491.バエラル
遅れました。すみません。
「まず……ん〜、バエラルは私を殺したい、可能ならば過去、今、未来のその全てにおいて私という存在を消したい。違うかな?」
「いいえ、合っていますよ」
「まあそうだよね。その為に世界移動をさせて私の中に幾つもの異なる理を重ねて時間も積み重ねさせてその全てを私に適用させずに滞納させたんだもんね」
私の言葉にバエラルは何も答えない。しかしその表情から私の言葉が間違っていないと証明していた。
「圧縮させて私が戻ってきた時に負債のような形で押し付ける事で存在そのものを消し去りたかった。だって私を殺しただけじゃ貴方の目的は達成出来ないもの」
私は話しながら先程まで座っていたベンチに腰掛ける。そして横をポンポンと叩いて座るように促す。バエラルは嫌悪感を隠そうともしていないが一応は座ってくれた。この距離だと私もバエラルも近過ぎて攻撃出来ない。いや一応出来なくもないが大したダメージにはならないだろう。
「バエラル、貴方の名前だけどそれって神様になってからの名前かな?」
「何故そんなことを?」
「ううん、気になっただけだよ。さて、バエラルがなぜ私をそこまでして消したいかってなると答えは自ずと出てくる。私がした、或いは居たことで発生した過去を変えたいから。過去改変は神でも出来ないしね。いや出来る神はいるのだろうけど少なくともバエラルには無理だった。力を求めていけばもしかしたらいずれ過去を改変することが出来るのかもしれないけどそれじゃ間に合わない。変えたい過去が遠ければ遠いほど変えるための力は尋常ではない程に膨れ上がる。だから貴方はそれよりも原因の排除に力を入れた。ついでに憎い私も殺せるし一石二鳥とかそんな感じで」
指輪から適当な飲み物を取り出して渡す。中身が何かは忘れたけれど多分果物をそのまま搾ったやつだったと思う。バエラルは最初無視していたけど私が差し出すのをやめなかったら仕方なく受け取った。
「バエラル、貴方はあの姫様に爺って呼ばれてたこと、あるよね?」
私の問い掛けのようでただの確認であるそれにバエラルは目を見開く。
「消去法に近いんだけどね。まあ特定の方法はどうでもいい。貴方が爺と呼ばれていて私とえっと、姫の」
「……セラウィム様だ。セラウィム・エクト・ラードラス様」
「そう、そのセラの作った白タコとの間で起きた魔力爆発みたいなもので大規模な揺らぎが発生した。それだけなら何も無いんだけど多分それによって私やセラの繋がりを揺らぎが逆探知した。その結果あの場に居なかった人達も強制的に呼び寄せた。王とかみたいなのが来なかった理由は知らないけどね。少なくともセラにとっては父親よりはバエラルの方が身近で、だからこそ貴方は引きずり込まれた」
そこまで言ってから少しだけ申し訳なさそうに話す。
「その結果貴方は渡った時の衝撃かそれとも渡り切ってから何らかの事態に遭ったのかそれは知らないけれど渡った先の世界で貴方は死んだ。けどそれだけじゃない。貴方はその身体に、魂にその時溢れ出ていた地脈からの魔力を一部受け継ぐことになった。だから生まれかわっても貴方の記憶は途切れなかった」
バエラルは否定しない。ただ私を見てくる。
「貴方がアルーシアで最後に見た光景は私とセラとジィジ、そして自分と同様に何処かへと吸い込まれていく存在。貴方は生まれ変わってから途切れることなく続く記憶を頼りに転生した自分の身体を鍛えていった。その時の理由が何かは分からないけれどね。私を殺したかったのだと推測しているけれど合っているかは知らない」
「憎い貴女を殺しに行きたかったからですよ」
「そう……まあいいけど。そして鍛えて行き力を付けていくと同時に貴方はどんどん色んな知識を得ていく。そしてどうやったのかは知らないけれど神の座へとその手を伸ばしきった。今の貴方は亜神とでも呼べばいいのかな?」
右手で持っていたジュースを飲み干すと遠くにあったゴミ箱に投げ捨てる。狙い違わず入ったそれを見ながら言葉を紡いでいく。
「亜神となった貴方が最初に見たのはアルーシア。そしてそれと同時に亜神になった自分がアルーシアに戻れなくなっていることを知った。まあ他世界の神にポンポン来られても困るしね。まあとにかくどうしようも出来ない状態だった。そして貴方は見たんだ。自国が滅ぶ様を。そしてその原因たる私が生きていることを」
指輪からクッキーを取り出して齧る。バエラルにも勧めたが手を出そうとはしなかった。
「まあ滅ぶのは私のせいではないんだけど貴方にとっては自分やセラが居ればもしかしたらほんの少しでも防げたかもしれないと思えた。だからこそそれが叶わなくなった原因の私に恨みを募らせた。ちょっと理不尽だけども怒りを向けるべき先が分からないからね。仕方ないのかも。貴方は外側から自国が滅ぶ様を見れただけで誰がどうやって何時滅ぼしたのかは分からない。貴方が元々アルーシアの人であったという事実を考慮されてその辺の時間の資料だけ閲覧が可能なだけだし。むしろ閲覧出来るだけかなり良心的ですらある。普通出来ないしさせないからね」
世界の資料というのは敵対する神にでも渡れば一気に不正にアクセスされて世界を乗っ取られかねないほど危険な行為だ。そういう点を考えれば閲覧させた三神達はかなりお人好しというか危機感が足りないというか何にせよあまり宜しくはない。
「そして閲覧した内容からじゃ私がどんな存在かを把握することも出来ない。そもそもあの時代に私と同じ種族居ないしね。知識としてそもそも無いんだから知りようがない。だから微妙にズレた殺し方を私に行うことになった。最後の保険として残していたものを切り札にしないといけないくらいにはおかしくなった。まあ最終的には使って存在を消すつもりだったんだし保険?というのもおかしいかもだけど」
そこまで言ってからバエラルを少し見る。バエラルは凄く嫌そうな顔で「……合っている」とだけ呟いた。恐らく内心ではそこまで理解している私に気持ち悪がっているのだと思う。
「そして誤算は当然私の情報不足。魔族について知らな過ぎること。そもそも私自体が未来から来た存在だということも知らないこと。そして過去改変は仮に行えても修正力がある程度働くのとその代償は貴方の存在抹消だったりとかで……まあ短絡的にも程があると言わざるを得ないかな。どう頑張っても恐らくあの国はそう遠くない内に滅ぶよ。それに……そもそも滅びの運命そのものに私は関わってない。あの国は……ただの流れ弾で消されただけだもの」
私が少し言いにくそうにそう言うとバエラルは私を睨むかのように見る。
「本当だよ。あの国の運命とでもいうものに私は一欠片も関わってない。私が居ても居なくてもあの国は消える。まあその憎悪がその消える瞬間に自分が居なかった事についてのものならば甘んじて受けてあげるけども。ただ言えるのは貴方が居ても消えるその瞬間まで何が起きたかも理解せずに消えていたと思うよ。私だって居れば同じことになっていたと思うし」
そこまで言ってからふと思い出す。あの国についての知識を。滅ぶことは元から知っていた。けど何故滅んだのかは正直分かっていなかった。けど神の元で読んだ資料、あの中にあったのだ。何故滅んだのかが。読ませるつもりで持ってきたのかそれとも単に偶然なのかは知らないけれど理由は明白、そしてどうしようも出来ないほどの天災だった。資料にはただ一言だけ書いていた。
「始原の魔王によって消滅」
始原の魔王、それが誰かはこれだけでは分かりにくい。だけどこれに該当する魔王なんてたった一人しか居ないのだ。
始原の魔王と。
スイ「父様やばい」




