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52.入学式



「入学式は明日。特に何かが必要とは聞いてないけど服は正装っぽいものにした方が良いかな?」

私は呟きながら適当に学園内部に存在する街を練り歩く。今日はルゥイは人災として動かないといけないらしいのでアルフ達を連れている。アルフ達も初めて見る不思議な光景にキョロキョロしている。やはり物珍しいのだろう。少し微笑ましく思う。

「あの建物は避難所としては使えそうだな。あっちは脆いから無理、あそこは……」

「逃走経路の確保が難しそうだなぁ。あっ、でも建物を崩せばなんとか?あとは……」

前言撤回。何を考えているのかこのもふもふ兄妹は。ステラやディーンを見習って欲しい。少し離れた所であんなに周りを見渡して……。

「襲撃されやすい建物としにくい建物を探しましょうか」

「うん。ちょっと気配隠して探してみるよ」

二人もか……。どうしてこんな戦うことばかり考えるようになったのだろうか。

「スイのせいじゃないかな?」

そんなことを考えていると後ろからお兄ちゃんが話し掛けてくる。振り向くと凄く良い笑顔だ。

「むぅ、心を読むの禁止するよ?」

「いや、ごめんごめん。謝るから許して?」

お兄ちゃんが手を合わせて謝る。仕方ないなぁ。

「……ちょろいな。他の男に騙されないか心配になってきたよお兄ちゃんは」

「大丈夫だよ。下心があるかぐらいは分かるから」

私がそう言うとニコッと笑って撫でてくる。ことあるごとにお兄ちゃんは私の頭を撫でるけど好きなのかな?ちょっとだけ髪の手入れを真剣にしようかな。今までも手を抜いていたわけではないけども。

大人しく撫でられていると何処からか視線を感じる。視線を感じる方へ目を向けるとまだ子供の筈なのにかなり太っ……豚みた……丸っこい体型の男の子がいた。年は多分アルフより少し若いくらいだろうか?その子は私やフェリノ、ステラをねっとりした気持ちの悪い視線で見ている。そのついでにアルフには明らかに敵意を向けていた。アルフは完全に無視していたけど。ちなみにディーンは既に気配を隠して何処かに行っているので視線を向けられてはいない。

「何だろ。気持ち悪いなぁ」

「ん?……あぁ、トラン伯爵の馬鹿息子か。トラン伯爵自体は良い人なのに生まれた子供は似ても似つかない馬鹿っていう子だね。ちなみにあの子は長男なのに爵位継承は養子として受け取った子にすると言われているよ」

「えぇ……」

思わずもう一度丸っこい体型の男の子を見てしまう。良く見ると周りに取り巻きみたいなのもいて持ち上げているようだ。

「爵位を受け継げないのに持ち上げているの?」

「子供達にはあえて知らせていないんだよ。知っているのは大人だけ。馬鹿なことをしたらその都度報告して他の馬鹿達も引きづりだそうとしてるんだよ」

「なるほど。なら養子の存在も知らされてない?」

「正解。それも知っているのは一部の大人だけだよ」

「可哀想に。道化だね」

私が哀れみを込めた目で――実際には表情に変化がないため見ただけにしか見えない――丸っこい子を見ると何か勘違いしたのか機嫌良さそうにこちらに向かって歩いてくる。面倒くさそうなのでお兄ちゃんの袖を引いて歩き出す。当然離れる方向に。アルフ達も移動したのに気付いて近くに寄ってきた。アルフとフェリノがささっと寄ってくる姿は何だか忠犬にしか見えない。耳とか尻尾がふりふり揺れているのが悪い。

離れようとすると後ろから小走りに走ってくる音が聞こえた。ふと見ると必死に丸っこい子と取り巻きが追い掛けてきていた。

「おい!お前!止まれ!」

妙に聞き取りづらい声で丸っこい子が呼び掛けてくる。流石に呼ばれたのに止まらないのもどうかなとは思うがアルフ達が全く止まらない。お兄ちゃんも苦笑いしながらやっぱり止まりはしない。

「止まれって!そこの白い髪の女の子だ!」

無視を決め込むのも良かったのだが私は振り向くことにした。アルフ達も流石に止まる。

「何?」

「ふぅふぅ、や、やっと止まったな」

丸っこい子は息切れしている。運動不足にも程があると思います。

「さっき私を見ていただろう?」

「見てない。じゃあそれで」

私がそう言って離れようとすると肩に触れようとする気配を感じた瞬間私でも一瞬見失うほどの速度でアルフがその手を掴む。アルフ……もしかして実力を隠してたの?

「おい。気安く触れんな。折るぞ」

アルフが今まで見たこともないくらい怒った表情で低い声を出す。流石にこれは演技だと分かったけど一部は本気じゃないかな。

「お、お前こそ誰の手を掴んでいる!」

「あ?知るか。お前のことなんてどうでも良い」

何だか見ていると……そうあれだ、少女漫画のちょっと髪を染めたりしてそうなイケイケ男の子みたいなノリに見える。私自体は漫画をあまり読まないから良く分からないけど同級生が良く話していた。こういう独占欲が強そうな子が良いんだと。いや貴女の好みとかどうでも良いとか思った記憶がある。

「お前!私はトラン伯爵の息子だぞ!不敬だ!」

「お前自体はトラン伯爵じゃねぇだろ。親の威を借りて恥ずかしい奴だな」

何かヒートアップしかけているけどこういう時は私が涙ながらにやめて!私のために争わないで!とか言った方が良いのだろうか?いや両方別に私を取り合っているわけではないのだけど。もう面倒くさそうだし離れちゃっても良いだろうか。良いよね?私が歩き出そうとすると丸っこい子に止められた。

「お前は何処に行こうとしてるんだ!」

「スイ……マイペースにも程があると思うぞ?」

むぅ……仕方ないので戻って丸っこい子を見る。

「で、結局何なの?」

「ふん、私のことを見ていたようだからな。お前もこの私の魅力にやられたのだろう?一緒にいることを許してやるぞ」

「流石ティモ様です!寛大ですね」

「ティモ様に感謝するんだぞ!」

さっきまで黙っていた取り巻き達が騒ぎ出す。どうでも良いけどアルフが丸っこい……ティモ君の左手を持ち上げたままにしているので凄く笑いそうになる。だってアルフは鍛えているせいか身長も高いので平均より少し低そうなティモ君の手を取って上に持ち上げると身体もぐいっと上がっている。見ようによってはぷらんぷらんしているようにも見えるだろう。その状態で魅力にやられたのだろう?とかどや顔で言われるとこう笑う。というか笑いを無理矢理止めているせいでお腹痛い。あと何で取り巻き達はそれを止めないのか。

「あっ、うん。そう、じゃあね」

とりあえず適当に受け流しておく。というか話し始めると笑いが止まらなくなりそうだ。まさか私の腹筋を壊すための策ではないだろうか。アルフも……やめて、左手をちょっと揺らし始めないで。ちょっとティモ君バランス崩してふらふらしてるから。見てたら笑いそうになるから。

「お前!ティモ様の寛大なお心をそのような適当な返事で濁すとは!」

何で取り巻き達はアルフが揺らし始めていることは何も言わずに適当な返事した私に突っかかるのか。アルフそのティモ君でちょっと遊び始めてるよ?揺らすのを止めて上に引っ張り降ろす。引っ張って降ろすってちょっとやめて。ティモ君無理矢理屈伸運動させられてしんどそうだから。

「いえ、私は元からこんな感じでして。どう返事をしたら良いか分かりません」

適当に返すと取り巻き達は納得したのかティモ君の後ろに下がる。何しに出てきたの君達?あとティモ君屈伸運動+揺らされて平衡感覚失い始めてるよ?というかティモ君はティモ君で何でアルフに怒らないのか。普通に怒っても良いと私は思うよ?

「お前名前は何と言う?」

ティモ君が揺らされながら強制屈伸運動中に話し掛けてくる。えっ、その状態で話すの?

「……スイ」

「スイか。良い名前だな。私はティモだ。ティモ・トラン」

一瞬だけふとティモ君を見る。何故か変な感覚がしたのだ。こう何かを取り繕ったような違和感みたいなものが。

「ん、覚えた。じゃあね」

とりあえず私は離れることにした。アルフとりあえずティモ君の右手に然り気無く手を寄せるのやめようか?それされると間違いなく私の腹筋割れちゃうくらい笑っちゃうから。

離れてから振り返って見たティモ君は何故か寂しげに見えた。



「えぇ、本校はかなりの歴史を持ち由緒正しい~~」

私は今かなり長い校長らしい人の話を聞いています。そう入学式です。というか目算だけど既に一時間以上話している気がします。長すぎませんか?

朝に母様が迎えに来て昼から始まるからよろしくねと言われアルフ達には私特製タウラススパイダーの魔糸を使って服を作りあげた。完成させた服は正装っぽいものだ。まあ必要なかったんだけどね。アルフ達はそれを着て後ろの方に座っていることだろう。ちなみに私の右隣には母様が、左隣にはグルムス、その隣にルゥイが座っている。ちなみにその隣の白髪混じりのダンディさんはトラン伯爵だろう。何で分かるかって?その隣にティモ君が居るからだよ。前方の席は爵位が高かったり無碍に扱えない人が座っているようだ。母様はこの国の大臣だしグルムスが何をしているかは知らないけど大きな屋敷に住んでいるし娘扱いのルゥイは人災だ。そりゃ無碍には出来ないだろうね。

「~ということです。ですから皆様しっかり勉学に励み~」

うん。とりあえずこれから毎年あるだろうこの校長の話は無くしても良いと思います。私は最前列にいるせいで寝ることも出来ずに退屈な話を聞くのであった。


「長い」

校長の話が終わった後は他の先生達による有り難いお話を聞かされています。何なの?精神力を鍛える修行か何かですか?全員校長程ではないが、いや結局一時間半近く話した校長に匹敵されたら入学式が一日で終わらなくなってしまうのだが。だけどお兄ちゃんの話だけは真剣に聞こう。ルゥイも少し眠たそうだったがお兄ちゃんが出てきた瞬間に起きた。

「えぇ~と、とりあえず皆お疲れ様。話長かったよね?僕も疲れちゃいました」

最初から笑い混じりにお兄ちゃんは切り出した。それを聞いてまだ起きていた人達が小さく頷いていた。

「僕は学園に来て浅いのでまだこの学園のことを全部把握してないです。なので正直言えることがありません。けど二つほど言えることがありましたのでそれだけ伝えようと思います」

お兄ちゃんはこの学園の教師になったのは二年前らしい。二年間で学園内部を全部把握するのが難しいっていったいどれだけ広いのか。

「一つ、この学園は戦技養成、つまり戦う術を得るための学園です。正確には入れた時点である程度戦えるのは分かっているけどもね。なのに何故更に養成するのか。それは簡単だ。その程度の力じゃ魔物と対峙すれば死ぬしこの中にはアルドゥスに向かおうとするのも居ると思う。君達に死んで欲しくないから私達は更に鍛え上げます。けどその力を使い人に向けるのはやめて欲しい。私達はここでその力を正しい方向に向けるお手伝いをするけど中にはそれでも止まらないのもいるだろう。君達はどうか間違えないでくれ。それが一つ目」

お兄ちゃんの話をうとうとしかけていた子達も真剣に聞き始めている。

「二つ、この場は学園。つまり学ぶ場所だ。ここで皆は色々なことを学ぶだろう。それは勉学であったり友の大事さであったりそれこそ様々なものだ。君達にはここでその大切なものを、大事に思うものを守る、その気持ちを育むお手伝いを私達はしよう。君達は正しく清くそして温かな心を持つそんな人間に育ってくれ。これが二つ目だ。私から言えることはこれぐらいかな?」

お兄ちゃんの話が終わって全員真剣に考えている。何だかお兄ちゃんが誇らしく思えてお兄ちゃんに見えるように笑顔を向けると気付いたのかニコッと返された。その笑みはどこまでも綺麗でその笑顔を全員が浮かべられるように頑張ろうと私は少しだけ気を引き締めた。

スイ「ふんす」

ローレア「……(いきなり気合いを入れ始めたのだけどどうしたのかしら?)」

グルムス「……(えっ、なんです?この可愛い生き物は)」

ルゥイ「……(くっ、お爺ちゃんが邪魔でスイを撫でられないわ。初めてお爺ちゃんが憎く思えたわ)」

トラン伯爵「……(何か隣から変な殺気がするな)」

ティモ「……(何で父上は私の方に身体を少し寄せてきたのだ?)」

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