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502.ユメ



「……………………」

私は見た光景を信じられずに思わずその場を飛び出して過去から元の時間に戻って来ていた。そこには壊れた椅子を何とか立て直そうとして奮闘している鈴が居た。

「あら?もう戻って……あぁ、見たのね。それでつい戻ってきたってことかしら?」

「……あれ、何?」

「貴女が見たものが何か分からないから何とも言えないけれど……多分それが本物、というと変かもしれないけれど本当の両親よ」

優しい両親だった。子を想い居るだけで家を明るくするようなそんな両親。私という異物のような娘にも変わらぬ愛を注いでくれた両親。それが……あれ?

卑屈に笑い媚びたような態度を見せる両親。家に帰るまでは何とか見た。けれど帰ってきてからもその態度は変わらなかった。娘として家に居た幼い時の私に対してへらっとしたような笑みを浮かべていた。それを見た瞬間に飛び出していた。そして何が起きていたのかを私は全てを理解した。理解してしまった。幼い時の私がまるで従えるように親に命令しているのを見てしまったから。

「私は……私は両親を作り替えたんだね?過去に戻って自分の理想の両親に」

「ええ、それが私達のオリジナルが取った行動。そしてその時にしたのがこの世界での魔法の発現、更に私達のオリジナルはもっと凄くてどうやったのか見当も付かないけれど神に会った」

「そこで神と契約を交わし時を遡る力を手に入れた。外典・聖刻の理を」

「神様との契約内容は分かるかしら?」

「うん。もう分かってる」

「そう、なら私の最後の役目を果たしましょう。とは言っても……今の貴女には勝てそうもないけれど」

そう言って鈴は笑いながら鈴の剣を向けてくる。今なら分かる。鈴は決して強くない。動きを予測されていたのも私が無意識に加減してしまっていたからだ。

「……っ」

だからこの光景も当然だった。私の手刀でお腹を貫かれた鈴。地球で私が本気を出せば周りに被害が及ぶ。だから建物も壊さないように走っていたけれどそんな事もう気にする必要も無い。ならただ私は走って攻撃すれば良い。目で追えないのだから鈴が何も出来ないのは当たり前だ。

「……あぁ、残念。もっと貴女とお話したかったのだけれども……悔しいわ」

「そう言ってくれて嬉しい。けど……ごめんね」

「いいえ、じゃあ先に逝かせてもらうわね。貴女にはまだ色々とあるけれど頑張って。私の元に来るのはまだまだ先なんだから……」

私の腕の中で鈴が目を閉じる。すると鈴が光りゆっくりと空気に溶けるように消えていく。その一部は私の身体の中に入っていく。頭が冴え渡っていくのが良く分かる。きっと鈴と私は過去の分岐点で分かたれただけでなく自分の能力も分けられていたのだろう。私が何を持っていたのかは分からないけれど鈴はきっと頭脳とかその辺りだろうか。知る術は無い。

鈴の剣もまた空気に溶けるように消えていく。それどころか建物そのものがまるで元から無かったように消えていく。こんな超常現象が起きたらまず大騒ぎになるのは間違いないけれど私の耳には誰の声も聞こえてこない。少なくともこの辺りを包囲していた警察の声が聞こえてもおかしくは無いはずだけれど。

建物が完全に消えた時私はどこかのモールの通路に居た。消えたと言うより置換された方が正しいのかもしれない。どちらにせよ騒がれる事が無いならそれでいい。まあ多分すぐに大きな騒ぎになるのは間違いないけど。

私は転移魔法を使ってモールの屋上に移動する。そこには端で足をプラプラさせている女の子が居た。私や鈴とも少し違う。けど多分この子が私達のオリジナルなのだろうなと直感で理解した。

「……んぅ?あ、ようやく来た?遅いよ、もうー」

まるでアニメに出てきそうな大きな渦巻き模様の飴を舐めながらその子は言う。

「遅いの?」

「うん。私の勘だとー大体一年くらい前にはここに辿り着いてないとだめだよー。思った以上に弱いんだねー。意外って感じ?いや私と比べる方がだめかなー。まあ良いや。とりあえず辿り着きはしたんだし。あ、飴ちゃん食べる?私が作ったのだから美味しいよ。アイテムバッグもあるから後であげるねー。指輪は私手に入らなかったからさー。作るの面倒だったんだよ?指輪を何とか複数個存在させてもどうやっても私の手元に来ないの。運命って酷いよねー。手に入れた子の元は私だって言うのにその私にだけ絶対手に入らないんだよ?おかしいよー。あ、それと君だけは一応彼氏君出来たんだったよね。おめでとー。キスの味はどうだった?やっぱレモンとかそんな感じの味なのかな?でも普通に考えたら直前に食べてたやつの味とかになりそうだよね。というかキスに味なんてないよって話ならやめてよね?私ですらまだなんだからさー。まあ人相手に発情とか出来る気しないから良いけどね。キスとか無理無理。あ、あと」

「長い」

「バッサリー。やられちゃったー」

おどけるようにバタンキューとか言いながら倒れ込むオリジナル。だけどそれ以上に私は怖かった。オリジナルが私っぽくない、というか多分私がオリジナルっぽくないのが正しいけど。似ていないのは別にいい。けど明らかに隙だらけなのに攻撃でもしようものならその瞬間に首を落とされているようなイメージしか湧かない。多分この子には何をしても全て想定内で返されるんだろうなと思った。勝てないと本能で理解した。

「それで一応さー。契約内容は私じゃなくて君が答えますって感じでやってるから答えて欲しいなー。あ、私にじゃないよ?流石に分かってるよね?」

「……貴女が」

「貴女じゃなくてユメって呼んで。あ、名前じゃないよ。私の夢でもあり貴女の夢でもある私には相応しいからそう言っただけだから」

「……ユメがしたのは名も無き神との契約。契約内容はユメは外典・聖刻の理を名も無き神には名前と自身の記憶の一部を対価に渡してる。ここで渡したのはユメ自身の記憶じゃなくて私の記憶な事」

「そー、だって私の記憶は私の物だよ。誰かに渡すなんてちゃんちゃらおかしい。あ、君の記憶は元が私だから私の物って事で」

「……まあ良い。対価として渡されたものは返ってこない。そうだよね?」

「そうだね。君の記憶は、君って言うのなんか嫌だな。スイちゃんだっけ?今の名前。スイちゃんの記憶は戻って来ない。名前も聞き取れない。あ、あと感情だけは封印で留めてあげたよ?ありがとうはー?」

「勝手に捧げられて感謝も何も無いと思うけど」

「あっはは。バカだなー。私がやらないとスイちゃん死ぬんだから寧ろ感謝しろ」

「……どうせユメも死ぬ癖に」

「……へぇ?よし、じゃあ聞こうか。続けてー」

「ユメは二回契約を交わしてる。一度目は両親を作り替える為。そこからユメは二度目、スイとして転生しかけた時に契約してる。した後なのかする前かは流石に分からないけど多分した後だ。ユメは自力で地球に戻って来て契約を交わした。その時に手に入れたのは外典・正逆の理。対価は無し。代わりに約束を交わしてる」

「ほぅほぅ、続けてー。それでそれで、私は何をした?」

「ユメは自身の未来における消滅と過去の分岐点で生まれた私達による契約の完遂で結んだ。ユメが生き残れるのはもうそんなに長くない。だからこんな世界を作らせたんでしょう?地球を模したこの世界を」

「ふむふむ…………あはっ♪」

「契約内容は……いいえ、ユメに言うことじゃないね」

「そうだね。誰に言う?」

「名も無き神に、正確には……私が連れ帰ってきたあの赤ちゃんに」

私がそう言うとユメは心底楽しそうに目を細めて小さく笑い声をあげる。

「卵が先か鶏が先か。その答えは知らない。けど……あの赤ちゃんが後の名も無き神だ。そしてユメが名付けなかったことによって生まれた神でもある」

「……あっははははは♪せーいっかい!!流石私ー♪じゃあやることを決まってるね?」

「名も無き神に名前を付ける。それが契約内容」

私がそう言うとユメがそっと手を振ると腕の中に赤ちゃんが居た。

「さあ、名付けて」

「……あなたの名前は……」




名付けが終わると赤ちゃんは消えた。きっと本来の歴史に戻っていくのだろう。私がしたのは寄り道だ。

「さあ、スイちゃん、メインディッシュはまだだよ?」

「メインディッシュ?」

「そーだよ!!ここまで来たなら最後まで行かないと!!その為に私がここに居るんだから!」

ユメはそう言うと私の背後に回ると肩に手を乗せて向きを変える。その方向を見ると何か得体の知れないものがこちらに向かって来ている。そのおぞましく強大なそれに私の身体が強張る。

「だいじょーぶ!私が全て終わらせるからね」

「……そう、ユメ。あなたは最後に願ったのは誰かを守って死ぬこと?」

「ううん、違うよ。そこは間違いだね。私がしたのは悲劇のヒロインもとい悲劇のヒーローとなることさ!さあ、来るよ!私やスイちゃんがしたことでブチ切れて受肉してまで本体で殺しに来るガチ切れ神様が!そう!神殺しのエキスパート!というか神を殺すための神様!死神の登場だー!スイちゃん良く見てなよ!!あいつ最初から本気で殺しにくるから様子見とか全くしないから。ドライアイになったとしても一度も目を離すんじゃないよ!どうせ戦いの余波でこの世界ぶっ壊れるから!」

「……は?」

「だいじょーぶだってば。一緒に来た子は私が戻しといてあげたから。後はスイちゃんが最後に戻るだけ。あ、挨拶とかしてないなーって話ならごめんね?でもさ!最後まで振り回しまくるのが私だから!じゃあ見といてねスイちゃん。これが君の完成系で完全体で君が超えるべき私の姿だから!」

その瞬間に目の前にそれが居た。それが振り上げた大鎌はユメがいつの間にか奪われてたグライスで受け流された。グライスから『いつの間に!?』っていう困惑の声が聞こえてきた。

「あはっ♪見てろよー」

ユメは大鎌の攻撃を難なく逸らしながら私の方に向かってきた。そして私の身体に触れると躊躇いもなくお腹に手を突っ込んできた。

「いっくぞー!!さん、はい!絶界・第九圈(コキュートス)

瞬間、全てが凍った。私の身体以外の全てが静止した世界、目の前にいるそれにユメは全力でグライスを振り下ろす。しかしそれは即座に凍った世界から脱出するとグライスから避ける。

「あはっ♪だめだめー」

ユメはどうやったのか私の指輪からグライスの片割れを取り出すとグライスと合わせる。共鳴したような音と共に一つの長剣になったグライスをユメは振り回す。

「きっえろー♪残骸の世界(アシェルデ)!」

全てが斬れた。横一文字に振り回したそれは目に見える全てを切断しそれも、死神もまた真っ二つにした。

「あはっ♪終わりー♪」

ユメはそう言って笑った。死神はその骸を晒した状態で爆発するように消えたのだった。

「じゃあ時間無いからさっさとドーン!」

グライスを返された後ユメにドーンと言いながら押されると足場が無かった。背中から何かに飲み込まれるような感覚の後私の意識は消失した。

ユメ「さよなら」

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