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509.黒



にっこにこで私の後ろを着いてくる青年。見た目の年齢は十八かそこらに見える。まあ見えるだけで実際はもっと若いはずだが。綺麗な金髪に琥珀色の瞳、優しげな笑みは何処かの王子様だと言われても違和感が無い。その王子様みたいになった子はそれはもう輝かんばかりの笑みを浮かべてちょこちょこ着いてきている。唯一変な違和感があるとしたら何故か左手の人差し指と中指の間に細長い木の串を持ってる事だろう。いやうん、焼き鳥の串である。シェスだ。

焼き鳥の串でシェスだと確認出来てしまうのもどうかとは思うが出来てしまうのだから仕方ない。私が眠っていたと思われる年月は多く見積っても六年。というか多分その程度にユメがしたと想定している。だからディーンより小さかったシェスがここまで成長しているのはおかしいのだけどそもそもシェス自体ある種おかしい存在だから微妙に否定し切れない。超越者の理(欠片)持ちで魔力溜まりの魔力を全部その身に秘めたと思われるシェスだ。身体にどんな影響があるか分からない。というか今更だけどシェスの年齢を知らないからこの成長がおかしいのかおかしくないのかも分からないことに気付いた。

「……まあいいか」

多分シェス自体自分の年齢を理解していないだろうし大体で分かっていればそれでいい。特に気になるような事でもないし。

「姫様?」

「ん?何?」

「ううん、姫様が考えてたから気になって」

「大丈夫、特に何でもないよ。それよりシェスは話すのが上手になったね」

「うん!タクヤやルーレ、ゼブル爺が教えてくれたんだ。姫様とちゃんと話したかったから頑張ったんだ」

まるで子犬みたいなシェスにあんまり性格とかは変わってなさそうだなぁと思った。無垢で純粋な……。

とか思ってたらシェスが凄い速度で左手の串を投げ付けた。投げ付けた先に居たのはごく普通、に見える男の姿。串が通り抜けたのか頭から血を流して倒れた。

「ん、あれは?」

「さっき襲ってきた奴。服装替えて変装しても匂いや気配までは変えられない。あと血の匂いが酷い」

犬かな?五感が鋭いのは分かっていたけれどまさか人混みの中の匂いを嗅ぎ分けられる程だとは思ってなかったよ。というかそれなら普段かなりきついんじゃないだろうか。

「大丈夫、姫様。五感は気にならない。ちゃんと切り替えられる」

どうやら普段の私みたいにある程度自分で調節出来るようだ。魔族の私は身体の作りを一時的に変えてそうなっているんだろうなぁとは推測されるがシェスはどうやってるんだろ。脳にスイッチみたいにオンオフ切り替え出来るような特殊な機能でもあるのだろうか。分からないけど深く考えても理解出来なさそうなので考えるのを辞めた。

倒れた男に人が群がって悲鳴が上がっていたりするけど流石に誰が殺したか等は分からないようだ。まあ目の前で見ていた私も凄い速度だなぁと思ったくらいだし見てもいない人からすると急に頭に穴が空いて死んだようにしか見えないだろう。串で殺されたとかに至っては考えてもいない筈だ。

「ちなみに何で襲われたの?」

「正確な理由までは分からないけど多分この街に来る前に襲われた盗賊の雇い主からの刺客だってゼブル爺は言ってた」

「盗賊の雇い主?」

「うん。貴族が雇ってて盗賊をやらせてるんじゃないかって。税とかも納めなくていいしバレなければマッチポンプも出来るだろうってタクヤ達も言ってた」

「ああ、なるほど。それで商売の邪魔されたと思った貴族から刺客が来たんじゃないかって話か。なら拓達も攫われたのはそれが原因かな?」

「多分。ゼブル爺が一応向かったけど……着いたはずなのにタクヤ達の気配が出て来ない。何かトラブルでもあったのかも」

「ん〜、正直ゼブルが無理な理由も良く分かんないけど……仕方ない。向かってあげるか。面倒臭いなぁ。私さ、ここに戻って来るまでに多分皆が想像しているよりも遥かに面倒な事して帰って来てるんだよね」

「うん?」

「ぶっちゃけ凄く面倒だから二人を救出したらその貴族も残った刺客も盗賊も纏めて殺して終わらせたい。その裏に何か居ても何かの策略があっても全部無視して全部殺して壊して終わりたい。それでさっさとアルフ達の元に帰りたい」

「うん……うん?」

「だからシェス。私の心を煩わせてるやつらをさ、とりあえず全員集合させるよ。それで決着ね」

スイの言葉に隠し切れない程の怒気を感じたシェスは思わずビクッとする。勿論怒りを直接ぶつけられた訳じゃない。だがその身からは以前のスイからは考えられない程の力を感じて本能から恐怖を感じたのだ。

「とりあえず拓達の方に行くよ。シェス」

シェスは自分に手を伸ばすスイを見る。そして一瞬恐怖を感じた自分に怒りを感じるがそれを隠してスイの手を取る。勿論スイは自分が怯えられた事も理解している。スイの前で感じた感情を隠し切ることが出来る人はそう多くなくシェスはむしろ分かりやすい方だったからだ。

けどお互いその事は言わずに手を繋ぐ。ちなみにリロイが平然とスイのもう片方の手を取っていた。リロイが手を繋ぎリーリアはリロイの背中におぶられている。二人は仲の良い姉弟のようだ。

街の中で急に飛び上がったら人に驚かれるので少し路地裏に入った辺りで飛び上がる。そしてそのまま拓也達の気配が消えた辺りまで一気にその速度を上げた。




「困ったな……多分この中に居るとは思うのだが」

その頃ゼブルは言葉通り眉根を寄せて困ったような表情を浮かべて目の前の小さな、ルービックキューブよりほんの少し大きい程度の小さな黒い箱を見る。ここに着いた時にはこの箱を食べようとする蛞蝓のような魔物が居たが即座にそれを殺し箱を手に取ったのだ。

「アーティファクトか?魔導具でここまで出来るとは思えないが……」

錬成が通じず更に定着の魔法が掛けられているのかゼブルの魔力を受け入れない黒い箱。しかもそれ以上に中と外で空間の大きさが違う。そのため力任せに壊せば中に居るであろうタクヤ達も大怪我、下手をすれば圧死しかねないという難しい状況だった。

「内部が極端に圧縮された空間、いや拡張された方か?黒い箱の中身はかなり大きな空間の筈。そこに入ると中の人間も小さくなる?いや空間が広いからそうではないのか?いかん、魔導具やアーティファクトの原理など知らんのだぞ私は」

ゼブルは基本的に道具を使う生き方をしてこなかった。それは自身の持つ素因のせいでもあったが魔導具やアーティファクトの難解さに理解を諦めた自分のせいでもあった。またそういう生き方を選択してきた為に機械オンチならぬ道具オンチのような状態になっているのだ。魔導具やアーティファクトだけではなくちょっと使い方が分かりにくい道具になると途端にポンコツ化するのだ。

「むぅ……力任せならすぐにでも壊せるのだがなぁ……」

そんなゼブルが黒い箱を持ってずっと唸っていると何かがこちらに来るのを感知した。そちらに視線をやると来たのは黒いピッチリとしたボディスーツのようなものを着た女性。目つきが鋭く青い髪を腰まで流している。もう一人は隣に狼の魔物を侍らせている小柄な中性的な男だ。服装的には男だが実際は良く分からない。そんな二人組はゼブルを睨んでいる。いや正確には睨んでいるのは女性だけで男の方は困ったようにへにょっとした笑みを浮かべている。

「何であんたがここに居るのよゼブル」

「えっと、お久しぶりですゼブルさん」

「久しいな、ラウ、クループ」

そんな二人組にゼブルは笑みを浮かべたのだった。

スイ「王子様になったねぇ」

シェス「姫様と同じ感じで嬉しい♪」

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