455.魔法?
結論から言おう、やり過ぎたと。
ダーちゃんの放ったオポラクヌスとかいうらしい謎魔法は辺りに居た全ての魔物を瞬時に溶かし消した。もう一度言おう。溶かして消したのだ。熱量とか何も関係なくただ無慈悲に溶かした。結果として生まれたのは大量の魔物を溶かした事により発生した嗅いだこと無い匂いだ。
「うえっ、気持ち悪い」
焼けた匂いとも腐敗臭とも違う酷く無機質でありながら酷い匂いが辺り一面に漂う。魔物の数はあの死人を使っていた魔物軍よりは少ないがそれでもそれなりの規模の軍だった。少なくとも純粋な数だけで人の街を攻め滅ぼせる程度には多いのだ。そんな数の魔物達が残らず全て溶けた匂い。まあ悪臭としか言いようがない。
『ん〜、いい匂いだねーママ』
「え?」
ダーちゃんの言葉に思わず素で反応する。
『いい匂いだよ?死と罪と悪意に満ちた良い匂い。憎悪も悔恨も諦観も感じられる匂い。だからこの魔法私好きなんだー♪』
無邪気に笑うダーちゃんを見てそういやこの子悪意の塊みたいな存在だったなと思い直す。スイも別に嫌いでは無いが如何せんこの身体になってからは偶に五感が鋭すぎて酷い悪臭に感じることが多くなった。地球の飲み物も好きだった物が味覚が変わったせいで不味く感じた時は流石に辛かった。今回も嗅覚が鋭いせいか気分すら悪くなってくる。
「ごめん、私にはあまり良い匂いには感じないかな」
『えぇ〜、そう?なら今度からはやめておくね?ママの気分を悪くする訳にはいかないし』
「そうしてくれると有難いかな。あぁ、私がいない所で使うなら別に構わないからね。あと使わないと自分の身を守れないなら迷わず使っていいよ」
『うん、分かったママー。でも大丈夫だよ。オポラクヌスは遊び用の魔法だからこれより強い魔法あるよ』
ダーちゃんの言葉に頷きかけてふとおかしい事に気付いた。
「あれ魔法なの?」
『そうだよ?』
「何で魔力使えるの?」
そう、この世界では魔力を認めていないせいで魔法を使うにもかなり魔力を使った筈だ。だがダーちゃんに疲れた様子も無ければ特別魔力が減った様にも見えない。
『うん?あぁ……それはそうだよー。私がこの程度の世界の圧に負ける訳ないじゃん。ママは普段魔力を拡散させてるから圧に負けるみたいだけど固めて使えばこの程度の圧じゃ効果は無いはずだよ?』
「圧?理のこと?」
『世界の理?違う違う。理だったらもっと酷いよー。これは世界が使うなよー使うなよーってプレッシャー掛けてきてるみたいな感じ。理なら問答無用で殺しにくるよー』
ダーちゃんの言葉がいまいち分からないけれどつまり世界の理とは関係無く使ってもペナルティが無いということで良いのだろうか。
『そうそう。だから使っても魔力が減るだけでしょ?そもそも魔力を本当に認めてないなら動かせさえしないって。これは魔力の存在を認めてないからこそ逆に魔力に対してどういう反応するのか分かんなくなってとりあえず使わないでってやってきてるだけー。だから強い意思で魔力を固めてしまえばこいつらは何も出来ないよー。だって使った事に対するペナルティも特に考えてないもの』
「成程……?どうすれば固められるの?」
『ん〜、んん〜?ちょっとママの魔力使ってもいい?説明難しい』
「良いよ」
急遽ダーちゃんにこの世界での魔法をどう使えばいいかを習うことにする。というかダーちゃんが教えられるなら他の子達も教えられるのかも。それなら暫く魔力を封印してた自分がちょっと馬鹿っぽいのだが。
『無理無理ー。他の子達には教えられないよー』
「どうして?あの子達も気付いてたんじゃないの?」
『ん〜、どうだろ?でもママ忘れてるかもしれないけど多分魔法に関しては私を超えるのは創ってないよ?一番それっぽいのでもハクちゃんでしょ?呪術とかなら使えるだろうけど魔法じゃないし。他の子も魔力は使えても魔法は私だよ。私が一番。だって思い出してみて?魔法使えそうな子ってどんな子?』
そう言われて少し考える。
「えっと、ばんちゃんの反射、バロンの祝福、バロールの魔眼、ハクちゃんの呪術、レヴィアタン達の神話再演、ウロボロスの環、ヘルの地上侵食、ニクスの炎、ジャバウォックの強制言語、ラタトスクと獏とコロポックルの魔力徴収。あれ、魔法らしい魔法が無い?」
『でしょ?明確に魔法を使うとして生み出したのは多分私だけだよ。だから難しいんじゃないかなー?魔力だけだと固められないから気付けないと思うしー?』
指折り数えたら確かに魔法を使うのはそう居ない。いや勿論皆魔力の塊だからそれっぽいのは使えるしそれで十分だけど魔法じゃない。考えていたらダーちゃんの魔力が私に触れる。
『えっと、とりあえずこんな感じでー』
その瞬間私から魔力が勝手に動き出す。それは拡散することも無く不必要に魔力を使用することも無くそこにあり続ける。いまいちどうしてそうなっているのか分からないから制御の素因を使って理解しようとする。
「ここがこうで……えっと、うん、うん?何、ん?」
さっぱり分からない。何でこれで魔法が完成していて魔法として顕現しているのか全く分からない。制御しても意味が分からないしブラックボックスだらけだ。いや意味は違うけどそんな感じだ。見えているし感じているけど理解出来ない。何か根本的に魔法というものを間違えて覚えている気がする。
『分かったー?』
「ごめん、さっぱり分かんない。何これ」
『魔法だよ?』
「私の知ってる魔法と根本的に違う感じがする」
『えぇ〜、創命魔法は使うのに?』
「……ん?創命魔法と今のは一緒なの?」
『だって……ん〜、ママの獄炎と創命魔法まるで違うじゃん。獄炎は魔力の発現でー、創命魔法は魔術寄りな魔法。それで私が使うのは原初の魔法。分かるかなー?でもこれ以上の説明難しいよー』
「何か根本的に違うのはよく理解出来たけど理論も何も分からないからやっぱり分かんないかな」
流石に一朝一夕で使えそうなものじゃ無さそうだ。継続して教えてもらうことにしよう。
「ダーちゃん今から私の魔法の師匠さんね。私に頑張って教えて」
『分かったー。私も魔法好きだからママが使えるようになったら楽しいしー。どんな魔法をママが作るのか気になる♪』
「ん、私も。ダーちゃん暫く人型で行動出来る?毎回出すのも面倒だし」
『うん、分かった。でも人型でも私が使うのは念話だけど大丈夫?言語を知らないから話せないの』
「それくらいなら大丈夫。よろしくね」
『うん♪』
さて、少し脱線したけれどそろそろ現実を見よう。
「……ちょっと弁明させて、私目立つつもりは無かったの」
「いや無理だよ。魔物と相対して攻撃しようとした瞬間化け物みたいな竜が出てきたと思ったらいきなり全て攻撃して目の前で溶けた魔物被る事になったんだよ。無理だよ。むしろ何で生きてるのか不思議で仕方ねぇんだよ今」
「口ちょっと悪くなってるよアーラン」
「なるに決まってるだろ!?何だあの竜!?しかもバズも一撃で消し飛ばしてたよな!?スイが強いのは知ってるけどあんなものを従えてるとは知らなかったんだよ」
アーランが多分ごちゃごちゃしてる頭の中でもそう叫ぶ。まあちょっとやり過ぎたなとは思ってた。だって私が望んだのは近くに居るだろう魔物もある程度始末して欲しいなという感じでダーちゃんに頼んだのだ。ぶっちゃけバズと周囲の魔物だけ良かった。けど文字通り周囲=街を襲う魔物全てをダーちゃんはただの一撃で消し飛ばした。いやスケールがやっぱりおかしい。神話系統の子は規模がいちいち大きい。これなら馬鹿げたスピードで走り回るフェンリルとかの方が良かったかもしれない。フェンリルならあの宝石の壁をぶち抜いて反撃の剣も避けた上でバズを食い殺せただろう。とそこまで考えた上で、いや別にハティとかでも普通に行けたなと、何なら戦闘能力低めな子でもこの世界なら過剰戦力なんだから多分行けたなと思う。
「……諦めるのが肝心だよ?アーラン」
「スイに言われたくないなそれ!?」
アーランにそう言われて少しだけムッとしてしまった。
「まあ、うん。とりあえず街に戻ろっか」
誤魔化すようにそう言ってその場を離れることにしたのだった。
ダーちゃん『るんるんるん♪マーマとお散歩♪たのしいなー♪』
スイ「何この子可愛いな」




