の所属から離れて個人的にいろんなものの開発をしているんだ。まぁ、未だに武器とかそういうものを作っているんだけどね」


 「そうなんですか」


 「うん。君のお父さんは軍に入ったばかりのころ色々とお世話になった先輩だったんだ。本当に、本当にお世話になった」


 ……。この人はきっと信用できる。お父さんの顔見知りだったんだ。

 きっと良い人だ。確信できる。


 「……あの。死んだ父親の頼みだと思って、ひとつ聞いてもらえませんか?」


 真剣な面持ちで、言葉を探り、紡いでいく。


 「なんだい?なんだか、とても重大なお話なのかな?顔がすでにそう語っている」


 「はい。そうなんですけど。他の誰にもこの話を漏らさないって約束してもらえますか?」


 「ああ、もちろん。約束するよ」


 そして僕はこれから何をしようとしているのかこと細かくその女性に話した。

 さらに、装備などの面で協力してもらえないかとお願いした。


 「……。そうだったんだね。……これは、すごく重大な問題だな」


 「難しいなら、結構ですので……。発覚したら責任問題にもなるし……」


 「いや、やらせてくれ。生前できなかった恩返しをこんな形で実現できる、私にとっても最後のチャンスだ。出来る限りの協力を、させてほしい」


 「本当、ですか?」


 「もちろん、私の持ちうるすべての技術を君に、君たちに提供させてくれ。うん。早速明日この場所に来てくれ。見てもらいたいものが山ほどある」


 「はい!ありがとうございます!」


 そういって小さなメモを彼女から受け取った。メモには“イライザ・ラボ”とあった。


 「イライザ、さん?」


 「ああ、まだ名乗っていなかったね。私の名前はイライザだよ」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 5日目の昼。

 約束の場所にきた。

 決して大きなラボとは言えないが、本当に研究所という感じの場所。

 入口にある呼び出しのベルを鳴らしてイライザさんを呼んだ。


 「ああ、こんにちは。どうぞどうぞ、入って入って」


 「あ、ありがとうございます。お邪魔します」


 「お邪魔します」


 僕らを連れてイライザさんはラボの中心部へと案内してくれた。


 「うん、ここでいいかな」


 そうしてイライザさんは机にたくさん広げた二人分の様々な装備を紹介してくれた。


 「まずはステルス迷彩だね。基本中の基本。この国を抜け出すにはこれがないと」


 「そして、これが一番見てもらいたかったものだ。チェンジ・ギア。ChEの使い手ならその力を大きく膨れ上がらせることができる。使用者によるかもだけど、私たちの推測では数倍から最大で数十倍まで、その力を底上げできるはずだ」


 「力を数十倍に……!」


 「夢のような話って思っているかもだけど、そういう夢物語を実現していくのが私たち科学者の仕事!」


 そう胸を張ってイライザさんは語る。


 「だけどまぁ、このチェンジ・ギアは実戦投入前の武装。データがない分、そのリスクもわからない。どういうときに、どういうことが起こるのか。それがわからないから、決して無理だけはしないようにね」


 そう言って、手のひら大の大きさの新型兵器をイライザさんは僕とアルトに手渡した。


 「ChEの習得状況はどうかな?」


 「そうですね……。6割…7割弱ってところでしょうか」


 「そう!充分充分!ちょっと私の前でこのチェンジ・ギアを使ってみてよ!いろいろレクチャーしたいことがあるからさ」


 「―――! わかりました。やろうアルト」


 アルトと視線を合わせ、頷く。


 「……」


 集中する。基礎は十分と言えるほど復習した。今は10回中5回くらい、半分程度の成功率だけど、もう時間もない、こうして協力してくれているイライザさんを失望させるわけにもいかない!


 「絶対に成功させるんだーー!」


 体から稲妻が走る。全身の細胞が電子体へと置換されていく。そして、ChEの段階が一つずつ上がっていく度、掌のチェンジ・ギアが反応している!


 「すごい!すごいよ二人とも!」


 「「――――――!!!!」」


 二人分のChEだ。放たれた光はあまりに眩しく、ラボ全体がまるでホワイトアウトしたかのようだった。


 「……。これは」


 視界に写る自分の体を見て感動に似た感情を得た。


 「かっこいい。二人ともかっこいいよ!」


 興奮するイライザさんの声がラボにこだまする。


 「アスト……。この装備」


 「うん。チェンジ・ギアが全身を纏ってアーマーになっているんだ」


 「そう!チェンジ・ギアは発生する電気量に応じて、その形状を変化させる。そして最大限まで電力が高まった時にチェンジ・ギアは全身を包み込み、使い手のあらゆる能力を底上げするんだ!」


 「この力があればきっと。……アスト!やれるよ!」


 「ああ、やってみせる。夢のなかで、これを使ってお父さんに勝つ。そのためにも、もっとChEの精度をあげなくちゃ……」


 「そうだね。残りの時間、もっともっと練習して完璧に習得してみせよう!」


 「ああ、やってみせよう!」


 (―――二人とも、今すごくいい顔をしている。未来をまっすぐにとらえた眼。……うん。君たちならきっと大丈夫だろう。先輩の仇をきっと果たしてくれる。……先輩、小さな雛が成長して巣立ちの瞬間を迎えようとしていますよ)


 「さて、私にできることはこれが精いっぱいだ。しっかりやるんだよ。アスト君、アルト君」


 「「はい!ありがとうございました」」


 そうして僕らは両手いっぱいの贈り物を抱え、家へと戻っていった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 最終日、夜、夢のなか。


 「アスト、今日が最後の夜だな」


 「うん。覚悟は、できてるよ」


 「そうか、それを聞いて安心した。私も全力を以ってお前の挑戦を受ける!かかってこい!アスト!」


 「いくよ!これが僕の全力だ!」


 右手にチェンジ・ギアを構える。


 「? なんだ。その道具は」


 「お父さんの知り合いの人がくれたんだよ。イライザさんって人」


 「イライザが?……そうか、ならばとんでもない兵器ってわけだな」


 「うん、きっと独りじゃなにもできなかっただろうけど、今は味方してくれた人がいる。だから独りで戦っているわけじゃない。現実に戻ればアルトがいる。力を貸してくれたイライザさんもいる。……そしてこうして夢のなかで僕を鍛えてくれたお父さんがいる!」


 「……。ああ、そうだな。アスト、お前は独りじゃない。それをずっと忘れるなよ」


 「うん。それじゃあ、始めるよ!お父さん!」


 「来い!アスト!」


 2つの電撃が衝突する。その力の差はほとんどなく、拮抗しているようであった。

 絶えることの無い雷撃の応酬。

 先に攻撃を絶やしたものが敗北する我慢比べであり、決して攻撃を弱めてはいけない力比べそのものだった。


 「「うおおおおおおおぉ!」」


 絶えない。一向に耐える気配はない。

 何秒、何分。幾度と繰り返される攻撃は止まらない。


 「まだまだだ!まだ……やれる!」


 せっかくここまでこれた。言葉通り、夢にまで見た父親と力比べで肩を並べている。


 「超えろ!超えるんだ!現在の自分を!」


 今よりも強力な一撃。それを放つことが勝利への絶対条件。限界を、自分を超える!


 「7回の夢を、今、超えてみせる!」


 チェンジ・ギアが右手で強く呼応する。この兵器は、まだ上にいけるのか?


 「ついていくさ。どこまでも!」


 「アストーーーーーー!」


 「行けーーーーー!!!」


 最後で、最大の一撃が互いのかいなから放たれる。

 気が付くとChEの状態は解け、チェンジ・ギアは右手に収まっていた。


 「ついにやってのけたか。アスト」


 「! お父さん!」


 「お前は私を倒した。完敗だ。7回の夢を飛び越えたな」


 「……うん。ありがとう」


 「いや、礼を言うのは私の方かもしれないな。ありがとうアスト」


 そういうと、父親と、そして僕の姿は光に包まれた。


 「これは?」


 「もう夢から覚める時間か。アスト、もうこれ以上私がお前の夢に出てくる理由もなくなった」


 「え?」


 「本当の別れだ。母さんとはうまくやれよ」


 「あ、ああ」


 「なんて顔をしている。いい男が台無しだ」


 「お、お父さん」


 「ああ、アスト、お前は私の自慢の息子だ。きっと大丈夫だと信じている」


 「うん。頑張るよ」


 「最後に、私の部屋にあるあの短剣を持っていけ。きっと、お前の助けになってくれるはずだ」


 「……わかったよ。本当に、本当に、今までありがとう」


 「元気でな」


 優しい目覚めだった。とても暖かく、優しい目覚め。

 7回の夢を超え、手にした力。だけど決して独りの力じゃない。

 その力を、その期待を僕は裏切らない。裏切るわけにはいかない。

 ……さぁ、出かけよう。あの男の元へ。

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