465.目覚め
起きたら凄くスッキリした気分だった。呪いも少しだけ残ってはいるようだけど影響そのものはグライスが切り離したようで特に何事もない。後は頭の中でごちゃっとした色々をちゃんと思い出すだけだ。
「うん、思い出した。全部思い出したよ」
私がそう呟くとジズが何故かビクビクしながらこっちを見る。
「な、何を思い出したのですか?」
「ん?全部だよ。封印されてた記憶も忘れそうになってた想いも全部。あ、そうだ。ジズありがとう。ジズがアレベオルタンケンス達の事退けてくれたんでしょ?」
「は、はい」
「名も無き神からの許可はちゃんと貰った?」
私の言葉にジズのビクビクが最早バイブみたいに震えるようになってる。
「ジズの本体が出て来たでしょ?あれって名も無き神からの許可無しじゃ出せないでしょ?」
「ど、どうして」
「どうしても何も最初からそうだろうなと思ってたしね。そもそもジズ、ううん、皆は私の娘だけど同時に神話に出て来た子達でもあるものね。私の娘として居てくれてる事自体がおかしいもの」
私がそう言ってから少しだけ遠くを見る。そちらの方にはアレベオルタンケンス達が居るはずだ。
「まあその話は置いておこうか。とりあえずそろそろ来そうだしジズは戻っていいよ」
「へ?私は出てなくて良いのですか?」
「え?うん。元々ジズ達の本体の力なんて当てにしてないからね。それでも本体を出してくれたのはイレギュラーがあったからでしょ?」
「……主はどこまで分かってるのですか?」
「さあ?分かってることしか分からないよ。でも多分」
私はそこで言葉を区切って遠くを睨む。
「すぐに分かるよ」
ネズラクを握り魔力を込めて振るう。かなりの遠方から飛来した雷の矢がネズラクによって張られた結界に当たり飛散する。
「さあ、戻って、ジズ。大丈夫、私は倒されないから」
「まあ……私の軽い一撃を防いだくらいで随分と自信がおアリのようね?」
「生意気なガキだぜ全く」
「二人ともアレがまだ居るかもしれないんだから警戒しなよ」
三人は思い思いに口を開くが当の言われてる側であるスイはいっそ清々しいまでに無視を決め込んだ。その態度に三人は苛立つが自分達を吹き飛ばした何かが居る可能性を考えて飛び込んだりはしない。そもそもスイの力量自体高いのは分かっているのだ。無駄な行動をしたりはしない。
「お嬢様っぽい女に、極道?いやヤンキーかな?それに文学少年と。第一位階になるような連中って基本的に頭おかしそうな子しか居ないの?これならあの妹天使の方が余程凄かったし強そうだったな」
「死ね」
私の言葉に間髪入れず攻撃を加えてきたのは三人とは異なる位置に居るもう一人。私の真上で飛ぶ仮面を着けた子供だ。私は回避しながら真上へと視線を向ける。
「あの三人よりも強そうだね?第一位階じゃないの?」
「僕は源天使。アレベオルタンケンスの長だ」
「へえ?あなたみたいなのが長なんだ?複数人いる内の一人?それとも文字通りあなた一人が長?」
「僕一人が長だ。全てのアレベオルタンケンスの頂点に立つ。故に源天使だ」
「じゃあ凄く大物って訳だ。神様の一つ下位に居るのかな?」
仮面の天使は不愉快そうに苛立った声でスイへと声を掛ける。
「どうでもいい事だろう?お前はここで死ぬ」
その言葉にスイはキョトンとした表情を浮かべる。そしてその後に酷く傲慢な笑みを浮かべる。
「あは♪まさか……うん、まさかだね?もしかして私に勝てると本気で思ってる?思ってるのか。じゃなかったらそんな言葉出ないもんね」
「お前の力は既にある程度把握してある。混沌も創命魔法もだ。その全てが僕に効くと思うなよ。お前は何も出来ずに死ぬんだ」
「だったら良いね?まあこんな言葉遊びしてても仕方ないからさ……うん、やろうか?」
そのあくまでも自分の方が上であると言わんばかりのスイの態度が癇に障る。仮面の天使は様子見などは一切考えずにその力を放つ。
私の真上で矢を番えた仮面の天使の背後からあまりにも巨大な巨石が幾つも出現する。その全てに雷やら炎やら氷やらが纏わりついていて、成程これが源天使とやらの力かと感心する。一番ヤバそうなのは一見普通の矢であるあれだが、多分当たると一発で身体の半分以上持っていかれるとは思う。
流石としか言いようがない。私よりも遥かに凄まじい出力と規模に驚く。さっきまでの私だと愚直に壊すか逃げるかしていた事だろう。記憶とかその他もろもろが解放?されたお陰で別の選択肢が浮かぶ。
「よーし、そろそろ殺そっか♪精々長生きしてね?」
私は足に力を込めて全力で仮面の天使へと一直線に向かう。
「プリ?ズ$クラレベ♡@☆-、☆☆@□」
やっぱりアレベオルタンケンスである仮面の天使が何を言ってるのか分からないけどこれはもう仕方ないだろう。多分そもそも発音とか以前に文字通り位階が違うから理解出来ないのだと思う。
けど攻撃の指示か、もしくは技自体を発動した事だけは分かる。それだけで十分だ。一斉に私目掛けて殺到する巨石に向かってグライスを構える。
「断て!グライス!」
グライスを二度、三度、四度と何度も何度も振りその度に巨石達が斬られ砕かれ他の巨石とぶつかり私と仮面の天使との道を作っていく。
「馬鹿め。$@☆♡♪℃∧」
仮面の天使が放った矢が飛んでくる。それと同時に逃げ場を塞ぐように巨石が周りから押し寄せる。
「ネズラク、護れ」
『任せな!マスター!不可侵結界!』
護る事に特化されたネズラクの本領発揮だ。巨石を退け飛んで来た矢を逸らしその全てを私の背後へと落とす。それに対し仮面の天使は驚きの表情を浮かべる。あぁ、やっぱり、あなたちゃんとした戦闘の経験無いんでしょ?
グライスを構えると仮面の天使はその翼を動かして凄まじい速度で回避して私の背後へと回る。そして即座に矢を放つ。スペックだよりの大した事ない動き。そうすると思ったよ。
「虚撃」
背後に回った仮面の天使の翼を私が放った魔法が傷を付ける。魔力も見えないことが分かった。ちなみに放たれた矢はしっかりとネズラクが逸らした。
「弱い。妹天使の方が余程強かったよ本当に。あの子はちゃんと戦いを知ってた。スペックだけでふんぞり返ってたんじゃない?正直ガッカリだよ」
「な!お前ぇ!」
恐らく何かを使おうとしたのだろう。けど判断も遅ければそもそも私の言葉をしっかり聞こうとしてる時点でダメダメだ。だからこうなるのだ。
ズッと仮面の天使の背後からその心臓に向けてグライスを突き出す。貫かれた仮面の天使はきっと何が起こったのかも分かってないのだろう。そしてそれは遠くからこっちを見る三人にもきっと分かってない。
「妹天使と兄天使ってアレベオルタンケンスの中でもかなり優秀だったんだろうなぁ……」
私はそう呟きながらそれを殺さなくちゃいけなかった運命の理不尽さに酷く落胆した。それと同時にこの後に待つ憂鬱過ぎる更なる残酷な真実に思いを馳せて溜息を吐きながら仮面の天使の身体を真っ二つにした。そして三人もまた仮面の天使が真っ二つにされたと同じタイミングで真っ二つになった。
「魔力が見えた妹天使って本当に凄かったんだなぁ。あれで第一位階じゃないの詐欺だと思うよ本当に」
「あ、っぐ、な、何故、何が……ぁ」
「うわっ、気持ち悪い。何で生きてるのそれで」
仮面の天使だけ顔まで真っ二つになってるのにずりずり動いてる。非常に気持ち悪い。
「そもそも魔力が見えなくてスペックだより、戦闘経験も無い、ゴリ押しばかり。そんなもので私に勝とうなんて百年、ううん。一万年とかそれくらいは早いよ」
私はそう言いながら油断せずに仮面の天使に近付き何かを言おうとした仮面の天使に混沌を放つ。抵抗することも出来ずに消滅したのを確認してからようやく息を吐く。
「……ブラフも中々有用だなぁ」
まあ実際はかなり綱渡りだったけど思っていたより馬鹿だったおかげで過程も結果も良く終わった。
「ううん……しょ。じゃあそろそろ仕上げないとねぇ」
とりあえずなんで私の娘達は私の身体の中で皆震えてるんだろう?いまいち分からないなぁ。
あいつの動きなんて目線とか筋肉じゃないけどその辺りの動きとか見たら酷く分かりやすかったのに。化け物みたいに思ってるのかな?失礼だから後で説教でもしようっと。
スイ「ルンルン♪」
ジズ「え、これ私の援護必要だった……?」




