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56.その頃のある所



「スイ様!大丈夫ですか!?」

グルムスが後ろから呼ぶ声が聞こえる。少し長く呆けていたのかもしれない。グルムスの接近に気付けなかった。

「……あ、うん。大丈夫だよ」

「それは……ヴェインですか」

グルムスの視線は私の手の内にある素因に向いている。やはり素因を見ただけで誰のものか分かる程度にはグルムスにとっては親しい間柄だったのだろう。

「ん、ヴェインの素因、≪天鏡≫だよ。使われなかったけどね……」

「そうですか」

「……グルムス。お願いがある」

「何でしょうかスイ様」

「私を鍛えて。今回私は手加減された。普通に戦ったら負けてた筈。私はこの程度で躓けないから。出力だけ多くても私は技術で完全に負けてた。戦闘技術なんて今まで必要無かったから分からなかったけどこのままじゃいけないから……お願い」

私の言葉にグルムスは真剣な瞳でこちらを見返す。少し考えた後グルムスは恭しく礼をして言葉を返す。

「……分かりました。私の持てる技術、その全てをスイ様にお伝えします。ですが役に立つかまでは分かりませんよ?」

「大丈夫だよ。その辺りは頑張るから」

そう、頑張る。今までは頑張っているつもりでも頑張りきれていなかったのだろう。ならもっと頑張るしかない。力に頼るのではなく自分自身を鍛えなければいつまでたっても成長はないだろう。

「スイ!大丈夫か!」

遠くから物凄い大声で私を呼ぶ声が聞こえた。振り向くとアルフが走ってきていた。あれは魔闘術かな?ぼんやりと輪郭が光っているように見える。大声を出すのもどうかと思ったので手を挙げて振っておいた。それを見るとアルフは安心したのか魔闘術が解ける。走るのはやめなかったが。

「ん、大丈夫。アルフたちの方は大丈夫だった?」

「ああ、俺達の方は大丈夫だ。フェリノもステラもディーンも全員無事だ。俺が先行したから後から来ると思う」

「そっか。分かった」

「それよりあの魔族を操ってたやつは倒したのか?」

アルフが何気無く発した言葉にハッとする。

「あ……」

「あ?」

「忘れてた」

「忘れて……え?」

完全に忘れてた。あいつは流石にもう逃げただろう。ヴェルデニアに報告をするのは間違いない。まずい。このままでは力を付ける前に逆に消されてしまうことになる。私は必死に状況を変える一手を考える。すると後ろから可愛い少女の声が聞こえた。

「大丈夫なのですよお姉ちゃん。私が変えておいたのです」

振り向くとイルゥが立っていた。にこにこと笑顔のイルゥを思わず抱き締める。

「ありがとう」

「良いのですよ。お姉ちゃんの為なのです。私が出来るのはこれくらいですから」

イルゥの基幹素因≪改竄≫によって事実が変わったのだろう。そうでなければどうなっていたか分からない。この失態は決して許されるものではない。次は……必ず仕留める。その為には私は力を付けなければいけない。私は決意を新たにした。イルゥを抱き締めながら。客観的に見たら締まらないなぁ。



――ある獣達と魔族少女――

私は榛原(はいばら)(みなと)。地球から転生してきた転生者というやつだ。まあ人族だっけ?にはならず魔族という嫌われ者の種族に転生したようだけどまあそれは良い。魔族だからか私の背中には小さな蝙蝠のような羽が生えている。少し意識したらパタパタ動くが飛べそうにはない。飾りみたいなものだ。

私は前世である地球で幼馴染みの女の子とその弟が亡くなったことにショックを受けた。その時に私は幼馴染みの女の子の死因を訊きその通りに死んでみた。後追い自殺っていうやつ。

幼馴染みが亡くなったからといって死ぬなんてって思う人は多いと思うけど私にとって彼女達は世界の中心であり決して無くしてはいけないものだったのだ。私もきっと彼女達と接する内に狂わされていたのかもしれない。まあそんなことはどうでもいい。

とにかく私は亡くなった。そうしたら発生?っていう魔族にとっての誕生をして目覚めたら草原のど真ん中だった。正直途方にくれた。いやだって何の説明もなく草原のど真ん中に出されたら皆呆然とすると思う。その後多分三十分位考え込んでいると目の前に大きな狼と鳩ぐらいの大きさの雀っぽい鳥がやってきた。

はっきり言って見た瞬間に格の違いみたいなものを感じた。あっ、死んだかなって思っていると二人?で何か話し合っている。念話とでもいうのかそんな感じの会話で言葉って感じはしなかった。そのお陰で私は会話に困らなかった。

そんな感じで何だかんだで一緒に街に行くことになった。何故かは知らない。大きな狼がイルナで雀っぽい鳥がシェティスというらしい。私は名乗ろうとしたらその前に名を付けられた。進む者という意味を持つらしいルーレだ。これからは湊ではなくルーレと名乗った方が良いだろう。片仮名ばかりの名前が多いこの世界アルーシアでは湊は目立つ。

とりあえず街に向かったらいきなり門から何かが飛んできた。レーザーみたいというかまんまレーザーが飛んできた。

「えっ!?」

『面倒だな。シェティス防げ』

『えぇ~、面倒ですねぇ。っとちぇい!』

飛んできたレーザーはシェティスがその小さな羽を片方だけぶんと振る勢いだけで曲げられてしまった。えぇ~。

神人形(ゴーレム)か。久し振りに見たな』

『ほぅほぅ、あの変なのが神人形なんですねぇ。あれっていっぱい居たんですかぁ?』

『そうだな。我が知りうる限り六百はあった筈だ。大多数は壊されたが現存しているものがあったとはな』

「何で壊されたの?」

『ん?あぁ、どこから説明するか。まあ最初からで良いか。どうせ前提から全く分からんだろうしな。かつて神代の時代と呼ばれた時代に作られたのがアーティファクトと呼ばれる不朽不壊の究極の道具だ。そのアーティファクトの一体があの神人形だ』

「ふむ。続けて」

興味深い話だ。私は歴史の話は結構好きだ。いずれ世界に刻まれる偉人になりたいなんて子供の頃は思っていたくらいには好きだ。いや正直今も少しその感情は残っている。

『神代の時代では人族も亜人族も魔族も仲良く過ごしていた。しかし突然それら三種族を作り出した神達が争いを始めた。人族の神アレイシア、亜人族の神ドルグレイ、魔族の神クヴァレがな。何が原因かは全く分からん。とにかく三柱が争いを始めたことによってその下位種族である三種族もまた争いを始めた。切っ掛けは人族の中で出た。我等の神が争いを始めた。ならば作り出された我等はそれに従うべきではないのかという人族特有と言ってもいいくらいの心の弱さだな』

「うっ……まだ門まで遠いし続けて」

元人族じゃない。元人間としては痛い話だ。確かに人間は強いけど弱い。それは知っている。そもそも私自身その弱さに負けて命を絶ったくらいなのだから。

『そして神代の時代は戦争時代へと移行する。呼び方自体は神代の時代のままだが。戦争時代はとにかく争いばかりだ。魔族は魔法を使い肉体だけで山を砕いていくし亜人族は近接戦が強い者は拳であらゆるものを砕いていくし竜族なんかは息吹で大陸に穴を開ける。人族もアーティファクトを作っては山を裂き海を割りと正直生き抜くことの方がしんどかったわ。魔物は本来襲う側だがその時代に限っては皆逃げ惑っていたな。余波で死にかねん。だからその時生き残り素因を得た凶獣達は今も隠れ潜んでいるしな』

……人族も相当化け物ばかりだったようだ。想像していたのとまるで違う。山を裂くって何だ。裂けるものなのか。

『まあその時代に生まれた魔族の中で特殊な生い立ちをしているのがウラノリアだな。戦争もかなり終盤になり始めた頃にクレーターから生まれたのだ。まあその時近くにいた者らは全員ウラノリアの混沌に飲まれて死んだようだ。ウラノリアはその頃理性をあまり持っていなくてな。暴れまわる獣のような存在であったわ。黒い獣、終世の渦、(わざわい)の種とか何とか色々呼ばれていたな。いつの間にか理性を得ていたのに一番驚いたがな。しかし理性を得た筈なのにやつはひたすら暴れまわった。争いを続ける場所に行っては殺し回りいつしか戦争時代は終わり始めた。人族の神アレイシアが封印されたのが切っ掛けかもしれんがその辺りは分からん』

そろそろ門が近くなってきた。何か門の上から飛び降りてきた。三メートルはありそうな人形だ。顔はのっぺらぼうなので男性型か女性型かは分からない。シェティスが面倒そうにその人形の攻撃を躱しては羽でべしっと叩いて吹き飛ばして……吹き飛ばすのかぁ。小さいのに怖い。

『で、神人形はその時に人族の手によって量産されたアーティファクトなのだが量産型だからかアーティファクトにしては弱いのだ。だから本来不朽不壊の筈のアーティファクトなのだが他のアーティファクトに攻撃されると砕けたりしてしまうのだ。そのせいで大多数は粉々になったのだ。まあこれが神人形が壊された理由だな』

「ありがとうイルナ。良く分かったわ。説明上手ね」

お礼を言ってにこっと笑うとぷいっと顔を背けられた。照れているのだろう。そう考えるとこの大きな狼が凄く可愛く思えた。

『邪魔ですぅ。壊しても良いですぅ?』

『駄目だ。そんなのでも一応この街を守るものだ』

『ぶぅぶぅ』

シェティスは手加減していたようだ。結構強かったのだが壊さないようにしていたのか。気付かなかった。というよりもしかしてだけどイルナもシェティスもこの世界ではかなり強いのではないだろうか?

「……凶獣か。おい!多分だけど意思がある系の凶獣か?」

思案していると門の上に立っていた赤い髪の右目に切り傷がある強面のおじさんが両手に大剣を持って見下ろしてきていた。両手に大剣というと一つの剣を握っているみたいだが意味は違う。そのまま二本持っているのだ。

『む?特徴的な姿だな。分かりやすい。貴様はガリアか?』

「俺を知っている?」

『ああ、スイを知っているか?白い髪の魔族の少女だ』

スイ……それが私と同様此方に落ちてきたと思われる少女。異世界から来ているのは間違いない。というか本人がそう言っていたらしい。その子が彼女かもしれない。けれど弟であったあの子らしい男の子は居ないようだし分からない。

「……知っている」

『ならば話が早い。こやつを鍛えよ。スイと同じ異世界からの落とし子のようだ』

「先に聞かせてくれ。この街への敵対はしないんだな?」

『む?してどうする?スイが暫く過ごしたらしいこの街を我が可能な限り守ってやろうというのにわざわざ壊すものか』

『私はぁ、早く神人形をぉ、止めてくれないとぉ、ぶっ壊しますよぉ!?』

『シェティス暫く黙っておれ』

『理不尽!?』

ガリアと呼ばれたおじさんは少し考えた末に神人形に対して何かしたようで動きが止まった。

「分かった。俺はその条件を飲んでやる。代わりに凶獣達にはこの街の防衛に手を貸してもらいたい」

『承知した。元よりそのつもりだしな』

ガリアさんが決めた理由は多分だけどイルナとシェティスが本気を出せば簡単に街を滅ぼせると分かったからだろう。後はそのスイっていう女の子のお陰かもしれない。とにかく私達は一悶着あったが何とか商業の街ノスタークへと入ることが出来た。

ルーレ「(とりあえずご飯食べたい。お腹空いた)」

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