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475.飛び出して



「.............................」

長い沈黙の後に息を吐く。凄まじく疲れたと言わざるを得ないだろう。

この途方もない大きさを誇る結界内部を自分の魔力で満たして領域を上書きする。そしてそれらを全て取り込んで糧とする。言葉にすればそれだけの事。だがそれだけとは簡単には言えない程厳しかった。

無窮結界-永劫剥離-

そう呼ばれるだけの事はあると断言してもいい。スイでなければ神を除く殆ど全ての生命体に対して有効な手段だと言える。

世界を幾つ内包してもおかしくないほどに広大な虚無の世界。肉体へと襲い掛かる急速な時の加速。そしてそれを自覚出来ない精神の鈍化。何も無いからこそ何かを作って攻略も出来ず、仮に作れても時の加速による風化で即座に使い物にならなくなる。

更に外の世界では封印した対象の研究が出来るだけの十分な時の猶予が生まれる上、結界を攻略しようとして気付いた内部の生命体のエネルギーを奪う術式。

肉体の摩耗、精神の摩耗、エネルギー奪取による弱体化、何年掛けても全容を把握出来ない広大な空間。封印された者達にとってかなり極悪な結界だと言える。

寿命が存在せず精神の変容も極微小で無尽蔵に魔力を生み出して奪われるよりも増える方が多いだけの素因を持つ存在であるスイだからこそ結界内を魔力で満たしきれたと断言出来る。勿論条件が揃えば他の誰かでも出来るだろうがかなり稀有な存在だろう。

「けど.....ようやく出られる」

魔力で満たそうとして時の加速と精神の鈍化のせいで魔力の制御が厳しくて投げ出しそうになりながらやり始めたのはもう何ヶ月前の話だろうか。或いは何年も経っているのかもしれない。時間の変化が分からない世界な上に制御に忙しくて時間を気にするだけの余裕がスイに無かったが為にどれだけの時間が経ったのかは分からない。

だがもうその心配は要らない。空間を掌握しきった瞬間に肉体と精神への時の加減速は止めておいたからだ。とはいえそれも外部からの結界に対する術式のせいで長くは続かないのだが。

「.....│魔玉化(コセスミリク)

掌握した結界と広げまくった魔力を一気に収縮していく。範囲が馬鹿みたいに広いので時間は多少掛かるだろうが十分もしない内にこの結界の消失と同時に魔玉となったそれがスイの手元に現れることだろう。

「.....ん〜、長かったなぁ......疲れたし出られたら事情説明と一緒にご飯でも食べたいなぁ。ここだとすぐ腐っちゃって食べられなかったし」

封印された当初は多少怒っていたスイだったが既に当時の人物達はほぼ間違いなく死んでいることもあり、思うところはあれど水に流してあげようと思っていた。封印された仕返しにご飯位は奢って貰おうとは思っているが。

そう思いながら待っていると急激に空間の端が近寄って行き結界が壊れた音が鳴り響いた。



「.....」

「.....術!!」

「ん〜、阻害(ジャマー)

結界が弾け飛んだ音と共に誰かの声が聞こえてきたので阻害する。何かを弾いた感覚と共に私の身体に以前も巻き付いた布?が張り付く。

衝撃(インパクト)

張り付いただけで巻き付かれてはいなかったからそのまま弾くと同時にようやく周りの音や状況が聞こえてくる。どうやら結界を出る際は五感の一時的な消失かもしくは麻痺のようなものが起きるらしい。結界にそんな感じの術式は無かったはずなので外部からの干渉の一つだろう。ほんの少しでも聞こえたのは偶然かもしくはミリ秒以下のタイムラグで聞いたのか。どちらにせよ一応用意だけしておいて良かったと言うしかない。

「.....ん〜、と」

身体を伸ばして少しの間目を瞑る。背中は鳴ったりはしないけれど何となく気持ちがいい。周りの音がはっきり聞こえてきたので目を開けて見渡す。男達が大半だが数人女性も居てそれぞれ腐った木の棒のような物や呪符?いや呪布とでも呼べそうなびっしりと文字が書かれた普通に気味の悪い物も持っている。

......もしかしなくてもあれらは私を封印していた物なのだろうか。だとしたら水に流そうとしていた気持ちが一気に無くなってくるのだが。誰だって腐った木の棒?や耳なし芳一でもそこまではしないだろと言わんばかりに文字が書かれた元は白だっただろう黒い布みたいなのをミイラみたいに巻き付けられたなら怒ると思う。

ちなみに木の棒?や呪布?には魔力等の力を不自然なくらい感じない。というか木や草、土や水、空気にまであるはずの魔力等があれらから一切感じない。ちょっと意味が分からない。あれらが封印の道具だからそれらの力を感じないとかそういうのじゃない。多分あれらはそもそもこの世界に存在した事の無い物質だ。

「.........」

私が見つめていると背後から男が飛びかかってきた。忍び足で一気に駆け寄ってくるその無駄に高めの技術は凄いとは思うけれど私の五感は普通に足音を拾えるし何なら心臓の鼓動も耳を澄ませば聞こえるので忍び足で来ていた事は分かっていた。

だから飛びかかってきた瞬間に横に逸れて男の腹を人差し指で叩いた。手のひらや手の甲でやらなかったのは肉体構造的に多分ちぎれ飛ぶと思ったからだ。人差し指なら流石にそこまではやれない。ごめん、嘘。魔力込めて本気でやったら多分人体くらいなら切断出来ます。

「はい、大人しくしてね.....ん?あれ、弱めにやったんだけど気失った?」

人差し指でも駄目だったようだ。脆い。次から小指.....いや、指の時点で駄目な気がして仕方ない。掴んで投げて落とす...のも駄目かもしれない。早すぎて腕の先からちぎれて吹っ飛んでいくか繋がっていても叩き付けられた衝撃で地面の染みになってそうだ。脆すぎて反撃が出来ない。

「.....えっと、気を失ってるだけだから大丈夫だよ?」

周りの人にそう言うけれど白目剥いて泡を吹いている男を見ても大丈夫には見えないだろう。いや本当になんで人差し指程度でこうなるのかな。

とりあえず周りが牽制なのかそれとも踏み込めないのか私を遠巻きにして動かなくなったので前に進む。そしたら包囲がそのまま動いてきた。何それ無駄に凄い。どうでもいいことを考えながらとりあえず世界を把握していく。だってこの人達何も話そうとしないし話し掛けても答えが返ってくるとは思えないからだ。

だったらこの人達は完全に無視してさっさと異物を排除して次の世界に行きたい。いや正確にはアルーシアに帰りたいのだけど私に掛けられた術式のせいでまだ幾つかの世界を渡らないといけないのだ。当時の私はなんでそんな面倒なことしちゃったかなぁ。いや分かるんだけど面倒だと言わざるを得ない。

「.........ん?」

把握した結果に首を傾げる。少し意味が分からない。もう一度把握していくが、やはり結果は変わらない。周りの人を見る。特に違和感は無い。当たり前だ。別にこの人達は異物じゃない。異物がそこに居た先住民を全滅させて成り代わったとかなら分からないけれど多分違う。この人達は元々この世界に居た人達だ。

「.........」

把握していく。何度も間違いの無いように。あの結界と違って世界の把握は簡単だ。いや難しいと言えば難しいのは間違いないがあの結界がより規格外だったせいでハードルが高いのだ。

「白魔よ、この世界に何用で来たのだ」

少し考え込んでいるといつの間に来たのか少しだけ茶色を残した白髪を肩まで伸ばした老人が来ていた。着ている服は着物?に似た服だ。まあ和服っぽいとだけ分かっていればいい。

「白魔?それって私のこと?」

「そうだ。この世界に何用で来たのだ」

「白魔.....まあ確かに髪は白いけども」

目の前のご老人も白髪だから少し顔を顰める。いや私のは天然?白髪だけどご老人のは茶髪が白髪になったのだから違うのだけど。漢字だと一緒でモヤッとする。

「何用でって.....ん〜」

何と言えば良いのか。異物を排除しに来ましたと言えばそれまでなんだけどこれまでとの違いに顔を顰めるしかない。だってこの世界に異物らしい反応が無かったのだから。


スイ「白魔.....悪魔と掛けてるのかな。それとも白い魔王だから白魔?安直.....」

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