89.君のために誓う
ようやく深き道の探索が終わりそうです。
思った以上に長くなってしんどい(´・ω・`)
クリスタルを回収して二人は屋敷に戻ってくる。そこでようやく自分達が如何に屋敷を見れていなかったのが良く分かった。長い年月の果てに打ち崩れたのであろう扉、最初から開いていると勘違いしていた門扉は腐り落ちて地面に打ち捨てられていた。恐らくこのクリスタルのせいで真実の姿が見れなくなっていたのだろう。
「……シャトラは綺麗好きだったからね」
「そういう問題かなあ?」
スイの言葉に首を捻りながら屋敷の中に入っていく。中は頑丈に作られていたのかそれほど際立って壊れている部分は無かった。しかしやはり脆くなってはいるのか壁を触った時に一部は崩れてしまった。
食堂は何故かかなり綺麗でありテーブルや椅子も新品同様の姿で置かれていた。それに疑問を感じて見ているとスイが教えてくれた。
「ほら、そこの四隅に珠が置かれてるでしょ?あれは刻落としの宝珠っていう魔導具であれで囲うと中の物は時間が……というより経過が遅くなるみたいな感じで……えっと、意外に説明しづらいね」
「ああ、何となく分かったから良いよ」
拓也はそれだけ聞いて理解したので一応回収しておく。もうこの食堂で使われることはないだろうから。
「スイは要る?」
「私はもう持ってるから良いよ。あげる」
そう言ってスイは指輪から同じ宝珠を出す。
「これって四つで一つなんだよね?別々に使われてたやつでも機能するの?」
「しない。特殊な識別用の暗号が入ってるから同じ個体を作らない限りはならない」
「そっか。しかし四つで囲わないといけないんだよね。意外に使いづらいかも」
「何かの箱に入れてその中に腐らせたくないものとか入れて指輪に入れれば良いよ。指輪の中でも宝珠は機能してくれるから」
「へぇ……それなら多少は便利かな。スイも同じようにしてるの?」
「私の指輪は時間も容量も無制限だから」
「えぇ……」
拓也が若干引きながら次に二人が向かった先は風呂場。やはりここにも同じように宝珠によって保たれていた。
「そんなに宝珠が欲しいの?」
「欲しいって訳じゃないけどあるのに持ってかないのもなぁって。万が一だけど誰かがやって来て、やった、魔導具じゃんって持っていったら何か腹立つ?」
「……確かに苛つくね。何も残さないようにしよう」
拓也の言葉にスイが同意して率先して回収していく。その姿に少し苦笑しながら拓也もまた回収していく。回収し終わると次にスイ達は何もないか確認するために多数ある部屋を二人で手分けして探していく。
その結果集まったものは、刻落としの宝珠×三(残りの一つは食料庫に残っていた)、竜玉(魔物の竜種が体内で生成する魔力のこもった玉、別に特別なものでもない)、イグレットペンダント(イグレットと呼ばれた人族が作り上げた至高の逸品、ただの装飾品)、ティアトのグラス(ティアトと呼ばれた亜人族が作り上げた至高の逸品、ただのグラス)、エンテカ(小さな宝石、ただし人工のもので現在では製作できるものが居ない、スイは知っているので出来るがわざわざしない)、食料多数(緑色の魚や紫色の肉など見た目からして気味が悪いものは全て拓也に譲り渡された、ちょっと顔が引きつったのは致し方ないだろう)等金銭的価値は高いが有用な魔導具は残っていなかった。
「やっぱりこの中に入れてるのかな?」
目の前にあるのは最初に向かった部屋。中にはアーティファクトと多数の魔導具が恐らく残っていると思われるがどうなのかは分からない。
「多分」
スイも少し不安なのか断言できないようだ。
「……じゃあ、開け……方が分からない、鍵穴もないのに何で閉まってるのこれ?」
開けようと扉を押したり引いたりするがびくともしない。錆び付いているわけでもなさそうなので何か特殊なことをしなければいけないのだろう。するとスイが指輪からこの屋敷に来る前に拾った石の剣を出す。それを扉に近付けると石がボロボロ剥がれ中から透明な剣が現れた。それは扉に吸い込まれるように消えると静かに扉が開かれていく。
「……入ろうか」
「……うん」
それを流石異世界不思議な現象だなぁと呆然と見ていた拓也はスイの言葉に応えて中に入る。
「……あった。癒狂の人形」
「何それ?アーティファクトなの?」
「ん、これは私が貰っても良い?」
「良いけど……どういう効果なの?」
「えっと、治癒に特化させまくったアーティファクト。私の素因も治せるものだよ。父様はこれを使うより前に亡くなったから出番は無かったんだけど……」
「そっか……」
「欲しいなら私が使ってからで良いならあげる」
「ん~、確かに欲しいといえば欲しいけどアーティファクトってデメリットがあるやつもあるって聞くけどそれはないの?」
「あるよ。デメリットというかこれの効果が強すぎるだけなんだけど」
「あっ、何となく分かった。過剰に回復するんだね?」
「ん、そう」
「それってどれくらいの傷を治すの?」
「……人族なら多分四肢欠損か瀕死状態くらい?」
「使い勝手がありそうでないような微妙な」
少し呆れた感じで拓也が言うと全くだと言わんばかりにスイが頷く。
「じゃあ良いかな。そこまでになったら使うのも困難だろうし」
「それが良いよ。骨が折れた程度で使ったら普通に死ぬから。魔族にとってはこれ凄く嬉しいんだけどね」
「何で?」
「魔族は外形が変わることはほぼ無いから過剰な回復をされても大して影響がないんだよ」
「ほぼ?」
拓也の疑問にスイがどう答えようか迷ってから少し考える。
「ん……魔族は身体が魔力で出来てる。それは素因から生まれる魔力でね。それ以外の、つまり外にある空気中の魔力なんかを取り込んだりしたら最悪外形が変わるんだよ。しかも治らない」
「うわぁ……スイはそのままでいてね」
「当然。それをしたら強くなりはするけど……私だって女の子だから」
スイは身震いして思い浮かべてしまった異形の想像を頭を振ることで振り払う。
二人して中の物を見ていくが特に珍しい魔導具があるわけではなく奥へと見に行くとアーティファクトを見付けた。
「これは?」
拓也の問いにスイは自分の記憶の中を探る。
「えっと、多分万能薬?」
「何で疑問系?」
「私の知ってるものとちょっと形が違う。似たようなものあったかな?」
記憶を探している最中のスイは一旦置いてそれを見つめる。見た目はフラスコのような形状で中に青い液体が詰まっている。光に翳してみると青い液体は時折緑色だったり紫色に見えたりする不思議な液体だ。フラスコの口には布が被せられそれを小さな紐で括り付けている。
「ん~、あぁ、違う。それ万能薬なんかじゃないや。それどころかアーティファクトですらない。テスタリカが使っていた武具修復液だそれ。万能薬に似てるからせめて形を変えろって言われたやつ」
「武具修復液ねぇ。どう使うの?」
「掛ける」
「……それだけ?」
「それだけ。一応時間が経ったら勝手に量が戻るからある意味アーティファクトかも」
「それどう作ったのさ」
「さあ?テスタリカしか概要は把握してないから」
スイはその辺りは投げた。知らないものは知らないのだから仕方ない。テスタリカの把握が今この場にあれば使うのだがあれはイルゥに渡してしまっているので無い。把握があっても理解出来たかは分からない辺りテスタリカという人物はある種天才だった。
「でもアーティファクトには流石に意味無いよね」
「あるよ」
「何で!?」
拓也が自分の武器イグナールを見ながら言うとスイに反論され思わず叫ぶ。
「テスタリカは唯一アーティファクトの修理が出来る魔族だったから」
「えぇ……ってあれ?アーティファクトって不朽不壊って聞いたけど壊れるの?」
「ん、同じアーティファクト同士で打ち合えば等級が高い方が打ち勝つよ。そうなったら打ち勝たれた方は壊れちゃう」
「等級?そんなのあるの?」
「ある。一般には知られてないし私も詳しくは知らないけどね。例えばイグナールの等級は五、等級が七段階評価だから高めの方だね」
「でもそれより高いのが二つもあるんだ」
「ある。というか今私が持つグライスが等級七だよ。最強の五振りの内の一つ。ただ斬るというものを突き詰めすぎた剣」
「へぇ……五振りか。僕も持ってみたい気もするけど振り回されそうでもあるなぁ」
「振り回されると思うよ。グライスは結構気難しいしシャイラは持ち主が居るっていうのもあるけど適格者じゃないと使えない、トリムグラスは魔法が使える人だと殺しちゃうしカンターは寄生してくる、メッドは……使えるかもしれないけど疲れるかな」
スイの言葉にえぇっと嫌そうな態度を取る拓也にスイは笑う。それを見て拓也も笑う。
「まあとにかくその液はアーティファクトだろうが直してくれるんだよ。私のグライスが壊れちゃうことはまあ無いだろうしティルも一部壊れた程度だったら勝手に修復するから要らない。それは貴方にあげる」
「良いの?」
「良いよ。イグナールや影の衣は等級が五だから壊れちゃう可能性が少しあるしね。ここまで付き合ってくれたお礼だよ」
そう言ったスイに拓也は今更ながらこの異界探索が既に終わりに向かっていることに気付いた。
「……ねぇ、スイ」
「付いてきたいなんて言ったら怒るよ」
拓也の言葉を先んじて止めたスイ。その表情は少し悲しげでありながら確固たる覚悟を決めていて連れていくつもりは無いんだろうなとそう感じさせた。
「誓約はこの異界を出たら勝手に切れるから安心してね」
「……スイ」
「…………何?」
だから拓也も覚悟を決めた。
「僕は……君を守るよ。どんなことがあっても君の味方になるよ。だからいつかまた会えたときはその時は僕を受け入れてほしい。君のための勇者として隣に立つ権利をくれるかな?」
少し気障ったらしくでも本心を打ち明けた。それに対してスイは少し泣き笑いの表情を浮かべてから小さくしかし確かに頷いた。
「ずるいね。貴方は」
「ずるくても良いよ。僕は君を守りたいってそう思っちゃったんだよ。何でかは知らないけど」
「そう……じゃあその時は受け入れてあげる。私の隣に立てるように頑張ってね」
そう言ったスイの表情はどこまでも綺麗で美しい笑顔を浮かべていた。
舞台裏的な
スイ「癒狂の人形って西洋人形っぽいんだけど思った以上に可愛くない」
拓也「それは言っちゃいけない。想像を微妙に斜めに越えていった感じの人形だけど気にしちゃいけない」
人形「(´・ω・`)」




