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461.魔王

遅れました。



「少ない」

ダンジョン内を疾走した結果見付けた死体は十数人、何れも単独もしくは二人程度の少数で行動してたのだろうと思えた。またダンジョンの端から端まで走ったと思うが隠されてでも居ない限り上層に向かう階段が見付からなかった。

「代わりにあったのがこの下に続く階段か……」

上層に向かう階段が無い以上恐らくまだ生き残っている生存者達は一縷の望みをかけて下へと降りたと思われる。実際階段前には野営の跡が残っているからそれほど予想と外れてはいないだろう。

他に行く所も無いので仕方なく下へと続く階段に足をかける。それほど深くはないらしく降り始めて一分もしないうちに通路へと出た。顔を上げて見ればひたすらに長い回廊が見える。というかそれしか見えない。それなりに目はいいはずだが部屋らしきものが全く見えない。

「これは……延々と続く通路で心を折りに行くとかそんな感じなのかな?」

実際どんな意図があるのかは知らないが一歩踏み出し、即座に足を戻した。

「…………なるほど?」

通路を改めて見るとほんの少しだけ何かが見える。魔力を見る瞳であっても薄らとしか見えない辺りかなり巧妙に隠されているらしい。まあ流石に掛かった事には気付けたので即座に戻ったのだが。

「これは厄介だなぁ」

掛かっている術式は攻撃や罠の類では無い。いや罠ではあるのか。実際にトラップの類という訳では無い。このダンジョン自体が持つ特性を更に効果的により顕著にしただけだ。つまり外界との時間の流れの隔絶化。恐らく通路を進めば進むほど時間の流れがおかしくなり最終的には浦島太郎状態になるのだろう。ダンジョンに入り金銀財宝の類を得た後であれば余計にキツくなるものだ。何せ得ても戻ってきた時には良くて自分が死亡扱い、悪ければ家族や友人が亡くなっている可能性もあり更に最悪までいけば国すら無くなっている可能性もある。

「ここを通ったって事は……不味いな。思ったより私との時間差が激しいかも」

ただでさえ最低でも一月以上の時間差があったと思われる。なのにここに来てそれを更に加速させるものがあるとなれば合流した時には亡くなっていてもなんらおかしくない。

「ふぅ……見た感じは長いだけの通路。ならちょっと本気で走ってみようか」

最悪壁が出てきてもスイの身体ならばぶつかっても耐えられるだろう。何なら突き破るかもしれない。

「壁がありませんように……」

少しだけ祈ってから足に力を入れて時の回廊とでも名が付きそうなその通路へと足を踏み入れその瞬間にその場からスイが消えた。

進めば進むほど通路に施された術式がより強くなる。時間の流れがどんどん加速していくのを感じながらスイは更に足に力を入れたのだった。

走り続けてどれくらい経っただろうか。そう思っていると目の前に壁と扉を見付けた。スイは走り続けた勢いのまま体当たりをするようにその扉へと拳を繰り出し、砕けた扉の破片と共にその部屋へと流れ込んだ。

そしてスイの目に映ったのは流れ込んだその正に目の前で角の生えた男の腕によってフェルリケの身体が打ち抜かれた瞬間であった。



「中々早いな……もう少し時間が掛かると思っていたのだがな?」

角の生えた男はそう言って今し方殺した男の身体を捨てスイへと向き直る。

「……即死か。ちょっと間に合わなかったな」

フェルリケを見て少し眉を顰めながらそう呟く。角の生えた男はスイを見て何かを確かめるようにスイの身体をじっと見る。

「ふむ?あの通路を通れば些か身体に変化が訪れると言われているのだが……どうも変化があったようには見えないな」

スイが男の方を見るとその背後にアーラン達がまだ生き残っていた。アーランとミリ、ロッコスが居て兵士達も三十人以上生き残っているようだ。いや地面に横たわる人の数を考えればそれだけしか生き残っていないと言わざるを得ないだろう。

それにロッコスは巻き込まれていないと思っていたし兵士達も思ったより多いのでもしかしたら街の門を潜った人が移動したのではなくそれが切っ掛けと言うだけであの場に居た人は全員巻き込まれていたのかもしれない。だとしたら兵士達は百人以上確実に減っている事になるけども。

「ふぅ……貴方は魔王?」

「如何にも。魔王である」

堂々とそう名乗ってきたのでその首を撥ねた。

「嘘をつくな。ゴミが」

そう吐き捨てるように言ってから部屋の奥へと視線をやる。

「出てこないなら容赦無くこの部屋ごと壊すよ?」

そう言うと部屋の奥から足音が響く。そちらを見ていると部屋の奥から小さな、それでいて殺傷能力は酷く高そうな針のようなものが飛んで来た。針には何らかの液体が付けられていて毒針なのは容易に想像出来た。

「ご挨拶だね?」

「ふん、貴様にはこの程度では意味も無いだろう」

そう言って現れたのは先程殺した男に良く似た、しかし角は生えていない、それでいてその背に見覚えのある翼が生えている男が出て来た。

「……あぁ、やっぱり。ならダンジョンを操れるのも良く分かる。得意分野だもんね。そうでしょう?アレベオルタンケンス」

「それは私達の種族名だ。私にはしっかりと@☆♪☆←♡という名前がある」

「……アレベオルタンケンスの名前はどうにも聞き取れないんだ。折角名乗ってくれたのにごめんね」

そう告げると男は不機嫌そうにそして憎々しそうにスイを見る。

「そうか。ならばせめて覚えておけ。私は聖光天使(バエラ)第一位階(ベロア)が六、焦熱天使(エクリオラ)の@☆♪☆←♡。貴様が殺した者の兄だ!」

第一位階(ベロア)!?スイが驚愕の表情を浮かべた瞬間その場に現れたのは太陽と見紛うばかりの巨大な炎だった。一瞬にして部屋が茹だりそうになるほどの熱に晒される。

「チッ!封流(ハイドラ)!」

荒れ狂う水を呼び起こしその炎へとぶつける。凄まじいまでの熱量と途切れることの無い水はぶつかり合って大量の水蒸気で辺りを冷やす。その間にも男は右手に炎の剣を生み出しスイへと切りつける。スイもまた右手にグライス、左手にネズラクを握り締めて応戦する。

魔力はゴリゴリ減るが今魔法を止めればまず間違いなくスイ以外の全員が死ぬ。直接当てる必要など全くない。何なら存在させ続けるだけで人を容易く死に追いやれる炎だ。対処しようと近付けばものの数秒で発火して死ぬ事だろう。

「……(しかも普通に強い。兄ってことは恐らくあの時戦った第二位階(キャラゼス)のあの子の兄って事だろう。あの子も相当強かったのにそれより強いこいつとこの閉鎖空間で人を守りながら戦う?冗談じゃない)」

スイは何とか打破する状況が無いかを必死で探す。そう考えていたら娘達と連絡が取れるようになっている事に気付いた。

「……(そうか、あの通路まではダンジョンだけどここはダンジョンじゃない。地上にある場所なんだ)」

正確にはダンジョンを使わなければ来れない場所ではあるようだが恐らく地表ではなく地下にあるというだけだろう。それならば娘達にとっては何の関係もない。

「……場所を変えようか、お兄様?」

「貴様に兄などと!」

「出ろ!ベヒモス!この空間ごと押し上げろ!」

激昂しかけた男の言葉を遮るようにそう叫ぶと同時にスイの身体より勢いよく巨体が現れ地面を踏み締めると一気に部屋が崩れていき数秒後にはまるで逆バンジーをしたように地上に放り出された。

「ジズ、他の子を守って」

吹き飛ばされたアーラン達を回収させ男に向かってスイは笑みを浮かべる。

「さあ、第二ラウンドだよ?」

スイ「吹き飛ばされている最中にカーテシーは難しい」

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