490.鍛錬終了
短いです。
鍛錬が終わった。サッと言うには余りにも長すぎる期間だったと思うけど正直それ以外に言うことが無い。何せ私が何をやっても何も出来なかったからだ。攻撃しようにも近付けない。防御しても全部貫通してくる。回避も間に合わない。それでいて死なない程度に加減だけはされている。普通に考えて鍛錬というよりただの虐待に近かった。それでも一応やったのだ。結構頑張ったのだが結局最後まで何も出来ないまま終わってしまった。
「ふぉっふぉっ、まだ足りんという顔をしておるのう?」
「まあ……うん。もう少し頑張りたいなとは思ったけど……良いよ、そろそろ戻ろう。神を殺すには私はまだまだ弱いってことが分かっただけでいい、悔しいけどね」
「うむ、しかし良くぞ耐えたのう。長かったであろう?」
「途中から月日なんて数えてないから分かんない。起きたら常に殴りあってたし」
「それはそれでどうなんじゃ……?」
「クソジジイのおかげだよ、死ね」
「雰囲気と言葉のギャップが凄いのう」
一回クソジジイは死ねばいいのにとは思ってはいるがそのクソジジイのおかげで多少は鍛えられた感はあるので感謝はした方がいいのかもしれない……いや、やっぱいいや。こんなのに感謝なんてしたくない。
「酷いのう。まあ良い。そろそろ戻す事になるが以前の記憶はちゃんと残っておるかの?」
「何?記憶とかその時の感情とかを時間経過で失わせる為に馬鹿みたいな時間を鍛錬とかで過ごさせたの?」
「いやいや、そういう訳ではない。ただのう……いや、うむ。時が来れば自ずと分かるじゃろ。その時はそう遠くない。故に儂からは言わんでおこう。自らで気付いてこそ見えるものもあるしの」
クソジジイが少し真剣な目をしながらそう告げてくる。
「スイよ、お主には生まれついての運命と絡み合ったことで生まれた運命、そして収束する運命の三つが複雑に絡み合っておる。その全ての運命は困難を引き寄せることじゃろう。じゃが諦めるな、全てを掴み取れ。運命を乗り越えてみせよ。越えた先にこそお主の望みがある。覚悟せよ、お主の運命は既に止められぬほどに回り始めておる」
「それってどういう……」
「スイよ、運命の愛し子よ。時を歩ませよ」
クソジジイはそう言うと私の額に手を翳し……
「お主の道に加護あれ……」
私の意識はふっと途切れた。
「ん……ぅっ?」
何処からか小鳥の鳴き声が聞こえてくる。目を開けて辺りを見回すとどうやら何処かの公園のベンチで寝ていたようだった。少し離れたところには自動販売機もあり日本語でつめたーいとか見えた。ほぼ間違いなく日本だろう。寧ろこれで違ったら何処に来たのかと焦る所だ。
「ん〜、戻って来れはしたみたいだけど……」
既に時刻は夕方を過ぎているのか周りは暗くなってきていて人気が無い。ついでに周りから生命体の反応も消えていき無くなってきた。
「何が起きてるのかなぁ。いや、そもそもこの世界って本当に私の居た日本なのかなぁ」
転生前に住んでいた日本と今居るこの場所がどうも同じ場所な気がしない。だが見た限りでは何処にもおかしな様子は無い。だけど、いやだからこそおかしい。
「私が来たのに魔力の影響が無い?」
以前あったように私の魔力は本来ならばこの世界の住民、正確には生き物にとってかなり危険なものだ。さっき一瞬とはいえ意識を失っていたし放出された魔力がそこらの生命体に当たっている以上、その生命体の構造から何まで変化していないとおかしいのだが。
「小鳥、雀かな?身体の小さい雀に影響出ていないなら大丈夫かな?」
時間経過で変化する可能性もまああるだろうけどもその辺は気にしても仕方ない。というか気にしたとしても私から出来ることがない。
「……あぁ〜」
ベンチに寝転がりながら適当に声を出す。正直何をしたらいいのか良く分からなかった。だからソレが来た時は少し有難かった。
「戻ってこられたんですねぇ?」
「うん、戻ってきたよ。凄く面倒だったけど」
「それはそれは、その代わりに報酬は弾まないといけないですかねぇ?」
「別に、要らないよ。貰えるものは貰う主義ではあるんだけど渡してくるのが私を殺そうとする貴方からの贈り物だなんて嫌かな。あげるのは私の死♪とかなりそうじゃない?」
「おやおや、よくお気付きになられましたね?」
「寧ろ分からなかったら相当頭の中がお花畑な人だよ。私は少なくともそうじゃないかな」
「その割には私が近くに居るというのに警戒しているようには見えませんねぇ?」
「する必要が無いからね」
そう言いながら私は立ち上がる。目の前に居るのは私を世界間移動の旅に強制出発させてきたあの神だ。油断せずに見ると神様はかなり警戒しているみたいだ。まあ当たり前と言えば当たり前だろう。何せ彼の主観からすると送り出してから僅か数時間後には何事も無かったように私がベンチで寝ているのだ。そりゃ警戒もするだろう。普通に考えて七つの世界を数時間程度で攻略出来るはずも無いからだ。
「随分と待たせたみたいだからね……」
私はそう言って神に近付く。神は警戒しているのか私を睨んでくる。その目に込められた感情は憎悪と憤怒。とてつもない熱量でもって見てくるそれは迂闊に触れると火傷どころか燃えてしまいそうだ。
「えっと、そうだね。貴方の名前をもう一度聞いてもいいかな?」
「バエラルだ。このクソ野郎」
そう名乗ったのを聞いて私は微笑む。
「そっか、バエラル。それが貴方の名前なんだね?」
以前のようにノイズのようになって聞こえていると思ったのかぎょっとした表情をうかべる。スイはそれを見て少しだけ微笑むとバエラルは馬鹿にされたとでも思ったのか不機嫌を隠そうともしないで睨み付けてくる。
「さてと、バエラル、答え合わせをしようか。貴方が誰で私とどんな関係を持っていて何故恨まれているのか。それらを推測交じりで語っていくから出来たら相槌で教えてね?」
私がそう言うとバエラルは酷く不愉快そうに鼻を鳴らすのであった。
スイ「……♪(ベルは既に出しているから急に襲われても大丈夫。言葉で、雰囲気で、騙すんだ)」




