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58.ルゥイと試合

今回は短いです。



授業を決めた後は何もすることがない。教科書類は既に貰っているし席なども決めるわけではない。委員長などは特に決めることはないようなので後は自由行動である。

「ルゥイ前に言ってた鍛練ここの演習場でさせてもらう?」

「そうね。先生に言って使用許可を貰いましょうか」

「私達も良いですか?」

ルゥイと話していると丁寧語なアルフが会話に入ってくる。

「ん、良いよ。でも今回は組み手出来るか分からないよ?」

「構いません。どんな些細なことでも私達は力を付けたいのです。鍛練が無駄になることはないでしょう」

アルフがそう言うとフェリノ達も全員頷く。まあ止める理由はないので皆でぞろぞろ歩いて職員室に向かう。職員室でオルケンリッツ先生を見付けたので声を掛けるとあっさり許可が貰えた。危険なことさえしなければ基本的に許可は必要無いようだ。だけどわざわざ言いに来た私達に好印象を持ったようなので良しとしよう。


演習場に入ると数名の男子達がお互いに木剣を向き合って模擬戦をしていたり端の方で魔法の鍛練をする者が居た。私達は話が終わってからすぐに職員室に向かった筈なので確かに許可は要らなかったのだろう。

「とりあえずどういうルールでやりましょうか?」

「ん、私もルゥイも力が強いから木剣で、それ以外の使用は無し、魔法も使用不可、竜気も無し、純粋な剣技だけ、範囲はそこの木からあっちの木までで勝敗が決まった瞬間に終了で」

「分かったわ。魔法は元から使えないけど竜気なんて使えるわけないじゃない。でもそのルールじゃ私にとっては殆どハンデ無しよ?」

「ん、私の腕が知りたいからね。一回目は我慢して。負ける気はないけど。竜気は多分ルゥイ使おうと思えば使えるよ。後で教えるね」

「そう。まあ良いわ。人災の剣聖ルゥイに剣で勝とうなんて甘いってこと教えてあげるわ」

ルゥイはそう言って不敵な表情で微笑む。私もにっこり返す。剣で勝とうなんて甘いというのは分かっている。だけど私は負けず嫌いだ。総合的に勝っていても部分部分で負けているなら全て勝ちに変えたくなる程度には負けず嫌いだ。だから私は今回全力で勝ちにいく。

私達はお互いに木剣を握り向かい合う。開始の合図は要らない。お互いに呼吸を整え意識を研ぎ澄ませていく。どちらが先かは分からない。しかしほぼ同時に動き出した。

私は屈みながら下から跳ね上げるように木剣を振るとルゥイはそれをほんの少し後退して避ける。後退しながら足を払うように木剣が振られる。私はそれを同じように後退して避けようと……!?

咄嗟に後退ではなく横に飛び退く。その瞬間ルゥイのとてつもない速度で振られた木剣が私が最初にいた場所と後退しようとした場所を同時に切り払う。

「あら?避けられちゃったわね」

ルゥイが楽しそうに言う。同じタイミングで二ヶ所に斬撃を発生させるという無茶苦茶な動きをしたルゥイを私は睨む。想像以上だ。これが人災とまで呼ばれる者の実力の一端か。私は気を引き締めた。

私はルゥイに向かって駆け出すと一瞬だけ全力で走りルゥイの背後に回り木剣を振り下ろす。ルゥイは私を見失った筈なのに木剣が当たる間際で木剣を振り向かずに当てて軌道を逸らす。私は弾かれた木剣を無理矢理力で反対に振る。

「数瞬後にはそこに敵は居ないと知りなさい」

振った先にはルゥイは居なくていつの間にか私の喉元にルゥイの持つ木剣の切っ先が当てられていた。

「……っ、負けたね」

「えぇ、私の勝ちよ。だけど我流であれだけ使えれば上等だと思うわ」

「……負けた」

「うん?えぇ、そうね」

「負けた……うぅぅ……」

「えっ、えぇ!?ちょっ、泣かないでよ!?」

負けた……悔しい。手も足も出なかった。そりゃ私は剣なんてこの世界に来てから初めて使ったよ?けどけど頑張ったのに。凄く頑張ったのに負けちゃった。

涙で前が滲む。ルゥイがおろおろしながら頭を撫でたりしてくれているけど涙が止まらない。その姿を見てアルフ達が呆然としていた。私が泣く姿を見たのを初めてだからだろうか。私だって泣く時は泣くのに。

周りで模擬戦をしていた男子達は泣いている私を見てどうしたのかと動きを止めていた。魔法の鍛練をしていた子は集中が切れたのか魔法が暴走を……。それを見た瞬間私は左手を振り払いながら魔力の波を送り魔法を掻き消す。魔法を掻き消された子は凄く驚いていた。

「凄いわね。魔法に込められた魔力を僅かに上回る程度の魔力で術式の崩壊を促して消したのね。貴女剣より魔法の方が得意なんじゃないの?私との鍛練じゃなくて魔法の鍛練の方がいいんじゃないかしら?短所を鍛えるより長所を伸ばした方が……」

「駄目。剣が使えないとあいつには勝てない。あいつはアーティファクトを持ってる。溶剣アブザル。溶かせないものは無いって言われるくらいの超高熱を纏う剣。あいつはそれを元に発生した魔族だから。だから剣が使えなかったら成す術もなくやられちゃうよ」

ルゥイが言った言葉に対してそう答える。魔神王ヴェルデニア、素因は≪溶剣≫。アーティファクトそのものとも言える魔族だ。アーティファクトが壊れればヴェルデニアも死ぬけれど不朽不壊のアーティファクトは壊れない。アーティファクトそのもののようなヴェルデニアだがやつが死ねば恐らくアーティファクトも同様に壊れることだろう。だが私にとってそれはどうでもいい。アーティファクトを壊してヴェルデニアを死なせるなど考えてもいない。

言っていて気になったのはどうやってヴェルデニアが発生したのかだ。本来アーティファクトから魔族が発生するなどあり得ない。でなければそもそも意思があり一番魔族化しそうなグライスがしていないなどあり得ないだろう。そもそもアーティファクトはあくまで使われる道具だ。自力で行動など考えられていない。つまり誰かが意図的に発生させたのだ。

私の雰囲気でも変わったのかルゥイの表情が少し強張る。私はすぐに思考をやめてルゥイの頭撫でに集中した。ルゥイの撫では気持ちが良い。ずっとしてもらっても良い位だ。すると強張った表情が徐々に呆れの表情になった。解せぬ。


「とりあえずルゥイには剣を持った上での立ち回りとか色々教わることにする。私はルゥイに合った鍛練のメニューを考えるから今度は何でもありの試合ね。流石に今さっきのだけじゃルゥイの実力がいまいち分からないから」

「分かったわ。ということは今度は本気で来るということね。気合いを入れましょうか」

私とルゥイはさっきと同じように向き合って対峙する。しかし今度は魔法もありの試合だ。少し私も気合いを入れようか。私の変化を感じてルゥイは私をじっと見つめる。挙動一つも見落とさないといった感じだ。

「来なくて良いんだ?じゃあ今回も私から行こうかな。天雷(ケラウノス)

ルゥイの元に極大の雷撃が落ちる。咄嗟に転がるように逃げたようだが私の魔法はそれだけではない。天雷(ケラウノス)は雷撃が着弾した場所から放射状に雷撃が広がり地面から逆に反射してくるのだ。それに数瞬後に気付いたルゥイは逃げようとするが間に合わず雷撃が当たる。

「うあぁぁ!!」

最初の直撃程ではないがかなりの雷撃の威力の筈だ。ルゥイは少しふらつきながら立ち上がる。

「……暴禍(メイルシュトローム)

私は地面に手を当てながら魔法を唱える。暴禍(メイルシュトローム)は渦だ。イメージはミキサーに近いだろうか。私の手を基点に右回転と左回転を同時に起こす感じか。つまり今回の場合は地面がぐちゃぐちゃにかき混ぜられる。そうなれば……。

「うわぁ!地面が回転して!」

「何だこれ!やばい!逃げろ!」

その状態で次に使う魔法は……。

深淵の峡谷(アビスキャニオン)!」

地面から次々に岩が飛び出し峡谷を作り上げていく。回転しながら。イメージはミキサーの横の刃のようなものか。ただし規模も凶悪さも比較にならないが。

「舐め、ないで!閃月!」

ルゥイが木剣に魔力と竜気を混ぜ込んで……無意識に使ってるのか。木剣を振り抜くと軌跡を残して岩が全て斬られた。木剣は岩を斬れるのか凄い。けれどこれで終わりだ。

天雷(ケラウノス)

「はっ、きゃあぁぁ!」

当たる瞬間に魔力を霧散させる。

「私の勝ちだね」

「負けたわ……そのむかつく顔を引っ張りあげてやりたいわね」

何故か勝ったら頬を引っ張られた。解せぬ。

スイ「私の勝ちだね(ドヤ顔)」

ルゥイ「イラッ」

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