472.第四の世界……?
「……!!…………!!!!」
今までと同じように光に包まれて目を瞑っていると何か叫んでいる声が聞こえてくる。どうやら今度も人が近くに居る場所に出てきたようだ。説明が面倒だなと少し憂鬱に感じていると目を開けるその瞬間に何かが私の身体に巻き付いてくる。
それは私の手足を縛り胴体にも巻き付き瞳も開けられないようにかぐるぐる巻きにされる。余りにもあんまりなそれに声をあげようと口を開けると何かを突っ込まれて声にならなかった。
「……んん!?」
「油断するなよ!!未だ彼奴の体は動いている!!何をされるか分からん。慎重にそして迅速に封印しろ!!」
何か分からないがとんでもない事態に巻き込まれている。そう判断するのは容易かったがどうにも巻き付いている何かには魔力を阻害する効果があるのか魔法を使おうにも魔力が全く動いてくれない。腕を動かそうとしたけれどその前に地面に押さえ付けられて動けなくなる。
筋力も落ちるのかそれとも魔力生命体という魔族の性質上か魔力を阻害する効果で上手く力が出せないみたいだ。恐らく押さえているのは成人男性だと思うけれど二人がかりで押さえられた程度で動けなくなっている。私を完全に押さえつけるとなればその程度で動けなくなるのはおかしい。
「よし!いけるぞ!離れろ!!」
私を押さえている人達が離れた瞬間何かが私を掴む。物理的なものじゃない。恐らく結界の類だ。
「この世から消えるといい。魔王よ。さらばだ、無窮結界-永劫剥離-」
そうして私は何も分からないまま封印されてしまった。
「……んん!んぐっ!!がぁっ!!」
何かを口に入れられていたから噛み砕いてみた。砕くまでにどれだけの時間が経ったのか分からない。時間を数えてはいないけれど最低でも何週間かは経過していると思う。
随分と硬い何かだった。何度も歯が折れたようだけど私の身体は物理的な肉体じゃない。だから気にせず噛み続けてようやく砕けた。そして口が解放されたお陰か少しだけ魔力が動かせる。
「何で縛られてるんだろ。布とかロープとかなのかな」
見えないから分からないが感覚的には布が一番近そうではある。だから私は少しだけ動かせる魔力で魔法を使ってみた。
「獄炎」
布なら燃やせばいいじゃないと言わんばかりの馬鹿な行動だとは思う。だけどこの何週間か頑張ってみたがどうにも抜け出せなかったのだから仕方ない。炎で炙られる感覚はあまり味わいたいものじゃないけれど幸い私は痛覚を消せる。温度感覚も調節出来るのだ。ならばぬるま湯に使っているような気分で動かせるだけの魔力で延々と炙ってみよう。
炎や水とかそういったものに強い布であったとしてもまさかずっと耐える布もないだろう。あってもどこかできっと綻びが生まれる。そうすれば更に使える魔力が増えてより早く解放される。
「気長に燃やしてみようか」
ところで傍から見たら今の私は完全に焼死体だと思うのだけど何処かで人が見ていないことを祈るとしよう。まあ恐らく何処か違う異空間だと思うから生命体と会うかも怪しいけれど。
炙り続けて何日経過しただろう。この布凄いな。間違いなく一ヶ月は燃やしてるはずだ。なのに綻びらしい綻びが生まれない。いや正確には生まれてはいるがほんのちょっぴりだ。アプローチを変えるべきなのかもしれない。けど流石に水で揉まれたり雷撃を食らうのは嫌だ。
地面らしいここには石みたいな尖ったものも無いから切れない。大地系統の魔法も唱えては見たけど滑ったりガキン!とかいう布かどうか怪しくなってきた音を立てたのでやめてる。衝撃も凄いし酔って吐きそうになるのだ。誰も見てなくても流石に吐きたくないし吐いた場所が見えないからどこかのタイミングで顔面ダイブしかねない。絶対嫌だ。
綻びは出来ているのだし腕辺りが解放されるまで燃やしてみよう。ところで嫌な話なんだけど多分私の服は完全に燃え切ってるよね。ちょっと寒い。燃えてるのに。
燃えた。あまりにも唐突に布?らしきものが急に発火した。これまでどれだけ火に炙られても何も無かったのに。どうやら発火するまでの温度がとんでもなく高くてそもそも燃えてなかった可能性が出て来た。だとしたらかなり腹が立つのだけど今はとりあえずようやく解放された事を喜ぶとしよう。燃やし始めてから日にちを一応数えてはいた。だから分かる。この世界は恐らく……。
「時間の進まない世界、もしくはとんでもなく遅い世界」
だって燃やすのに五年も掛かったんだから。
目を覆っていた布らしきものの燃えカスを乱雑に捨てる。そして周りを見る。何も無い。空白の世界。横も下も上も何も無い。あるのは白い空間。地面さえ無い。白い空間の何かに立っている。いや浮いている?
「……魔王とか言ってたけど私の事?いや流石になぁ……知られてないと思うし多分魔王違いだと思うんだけど」
あの時周りの把握をしようにもこの燃えカスとなった布?のせいで上手く出来ていなかった。だけど最後に聞こえた内容的に恐らくかなり綿密に準備された封印だった。だから私が来る事を予測してというのは考えにくい。何せいつ来るか定かじゃない私の出現を予測出来たとは思えない。
勿論神様辺りが関わっていたなら話は変わるけれど使われていた布?や噛み砕いた何かからは神の力を感じなかった。関わっていたなら私の封印にはそれ相応のものを用意すると思う。自画自賛じゃないけど私は強い。そんな私を封印するのにいずれ壊れるかもしれない封印具?で満足するとは思えないのだ。
だとしたら恐らく同じ時間か近しい時間にあの場所、まあ場所は分からないけれどそこで本来の魔王の復活があったのではないかと予想される。私がそこに出たのも魔王が異物であったのならば理解出来る。
「だとしたら本物の魔王は封印されてないってことだよね」
私が居る場所に封印するつもりだったのならばここにもう一人?魔王が居なければおかしくなる。であれば魔王は悠々と復活してその場に居た人を殺したか、もしくは私の封印を見て隠れるように復活したか。どちらにせよあまり気分は良くない。ちなみに本当に私を封印するつもりだったのならばもっと気分は良くない。まあ当たり前か。
「とりあえず歩いてみる……っていうのもいいんだけど」
周りを見ても恐らくここはこの空間しかない。歩いても有意義な何かは見付けられないと思う。どうやって出るのかも分からない。けど正直出られるとは思う。
結界とか封印の類ならこの空間を私の魔力で染め上げたら多分出られる。
「……素因が少なくなったからしんどいけどね」
五割はやっぱりきつい。大分取られた。お情けなのかはたまた特に理由は無いのか分からないけれど父様の残した素因や混沌は無事だったのは良かったと思う。取られたのは普通の属性素因ばかりだ。いやまあそれでも痛いのだけど。
「けど……」
周りを見る。感じる魔法的には外界との謝絶、時間の操作、空間の操作、内部から外部に出られないようにする隔離、逆に外部からも内部に干渉出来ない隔離、細々としたものもあるが一番リソースが割かれているのは恐らくこの空間の強度だ。多分私じゃ物理的にも魔法的にも壊せない。名も無き神なら特に何もせずに壊せそうではあるけれど流石に神様相手は勘定していないだろう。
だけどこれはいいかもしれない。この空間に使われている魔力かそれに近い力は途轍もない力を秘めている。今の私を優に超えるだけの力が。これを私のものに出来たら?
「失った素因以上の力に出来る」
ならばやることは一つ。この空間を染め上げよう。私色に、誰にも取られない唯一無二の私のものに。
「っとその前に思い出したしついでにやっちゃおうかな」
少し前?五年以上前になる日を少し前と言っていいかは分からないけれど、思い出したのはあの黒い影、ゼブルと一緒に戦った魔族の影だ。
「繭に籠って一月眠るだっけ?」
真の魔族とやらになる行為だ。素因を捨てることになるとか神の庇護下から離れるとか色々言われたが多分私は出来ると思うのだ。理由は分からない。ただ資格はあるだろうなとぼんやり思う。勿論ただの感覚だから間違えていて後戻り出来ないという可能性は否定出来ない。
「けど多分この羽が何か関係してる」
いつもは折り畳んで背中にピッタリ付けている羽だけどこれが資格な気がする。羽化とか昇華とかいう表現、突如生えた羽、魔王としての資格。これらを併せ持って初めて真の魔族になれるのではないだろうか。
「それに多分ヴェルデニアは真の魔族だ」
神に生み出されその資格を得ていると思われるヴェルデニアが真の魔族じゃないとは思えない。だからこそあいつは恐らく強い。
「そのステージに立つには私も相応のリスクは負わないと。じゃないとあいつを殺せない」
こうなると服が燃えて無くなっていたのもその暗示かもしれない。いやごめん、関係ないけど。
私は魔力で編んだ繭を作りその中で目を瞑った。起きた時にどうなるのかを少し怖くなりながら、それと興奮しながら。
繭「……」




