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460.若干の後悔



「これより我らは人類の未来の為!魔王討伐へと向かう!」

何やら兵士達を鼓舞する隊長みたいなのが叫んでいたけど私はそれを無視してササミみたいな何かを食べる。この街名物の料理らしいのだが物足りなさが半端じゃない。転生してから肉と言えば串焼きのイメージが付いてしまっている私からするとどうにも肉っぽくないというか。いや肉なのは間違いないのだけど街中で食うようなものじゃないと言うか。

「ねえ、アーラン。あの演説いつまで続くと思う?」

「分からないな。多分一時間位じゃないか?」

「長いなぁ。何をそんなに話す事あるんだろ?」

「まあ意気込みみたいな験担ぎみたいなのやこれまで苦汁を飲んできた人達の思いを改めて確認したりとかかな。そうしてやる気を出させてるんだよ」

「くだらない。やる気になったからって別に強くなる訳でも相手が弱くなる訳でも無いのに」

私の言葉に苦笑いを浮かべるアーラン。

「スイからしたらそうかもしれないけど人ってのは案外思いで動く奴だからさ。こういうのも意外と馬鹿に出来ないんだよ」

「アーランも同じようなことする?」

「いや、しないかな」

そんな事を話しながらササミの串焼き?をアーランに渡して立ち上がる。

「どうした?」

「時間掛かりそうだからもうちょっと食べ物とか飲み物とか貰ってこようかなって」

「多分もうすぐに出発なんだが……?」

「アーラン達の移動速度的にも丸二日くらい出発遅れても追い付けるよ」

「どんな移動速度してるんだ」

「確認してないから正確には分からないけど全力で走れば三日か四日位で世界一周出来ると思うよ」

「凄いな……」

「まあそこまで本気で走ったら多分通る道の周りのもの全部消し飛ぶと思うけど」

「凄いな……絶対やらないでくれ」

「やらないよ、私をどんな人だと思ってるの」

「目的の為なら犠牲もやむなしな感じだな」

「否定はしないかな」

何とも言えないから黙って顔を逸らす事にする。アーランはそんな私を見て笑っていた。



そんな事があってから僅か数時間後、正確には約二時間が経過した後私達の姿は何故かあのダンジョンの中に居た。

「……大丈夫かな?」

ダンジョンからは何も感じない。恐らく死んだ筈のダンジョンを何者かが利用しているのだ。街の門を潜った瞬間ここに居たからダンジョンの入口を強制的に別空間へと飛ばすとんでもなく高等な技だ。スイですら恐らくやる事は出来ない。

スイより前に居たのはアーラン、ミリ、フェルリケ、兵士達だ。ほぼ同時に出たからエンネも恐らく巻き込まれてる事だろう。まさかスイのみピンポイントで移動させたというなら流石に警戒せざるを得ないほど危険な状態だが。

「……」

右手にグライスを握りながらゆっくりと歩く。通路の奥から何かが聞こえてくる。足音を立てないままに近付くと気付いた。何かを食べている音だ。物陰から覗くと恐らく兵士達の誰かだろう人がうつ伏せに倒れその首に向かって人型のカマキリのような魔物が夢中で口を開けていた。

ほぼ千切れかけた首をその口で食べて更に傷口を広げる魔物に背後から近付いてその背中を思いっきり蹴り飛ばし胴体に大きな穴を開ける。死に体になったにも関わらずカマキリのような魔物が口を動かすのをやめないので仕方なくその首を蹴り飛ばして強制的に引き剥がす。

スイがこのダンジョンに来てからそれほど時間が経っていない筈だがそれでも戦闘音も無く死ぬとは思えないから恐らくダンジョンと外界との繋がりのせいでそれこそ一ヶ月とかこのダンジョンに放り込まれた人も居るのかもしれない。

「早めに出ないとなぁ」

時間がどれほどズレているのかは分からないが長く居てもいいことなどないだろう。とりあえず死んだ筈のダンジョン内部に魔物が居たということで警戒度を高めてそれでいて素早く行動する。

殆ど走っているのと変わらない速度でダンジョン内部を疾走する。どうも魔法自体が阻害されているのか転移も上手く使えないし例え使えたとしてもアーラン達を回収する必要があるから結局使えない。

「サーチが使えたらなぁ……」

魔力を飛ばして辺りの地形や生存者を探すサーチはこの魔力の存在を認めない世界においては使うだけで自殺行為となりかねない。多少の魔力使用はお目こぼしされているが多量の魔力を間違いなく使うサーチは絶対無理だろう。ダーちゃんなら使えるかもしれないが生憎と魔力間の繋がり自体が阻害されているようで出発する時後ろの方に居たダーちゃんは連れて来れてない。

「一応私も魔力やら見れるんだから今度からずっと見ても疲れないように特訓しよ」

恐らく見ていたら街の門がおかしくなっている事に気付けただろうし術式そのものを解除すら出来ただろう。しかし魔力やら他の力を見るのは案外脳に負担が掛かるみたいで見続けていると頭痛がするのだ。まあ人の目でずっとサーモグラフィーも真っ青なカラフル且つ意味不明な視界で居続けたらそりゃ頭痛位するのは当然かもしれないけど。

「さて……多分二週間くらいかな?」

恐らくダンジョンと入った時とのズレは二週間程度だと推測する。まあ推測も何も走っていたら見付けた兵士達の死体の荷物から食料が何日分無くなっているのかを確認しただけだが。

「この人が多分ずっと生きてて……食料の減り具合から十日ぐらい?長くても二週間はいってない程度……だと思う」

流石に殆ど推測なので曖昧な感じだが周りの死体と今見た死体の新しさというか装備の消耗度合いとかそういうのを加味したら大体その辺りだろう。

「急ごう。フェルリケって結構食料とか薬品とか持ち歩いてたから合流出来てたら多分まだ生きてるはず」

カマキリの魔物以外はまだ見てないがこの程度の魔物であればアーランなら倒せるだろう。兵士達の殆どの死因は突然の仲間との分断と動揺、奇襲の色んなものが合わさった結果のようにも感じる。だから兵士達も合流出来てたら間違いなく生きてるはずだ。

「とりあえず走ろうか」

グッと足に力を込めて疾走する。何人かの兵士の死体も見付けるが確認はせずひたすら走り続ける。ダンジョンならば上層や逆に下層もあるだろうが先にこのエリアの生存者を探すのが先決だ。

「……厳しいかもしれないけどね」

少し苦い表情を浮かべながら私はダンジョン内部をひたすらに走った。

スイ「あの時しっかり壊してれば……」

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