493.まずは
二話投稿一話目です。
過去改変、これは重大な禁忌だ。神ですらその掟からは逃れる術が無い。犯したそれが歴史に与える影響によってはその存在そのものを消された上に過去改変の影響すら元通りにされてしまう程厳しく取り締まられている禁忌。
神の中でもかなり異質な存在である死神、それが管理するのは禁忌の影響である。死神には特定の名前が存在しない。また複数体存在しておりそのいずれもほぼ全ての神を滅殺出来るほどに強力な個体だ。それに自我はほぼ無いとされていて慈悲を期待する事は出来ない。影響力によっては消滅は免れるが罰は与えてくる。そういう存在だ。
死神の管理する禁忌は幾つか存在する。過去改変、未来確定、時間停止といった時間に関する禁忌、虚無の生成とかいう謎の禁忌、空間並列とかいう謎の禁忌、終焉、終端とかいう謎……とまあ正直時間に関する禁忌以外は想像もつかない禁忌ばかりだ。というか大抵のものは神でも実現させるのは困難だと思われる。現実的に実現出来るのは時間に関する禁忌、その中でも過去改変となる。
そういう意味では私を捕まえたがったあの神がやった世界全体のリセットによる時間のループはかなり危険な橋を渡っていると言わざるを得ない。結果としては禁忌にはギリギリ触れていない扱いのようだが恐らく二回目はアウトなんじゃないだろうか。
まあその辺りはどうでもいい。世界のループのようなものが二回も三回もあっては堪らないし。今重要なのは死神は過去の改変を徹底的に阻止しようとしてくるという事だ。それが如何に小さな出来事であろうとも阻止しようとする。一応余りにも影響が少なければ罰も与えずに放置するようだが、今回やろうとしているのは間違いなく大きい。何せ国民の全避難をしようとしているのだから。
勿論そもそもそれが成功しない可能性も高い。避難をさせようにも一定数信じない者は居るだろうし現状特に何も起きていないのだからただの流言飛語の類だと思われて流されるだろう。というか私でもそう思う。
ならばどうするか。一個人が言い回ったところで何も起きはしないけど。ならば信用に足る人物による言葉が必要だ。それこそ国に住まう人ならば信じざるを得ない者による言葉。国家権力の主である王の言葉が。
だが王を動かそうとすると手順がかなり必要になる。何せこの場合、私が暴れ回って国土を捨てさせようとしても徹底抗戦の構えになる事は想像に難くない。
現状使える手があるとすれば元姫の教育係?である爺のバエラル、まあ元の姿からはかけ離れてしまっているだろうけども。後は姫であるセラ。以上である。フナイももしかしたら使えるかもしれないがあくまで高位の探索者でしかないようなのであまり期待は出来ない。
「どうしよっかなぁ……他に使えるのは……」
そう言いながら頭を悩ませているとふと思い出した。フナイに喧嘩を振り私に剣を曲げられた挙句上司らしい貴族に殺された三人組、もとい貴族の方だ。
「…………一応面識はあるし上手く使える……かなぁ?」
名前も知らないがかなり個性的な護衛を連れていたことだけは覚えている。一応敵対?もどきはしたが現状は友好的では無くても敵では無い。それにスイの力を朧気ではあるがある程度理解している。無理矢理従えようとしても難しそうではあるがそこは何とか口先で騙せばいけるのではないだろうか?
「セラも居るし……流石に自国の姫の言葉に逆らう事まではしないよね……?」
「何の話だ……?」
バエラルが地面に押し付けられながらそう言う。というか普通に忘れていたので魔法を解除して立ち上がらせる。上半身と下半身を分かれさせたのに既にくっついている。流石亜神というべきか。魔族でもここまで早くくっ付いたりはしないだろう。
「貴族を使おうと思ってね。凄く個性的な護衛を連れた男だったんだけど名前知らないんだよね」
「個性的な護衛……?それならばオルノ侯爵かもしれん」
「…………護衛の特徴も言ってないのに分かるの?」
「盗賊の頭のような護衛でリヘド、女性のようなパーナ、大量の剣を持っているクローヴ、違うか?」
「あ〜、うん。合ってるね」
やっぱりあれあの時代の人でも個性的だと認識されていたんだとスイは思った。というかサラッと女性のようなって言われたことで男だったんだなと理解した。変な違和感があったけど納得した。
「とりあえずそのオルノ侯爵?とやらと面識があるから何とかならないかなって」
「そう……だな。オルノ侯爵には魔眼がある。それで見たといえば貴族達は重い腰をあげるかもしれない」
多分オルノ侯爵とやらもそこまで魔眼のハードルを上げて欲しくはないだろうなとは思うけど事態は一刻を争う。あの時私はあの国が滅ぶのは二百年以上先の話だと思っていた。何せ大戦による影響で滅びると思っていたからだ。けどあの神達のところで読んだ資料では始原の魔王、つまり父様であるウラノリアによって滅ぼされている。
ウラノリアが生まれたのは大戦中だと思っていた。何せスイが持つウラノリアの一番最初の記憶は人族、亜人族、魔族がぶつかり合って出来た膨大なエネルギーによって発生した魔族だからだ。そしてそれがおかしい。魔族はあの時代まだ発生していない。つまりどこかで矛盾が生まれているのだ。
「……その解消もしないとかなり致命的な過去改変になりかねないよね……」
大戦中期以降に発生するはずの魔族によって誕生したウラノリアが大戦以前の時代で一つの国を滅ぼす。スイが居たせいでおかしくなったのかとも思うがそれはそれでおかしい。スイが魔族であるとはいえ情報はあの時代に浸透していない。ならば魔族という概念も生まれないはずなのだ。
「まあやることは変わらない。父様の襲撃を止めるかその前に国を移転させて名前も変えさせて王家を消滅させる。そうすることで滅亡判定になる……筈」
確実にそうなるとは断言出来ないがそこまで変な事にはならないと思う。
疑問なのは何処から過去がおかしくなっているのかだ。それが分からない限り過去の改変は成功しないとみてもいい。それと何時ウラノリアがあの国にやってくるのかも気になる。
「……ふぅ、怖いなぁ」
国を滅ぼすほど暴れ回っているという事はほぼ間違いなくウラノリアは暴走している。始原の魔王とまで言われた究極の怪物、スイの本来居る時代の三匹達ですら恐らく逃げる事になるほどの強者、正直な事を言えば相対した時点で負けである。まともに戦って勝てる相手ではない。いやまあ姑息な手を使えば勝てるのかと言われたら否だと断言出来るが。
王道も邪道も等しく踏み潰す、そういう存在なのだ。だからこそ何故死んだのかも良く分からない。いや理由は知っている。知っているしどんな感情の元死んだのかもスイは、スイだけは知っている。
「父様……」
それはそれとして少しだけ楽しみでもある。暴走していると思われるがそれでも自身の父、混沌の能力も受け継いでいるスイならば逃げるだけならば出来るだろう。ウラノリアも流石に自身の消滅がしかねない能力を持つスイと本格的に敵対しようとはしないと思う。少し楽観的かもしれないが暴走していても自我が薄くても本能そのものは消えない。だから生存本能に訴えることが出来ればいけないこともない、と思いたい。
どちらにせよほぼ間違いなくウラノリアと相対する可能性が極めて高いのだから少しくらい楽観的に見たいと思うのはそうおかしくないと思う。無駄に気を張っても身体が硬くなるだけだ。
「とりあえずバエラル、お互い死なないように頑張ろうね」
私はそう言って笑みを向けるのであった。
メタァ
スイ「話が進まない!」
バエラル「おいバカやめろ」




