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92.戻ってきたらそこには

そういえば昨日の一日のPV数が777でした。

だからなんだという話なのですが何か嬉しかったので報告します(´・ω・`)


ああ、あと連続投稿は今日で終わりです。

次からはまた普通に日曜投稿になります。



「ようやく戻ってきた。凄く久しぶりな感じがする」

スイの目の前には壁代わりのそれっぽく積んだだけの外壁に申し訳程度の適当な柵、見え見えの罠という獣国ならではの光景が広がっていた。久しぶりに感じるのは当然である。何故なら深き道の深部に近付けば近付く程に時間がおかしくなる。

それはシャトラの宿ったクリスタルが経年劣化で壊れないようにするための処置だったがそのせいで浦島太郎状態になってしまっていた。とは言っても比較的早く出てきたので何年も経過しているわけでは無い。せいぜい数週間程度である。

スイはその光景を見ながら中に入っていく。検閲らしいものもないのであっさりと入った後適当に見て回る。土地勘がないのでクライオンの家がどこか分からなかったからだ。

そうして歩いていると一人の女性を見付けた。風に反射して煌めく緑髪、白磁のような艶やかな肌、手足は細く華奢で今にも壊れてしまいそうだ。ふっと風が巻き起こり女性の瞳が映し出される。その瞳は薄い赤色で優しげであった。

「まさか……」

私は唖然としながらその女性に向かって歩き出す。女性もまた私の存在に気付いたのだろう。ほんの少し身を固くさせる。なので私はある程度まで近付くと立ち止まる。

「貴女は……?」

女性に問われたので私は可能な限りにこやかに笑って答える。

「魔王ウラノリアの娘、スイと言います。初めまして。東の魔王エルヴィア様の妻ルーフェ様」

「ウラノリアの……?」

呆然とした表情を浮かべるルーフェにスイは頷く。するとルーフェは肩を震わせる。

「……でしょ?」

「え?」

「嘘でしょ!?あんな男からこんな可愛い娘が生まれるとか意味が分からないわ!!何の禁呪を使ったの!?言いなさい!」

ルーフェはその優しげな表情を激しく変えながらスイの身体を揺さぶる。スイは抵抗できずぐらぐらと身体が揺れる。

「お、落ち、落ちちゅいて!禁呪とか使っへらいから!!」

ぐらぐらと滅茶苦茶なぐらい揺らされているのでしっかり発音出来なかっただけなのだがそれを聞いたルーフェが「可愛いぃぃぃ!!もう私の子にするぅぅぅ!!」と言って抱きしめてぐるぐるとその場で回転するのでスイは眩暈を起こしかけていた。幾ら何でも予想外に動き回られた挙句ルーフェの方が力強いので振り解こうと努力も出来ず為すがままだったせいでついにスイが。

「……きゅう」

意識を失った。



「ご、ごめんなさいね。可愛かったからつい…ね?」

可愛らしく謝るルーフェに暫くそっぽを向いていたスイだったがじとっと半目で睨んだ後許すことにした。

「まあ良いですけど。それでルーフェ様はどうして獣国に?」

そう本来であればルーフェは魔の大陸の東を治める魔王だ。正確にはエルヴィアが治めるのが普通なのだがエルヴィアに政治的観念を求めるのは無理難題が過ぎる。なのでエルヴィアの妻であるルーフェが基本的に政治を担当していた。ちなみに魔王というのはあくまで素因数が十を越えた魔族のことを表すので実際はそれなりにいる。と言っても確認されたのはせいぜい十数体だが。

「それはね、この地にあの馬鹿が居るって聞いて来たんだけど……どうやらその様子だとガセネタみたいね」

「エルヴィア様ですか?」

「ええ、というかあいつに様なんて付けなくていいわよ。馬鹿か阿呆もしくは変態とかで良いのよ」

「今はまだ負けるのでそうは呼びません。様はやめときます」

そう言ったスイにルーフェは面白そうに笑うとスイを抱っこして膝の上に乗せる。

「……私は人形じゃないんですが?」

「お人形さんみたいに可愛いんだからセーフよ」

適当な事を言いながらルーフェはスイを離すつもりはないようだ。スイも諦めて膝の上で寛ぎ始める。

「ああ、そういえばエルヴィアなら帝都にいるよ。グルムスが言っていたし間違いないと思う」

「それ本当?」

「どれだけガセネタを摑まされたのかは知らないけどグルムスが嘘を付く理由も無いし居るんじゃないかな?私は会ってないから確定はさせられないけど」

「いいえ、信じるわ。グルムスが貴女に嘘を付くとは思いにくいもの。グルムスが居るってことは近くにウルドゥアも?」

「ん、居るよ」

「そう、ならまた会いに行かないとね」

「きっと喜ぶ」

「なら良いわね。でもそれならスイちゃんはどうしてこんな所にいるの?」

そこでスイは説明した。アルマに攫われたこと、殺して抜け出したこと、その後クライオンに深き道という異界を説明されたこと、そこでシャトラに会ったことなど一部の細かい所は端折りながらもおおよその説明をした。

ルーフェはスイが語るアルマの所では顔をしかめ殺した時には頷きクライオンの所を聞くと驚きシャトラの所では涙した。そのころころ変わる表情に自分とは大違いだなと思う。スイは何故かは自分でも分からないが余程感情が高ぶらない限りは表情に出ない。だからこの表情豊かなルーフェが少し羨ましく感じる。その微妙な感情の機微が読まれたのかルーフェがスイに問い掛けてくる。

「どうしたの?私をそんなに見つめて。もしかしたら見惚れちゃった?」

そう言ってくすくす笑う少女のようなルーフェに答える。

「私、どうしてか分からないけど表情が上手く出来ないんです。凄く感情が高ぶった時には勝手に表情に出るんだけどいつもはずっと無表情で」

そう言ったスイにルーフェはどう答えようか迷う。当然だがこんな悩み相談など受けたことは皆無だ。表情など普段は意識などしないのだし当たり前だが。しかし目の前の少女はそれに真剣に悩んでいる。

スイも精神年齢はせいぜい十四歳だ。人形と呼ばれて傷付いたことだってあったし親しい人の前でも無表情で居て嫌われたらどうしようかと怯える心もある。無表情のままというのはスイにとって恐ろしい案件でもあった。

「そうねぇ、スイちゃんは今何歳?」

「え?多分十…何歳だろ?」

勿論前世の年齢を含めるなら十四歳だ。記憶の一部は無くなってしまっているがそれでもおよその記憶は残っている。そして含めないのならまだ一歳にもなっていない。だからどっちで話すか一瞬戸惑ったのだ。

疑問符を浮かべたルーフェに自分が前世からの転生であることを話した。別に隠すことでも無いからだ。

「そう、チキュウね。懐かしいわその単語」

「懐かしい?どういうこと?」

「ああ、勿論私も転生をしたわけじゃないわよ?単にチキュウからやって来た女性を知ってるだけ」

少し気になったがルーフェは居住まいを正してスイと向かい合ったので問い掛けはしなかった。

「スイちゃんが十四歳ってことはまだ恋とかはしてないわよね?ならいつかしたらきっと人生が淡い光に包まれて表情も自然に浮かぶようになるわ。私もそうだったもの」

そう言って少し照れたようにはにかむルーフェにスイは驚く。

「本当よ?と言ってもスイちゃんと私はちょっと違うけど。スイちゃんは無表情だけど私は獣のような状況だったもの。感情はあるけれど扱わずただ恨み、憎しみ、怨嗟、そんな感情だけを私は出して過ごしていたの」

そう言って語られたのは神代の時代。魔族達の原初の記憶だった。

「当時私達は魔族の神クヴァレによって戦うための存在として世界に生み出されたわ。三神達の内人族の神アレイシアが狂ったことが原因よ。この辺りは知ってる?」

「ん、父様の記憶の中にあったから知ってる」

そう神代の時代の争いでは人族の神アレイシアが自らが作った人族のあまりに身勝手な数々の思いを受け止めてしまい心が壊されてしまったことが原因で争いが始まる。この事は一部の者しか知らない事実だ。とは言っても数千年以上前の話なのだからまともにその時の事を知ってるのは大抵魔族だけなのだが。

そしてアレイシアは狂い突如として亜人族の神ドルグレイと魔族の神クヴァレに喧嘩を売り後にその二神によって封印されることになる。封印の場所は決して人が届かぬ地とされているので海底か遥か遠い空の地にあるとされる。

「そう、それで魔族の神クヴァレはそこで私達を生み出した。史実ではその前から私達が存在するみたいに書かれているけど実はまだその時には私達は生まれてすら居なかったのよ。理由は分かるわよね?」

「まあ何となく。私達魔族だけやたらと強いのはそういうこと?」

「そうね。戦いのために生まれたから弱いわけがないのよ。生まれたばかりの魔族であっても人族を圧倒できるのはそれが理由よ。ついでに万が一倒されてもその子の分強くなるための素因よ。そうしたら次の子は更に強くなる」

例え倒されても同胞に力を託せるというのはそれが理由か。なるほど大戦終盤に魔王が生まれまくったのも良く理解した。

「でもね、元はただの魔神でしかなかったクヴァレは魔族と呼ばれる精神が未熟な存在しか生めなかったのよ。だから名前も魔人族じゃなくて魔族、人としては未熟であるという意味なのよ。まあ変に心を持っていると戦いの最中腕が鈍る可能性があったからってわざとなのかもしれないけどそれは分からないわ」

そこで一旦区切ると指輪から適当にジュースを手渡してくる。喉が渇いちゃったとはにかみながら飲む。スイも有り難く思いながら飲むと柑橘系のスーッとした味わいが染み渡る。

「えっと、だからね。私も最初は獣同然の存在だったのよ。服とかは生まれた時に着ていたものだけだったし血とかが付いても目とか口とかじゃない限り洗わなかったしって考えたら下手したら獣以下の生活ね。まあそんな私だけどね。当時は魔族同士ですら戦っていたのよ。同胞っていう意識すら希薄だからね。そこで出会ったのがエルヴィアなのよ」

そう言って微笑むルーフェ。そこには確かな愛情が感じられる。

「お互いに似たような力量だったからいつまでも戦い続けていてね。近くに誰も来ないからずっとよ。それこそ年単位で戦っていたわ。そしたらふとエルヴィアと戦うのが楽しくなってきている自分がいたのよね。いつまでも戦っていたい。勝っても負けても一緒に居たいみたいな感情。それが恋だと愛だと気付くのにかなり時間は掛かったけどね。それはエルヴィアもそうだったみたいでね。最後に私がちょっとした油断からエルヴィアに組み伏せられて負けちゃったのよ」

当時のことを思い出しているのか少し遠くを見つめるルーフェ。スイはジュースを飲むのも忘れて話に聞き入ってる。最早ただの惚気話に変わりかけているが二人とも気にした様子はない。

「そしたらエルヴィア何て言ったと思う?お前は俺より弱い。だから守ってやる。俺の側にいろ、よ?もうそう言われて私もはいって答えてね。二人して照れてるのよ!」

興奮してきたのかルーフェがきゃあきゃあ言い始める。大人の女性が悶えているのを見て周りの者が遠巻きに眺めているが二人は気にしてない……かと思ったらスイが認識阻害と記憶誤認という魔法を使って二人の姿を消した。眺めていた者も一瞬目の錯覚かと目を擦っていたが元々魔法に対する抵抗力が低い種族なのもあってすぐに忘れ去る。

「それでね、組み伏せられている最中じゃない?だからつい、その場で、ね?その時は獣みたいなやつだったわ。それから感情とかを理解しやすくなったわね。そしたらどんどん感情が生まれてきて今では自然になってきたって感じよ。だからスイちゃんもきっと恋をしたら自然になれるわ。私が保証してあげる」

最初の話、感情が上手く出せないというのは覚えていたらしくルーフェがそうやって締める。何故か途中変な話が入ったがその辺りは気にしなくてもいいだろう。

「そっか。ならうん。私も気にしないでおく」

「それで良いわ。そんなことで悩んでたら人生損しちゃう。楽しまなくちゃね。ってことでスイちゃんは気になる男の子は居ないの?」

そう言ってルーフェが詰め寄ってくる。

「い、居ないよ?」

パッと気になる男の子と言われ一人の男の子が思い浮かんだスイ。自分より年上で逞しい男の子。本心から守ってやると言ってくれた男の子。その為に力を付けている男の子。イルゥにからかわれた男の子。思い浮かんだのはアルフだ。

「へぇ……?そう。なんて言うと思ったかー。白状しなさーい」

誤魔化したつもりだが瞳や態度でバレてしまい捕まってしまうスイ。なので辿々しくもアルフのことを伝えていく。

「気になってるかは分からない、けどその男の子を見てると守ってあげたくなるし守って欲しくもある。近くに居て欲しいって思うし他の子と話してたらこっち見ないかなって思う。けど、別にそんな好きとかじゃなくってえっと……」

「え、なにこの子天然?天然なの!?可愛過ぎるでしょぉ!!」

結局興奮しまくったルーフェによってスイが意識を失うまでぐるぐるといつまでも回転されて起きた時にスイによって更に長い間そっぽを向かれることになるルーフェであった。

スイ「つーん」

ルーフェ「はぁはぁ、なんて可愛いのこの子」

スイ「何か逆効果な感じがしてきた」

ルーフェ「あぁ!もっとそっぽ向いてても良いのよ!?」

スイ「怖い(ぷるぷる)」

ルーフェ「きゃあぁぁ!可愛い可愛い可愛いぃぃ!」

スイ「揺ら、しゃ、ないでぇ……きゅう」


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