第二章 第二話 決意
父親の亡骸を見つめたのは夕刻だった。
気が付くと窓の外は暗闇で、母の姿は未だに父のそばにいる。
たまらなくなって、僕はアルトを誘って外に出ていた。
「……」
暗闇が沈黙を包む。
「……」
まるで人形のように、言葉を忘れたかのようだった。
「……くやしい」
先に口を開いたのはアルトの方だった。
「なんで、お父さんはあんな奴に負けなくちゃいけなかったんだ」
その言葉はまるで後悔のように聞こえた。
「くやしい、くやしい、くやしい!」
こんなにも感情をむき出しにしたアルトは久しぶりだった。
「僕も悔しいよ」
当たり前だ。悔しくないわけがない。苦しくないわけがない。憎まないわけがない。
だけど、アルトがこうして怒りを露わにしてくれているおかげで僕は、少しは冷静でいられている。
だからこそ、僕は未来を見つめていたい。
「ねえ、アルト」
僕は一つおおきな提案をしようと口を開いた。
「二人で、倒さないか?お父さんを倒したあの男を」
「倒す?僕らで?」
「そうだ。あの男の姿を僕らは知っている」
「あの夢?」
「そう。あの夢。あの夢につけられていたお父さんの傷は、現実でもそのままだったはずだ」
「そっか。あの夢の通りならお父さんを倒した男の顔を知っているのは、僕達しかいない!」
「うん。だから、僕らがやるんだ」
そして、あの夢が教えてくれたもう一つの真実――――。
「アルト。夢の内容で、もう一つ大事なものがあったんだ」
「え?」
「思い出せない?お父さんが使った技だ」
「……あ!ChE(CHANGE THE ELECTRON)!」
「そう。習っただろう。ChEはバケマイティス人のなかでも限られた血筋にしか使えないって」
「つまり、僕らにも使える可能性があるってこと?」
「可能性の話じゃない。絶対使えるようになるんだ。じゃないとあいつには勝てない」
「でも、お父さんはあの技を使って負けた」
「だけど、それを理由に諦めるわけにはいかない」
そうだ。お父さんのChEでは奴の右腕の大剣には打ち勝てなかった。
「超えるんだ。これまでのChEを。僕達だけのChEを作り上げるんだ!」
空高く浮いた月と仄かな光に、僕ら二人の決意が輝いていた。




