469.神殺し
ブレスに呑まれたミリの方を見て私は更に手を打っていく。指輪からダムレース、シウゴーラ、ノクドームを出す。この三本の剣はそれぞれ繋がりを持っているようで一本一本の力はそれほど強くないが三本合わせるとネズラクの使う不可侵結界を歪ませる程の威力を発揮する。ネズラクがグライス達と同じ立ち位置にある剣であることを考えればかなり破格の力だ。
ただこの剣は手に持って使うような剣じゃない。投擲用の剣なのだ。しかもそこまでの効果を発揮しようとすれば三本同時に投げる必要があってかなりシビアなタイミングになる。だけど私の使う魔法と制御の素因を使えば比較的簡単にその効果を発揮させられる。
「統率個体」
グライスにその魔法を掛けると三本の剣が一斉に動き出す。かつてステラの剣を作った際に使った魔法で一つの剣の動きにある程度連動させる魔法だ。更にダメ押しでそれぞれに魔力をこれでもかと付けておく。
ダムレース達の能力は至って簡単で魔力を用いて破壊する、それだけだ。実際はもう少し違うのだろうがやってる事はほぼ同じだ。要は魔力を破壊力に変えてぶつかる。投擲用の剣ということを考えればごくごく普通と言えるだろう。その剣の硬さが不朽不壊とかいうふざけた耐久性さえ無ければ。更に魔力から破壊力への変換効率がほぼロスがないというのも追加する。
ただこの剣達の残念なところをあげるとするならば既にニクスという爆撃専用みたいな不死鳥がいた事だ。居なかったら使いまくっていたと思う。
そしてある程度仕込みを終えてからミリの方を見る。当然というかあまり信じたくはないがミリはゆっくりと立ち上がっていた。ニクスの全力の突撃、ユミルの捨て身の拳にダーちゃんの極大ブレスを受けておきながら大した怪我でもないと言わんばかりに無傷だ。いや防いだのだろう。どうやってかは知らないが。
分かっていたことだが神は私では打倒出来ない。何せニクスの全力というのは私の全魔力を用いた一撃と変わらない。それを喰らいながらああして服の埃を叩いて落とす程度で済むのだ。私がどう足掻いても子供の癇癪程度にしか感じないということだろう。
「あははは!ちょっとだけ驚いちゃった。ねぇ?スイ。まだ……何か出来る?」
そう微笑むミリだがその目は笑っていない。私にしてやられたのが不愉快なんだろう。とはいえ大したことも出来ていないが。抵抗されたという事実そのものが不愉快なのかもしれない。
「まだやるよ。あの程度で終わりになんてしない」
「あはは……はは。なぁ?調子に乗るなよ」
口調が変わったと思った瞬間、ミリに首を掴まれていた。
「がっ……ぁ!!」
「なぁ、分かってるだろ?どうしようも出来ないって、何も出来やしないって。分かってんなら抵抗すんなよ。もうお前は僕のものなんだからさぁ!!そう決めたんだから大人しくしていろよぉぉ!!」
ミリは私の首を掴んだまま地面に何度も叩き付ける。頭が割れて血が出て脳漿のようなものがでてくびがひきちぎれるすんぜんまでいってめもとびでてきてはもどんどんかけて………………
「……………………………………気は済んだ?」
私の一言にハッとしたミリの顔面に向けて身体強化を施しまくった私の拳が当たる。そしてミリの掴んでいた私が地面にぐしゃっと落ちる。その私にハクが近寄って術を施す。すると私の顔が溶けるように消えていき出て来たのはヘルだ。ヘルは割れた頭に手を当てるとすぐに治る。いや治るというのはおかしい。そもそもヘルは死人なのだ。元に戻ったの方が正しい。
「どうやって……?」
顔を殴られたミリが驚いたような様子でそう呟く。やっぱり夢幻は強いなと思う。神さえ騙せるのだから。
「さあ?ところで今は現実だと思う?夢幻の類だと思う?」
そう言いながら私は夢幻で姿を隠す。ミリには魔力を見る力が無い。更に言えば感知する力も。だからこうも容易く騙される。これが三神とかなら即座にバレて叩き伏せられる事だろう。名も無き神だとそもそも隠れることすら出来ないと思う。私をここに送った神はどうかは分からないが多分気付くと思う。
ミリが警戒して周りを見る。だから敢えて私は魔法を解除して笑顔で歩み寄ってみる。ミリはあからさまな偽物らしい私に気を払いもせず周りを警戒する。だから私も何もしない。そのせいでミリは私が隠れているものだと勝手に決めつけてしまったようだ。
「あはは。出てこないなら……出ざるを得なくしてやる。堕ちろ、太陽よ。堕ちろ、月よ。狂い啼き喚け。双滅の刻時」
この世界が自分のものだからってとんでもないことしてきた。太陽と月を落としてくるとか何考えてるんだ。いやまあ私を手に入れる為だけに世界を改造するような神だ。この世界はミリにとって手段でしかないのだ。
「ハティ、スコル。まさかの出番だよ」
正直絶対に使わないと思っていたのに出した二人は嬉しそうに落ちてくる太陽と月へと駆け出す。
「「太陽(月)は私のものだ!!!」」
突如として出て来たかなり巨大な狼二匹がまさかの太陽と月に突撃するという意味不明な行動にミリは少し目を見開く。しかもそこから明らかに物理的に無理があると言わんばかりに一瞬だけ口がとてつもなく開いて二人は太陽と月を呑み込んでしまった。
「……は?」
ミリもまさかの事態に完全に理解不能な表情をしている。その呆然としているミリの背後から私は一気に駆け寄りグライスでその身体を袈裟懸けに斬る。しかしミリは恐ろしい程の反応速度で斬られ始めた瞬間に振り返りながら私の顔を裏拳で弾き飛ばす。斬ることは出来たが心臓まで届かなかった。というか腕すら切り落とせなかった。
「びっくりした……しかも痛い……その剣随分と危険なものみたいだ。さっさと壊してしまうこととしようか」
ミリは斬られたとは思えない程の速度で私の腕を掴むとグライスを無理矢理奪い取る。
「ぐっ……」
「ん?良かった。これは本物みたいだね?」
ミリはニヤニヤしながらグライスを握るとぐっと力を込めて壊そうとし……壊れない。
「……ん?」
ミリがグライスをもう一度見ようとした瞬間その背中からズッと剣が突き出る。
「え……は?ぐっ、ごほっ!?」
突き出ていた剣はグライスだ。グライスは自立行動が出来る。それで無理矢理動いて貰ったのだ。そしてミリが掴んでいた剣がネズラクへと変化する。ミリの身体から突き出たグライスを握るとミリは咄嗟に背後に飛んで逃げる。逃げるのが遅れたならそこでグライスに斬ってもらって殺すつもりだったのだが。
けどそれだけじゃ逃がさない。グライスを指揮棒のように振るうとダムレース達が飛び出てミリに向かう。ミリはマントを翻しながら防ごうとしマントごと貫いてくるその剣達によって吹き飛ばされる。
「刺さらなかった……咄嗟に盾か何か作って防いだ?」
「あっ……はははははははははははは!!!!!!!!!!!!」
狂った様に笑うミリ。その身体には防ぎきれなかったのであろう剣撃が残されていた。
「…………やっぱり面白いなぁ。スイは。だから僕も全力で叩き潰してあげる。二度と刃向かえないようにね?」
その瞬間ミリの身体が消えて私の目の前に来て…………ミリの背中へと突き出るグライスがその動きを止めていた。
「…………え……あれ、なんで」
「…………」
「どうして…………そんなところに居るんだお前」
「…………私が…………勇者だからだ」
ミリは私が夢幻で隠し続けていたアーランに刺されていた。私からは絶対に視線を逸らさないだろうと思っていた。娘達でも無理だろう。だからこそ私を囮にアーランに頼んだ。絶対に警戒していないであろうアーランに。
「ごふっ、あ、これは致命傷……かな。治りそうにないや」
「そうか」
「あはは、誇りなよアーラン、スイ。君達は神殺しだよ?歴史上そんなやつ多くないんだからさ」
「…………誇れるものか」
ミリの言葉にアーランが血の滲んだような声でそう答える。
「誇れるわけが無い。友人を殺したことを……誇れるものか!!」
アーランのその言葉にミリは一瞬驚いたような表情を浮かべてから優しげな顔を浮かべる。
「あはは……だから君は勇者で……始まりの魔王なんだ。アーラン、流石だよ」
私はゆっくりとミリに近寄る。はっきり言ってかなり無茶をした。今だって実は立っているのがやっとだ。けど動く。そしてミリのお腹に刺さったグライスを掴む。
「あぁ、スイ。君が本当に……欲しかった……」
「……グライス、神を……断ち斬れ」
そう告げた瞬間ミリの身体が致命の一撃を受けその場で倒れて息絶える。私は倒れそうになる身体を耐えてアーランを見る。アーランもまた私を見て……
ドッ……!
驚愕の表情を浮かべるアーランと私の胸から出て来ている人の腕。
「…………ぅっ!?」
「ようやく、手に入れた。もう離さないからね……?」
私の胸から出て来ている腕の主は……。
「どうして……なんだ。どうなって……いや、違う。そうか、そうなのか……最初からだったのか!答えろ!エンネぇぇ!!」
アーランの叫びと耳元であはっ♪と笑う女の笑い声だけが黒く塗り潰されそうな意識の中で聞こえていた。
アーラン「くそぉぉ!!」




