453.お話
完全に日にちを間違えて昨日投稿予定が今日になりました。
申し訳ありません。
「ねぇ、スイ」
死人達の元に戻っているといつの間にか気絶から甦ったらしいミリが話しかけて来る。その真剣な声色に私は足を止める。
「何?」
「スイは……えっと」
声を掛けたはいいものの何を言おうか迷っているのだろう。ミリは口を開けては閉じてを繰り返している。
「何でもいいよ、言いたいことは全部言ってくれて」
私がそう声を掛けるとミリは少し悩んだ後に顔を上げて私を見る。
「とりあえず下ろして」
「あ、うん」
そういえば抱えたままだった。ミリを下ろすと少しよろめいた後近くの木にもたれかかる。
「幾つか聞きたいことがあるんだ。良いかな?」
「良いよ。何でも聞いて」
「えっと……うん、そうだな。スイ、君はこの世界の人?じゃないよね?」
「そうだけど今更だね」
「あ、えと、違うんだ。その、この世界、というか精霊界と現世であるここは渡れないだけで地続きだって言う話なんだよ。それで、あの、スイは精霊……じゃないよね?」
「違うよ」
「そ、そんなあっさり……」
「だって実際に違うしね。最初に会った時に精霊じゃないってなったら何か捕まりそうだったし。捕まる気は無かったけど無駄に怪我させるのも可哀想だしね」
「勝てるのが前提なんだ」
「むしろ勝てないと思うの?」
スイの疑問にミリは少しだけ渋い顔をする。
「正直に言って五分五分とかだとちょっと前まで思ってた。それでも強いとは思ってたけど……」
「もっと訳の分からない強さを見せられて頭の中がわ〜ってなっちゃった?」
「うん……」
まあ確かにさっきの三王を瞬殺したのは流石にやりすぎたかもしれない。せめてあの影位に粘ってくれたらまだ苦戦を装えたかもしれないのに……いやあの影もそんなに強くはなかったから無理かもしれない。
「聞きたいこといっぱいあるけど何から聞いたら良いかみたいな顔してるから一から説明してあげようか」
私の言葉にミリは頷く。
「まあ一からって言ったけど本当に最初から話すと長いから話すにしてもどうしてここに居るのかとか私が何か位でいいかな?」
「うん、お願い」
とりあえずミリの隣の木を蹴飛ばして即席の椅子にする。指輪を使うのも魔力を使うからあまり使いたくないのだ。唐突な蹴りにミリがビクッとしてたけどそこは気にしないでおこう。
「そうだね、まずは私の存在からでいいかな。ミリも疑っている通り私は精霊ではないよ。人でもない。どちらかと言えば魔族だね。ただしこの世界の魔族ではないけど」
私の言葉にミリは首を傾げるが先に私の言葉を聞きたいのか何も言わない。
「色々あるけど要はこの世界に用があって来た別世界の魔族、それが私だよ」
「別世界の魔族……」
「そう、あ、でもだからといって別にこの世界の人を殺してやるーとか破壊してやるーとかはないよ。というかどうでもいい」
「ど、どうでも」
「まあそりゃ私からしたらこの世界に来たくて来た訳じゃないしね」
ミリが不思議そうな顔でこちらを見る。
「まあ分かりやすく言うとこの世界でやることがあるからやって来てって送り出されたの」
神の話は濁して伝える。というかしたとしてもミリの許容範囲を超えそうだし私自身未だにあの神の正体を掴みきれていない。多分そうだろうなというのは該当者が居るけど確信までは出来ない。相対する時に初めて確信できることだろう。それまでは気にしても仕方ない。
「それでやることって……?」
「ん〜、今は魔王を殺すかこの世界から追い出すことかな。三王……じゃない。幹部達からも感じたからほぼ間違いなく魔王が異物だろうし」
「異物……?」
「まあその辺りは説明しても多分理解出来ないししない方がいいよ。私が居なくなったらもう関わることもないし」
「……っ。スイは……居なくなる…の?」
「そうだね。用事が済んだら多分すぐにでも」
今までの世界の流れからして魔王を殺す、または追い出せば即時移動となる事だろう。別れを惜しむ時間もおそらく無いはずだ。
「……そう、だよね」
「あぁ、あとミリに言いたいことがあったんだけどね。ミリが精霊と契約出来ないのは多分その黒印のせいだよ」
黒印は呪いの塊だ。精霊がどんな性格をしているのかは分からないが少なくともそんな存在と契約したいとは思わないだろう。呪われると思うかそれとも死ぬ事がほぼ確定している存在との契約など御免なのか理由までは定かではない。しかも黒印にミリの中にある精霊力が奪われていてアーラン達よりも規模の大きい呪いと化している。精霊としては最悪の物件だろう。
「黒印……のせい?」
「うん、それにミリの精霊力が大部分取られてる。本来ならミリはもっと凄い精霊使い?になってるはず」
それをこの世界の神は都合のいい爆弾にしたのだろう。私をここに送り込んだ神も気に食わないけれどこの世界の神の方がもっと気に食わない。何処の神が自分の治める世界の人を爆弾にしてぶつけようなどと考えるのだ。
これが異物たる魔王が送り込んだ神の刺客とかなら少数を犠牲に世界を守ろうとしているのかとも思える。だけど勘違いでなければ魔王はあの神の刺客などではない。もっと詳しく言えば今まで渡ってきた世界に居た異物達はあの神と全く関係無い。本当にただの異物だったのだと今なら分かる。
あの神が治め始めたから異物が湧いたのかとも思うが多分違う。何故ならあの神は恐らく世界の創成までは出来ないからだ。つまり今までの世界は神に見放された世界、もしくはこの世界のように奪い取った世界だ。何故そんな世界に私を送って異物を排除させるのかは分からない。
まあ私を殺す為なのは間違いないけどそれ以外にこの世界達を本気で元の普通の世界に戻そうとしているように感じる。ああ、もしかしたらアルーシアにおける私という異物も排除したいのかもしれない。それなら多分彼が望む……いや、よそう。どうせ全ての世界を渡り終えたら分かる事だ。
「……この黒印って何なの?」
「知りたい?」
ミリの質問に質問で返す。どうしても聞きたいというなら話すがあまり気持ちのいい話ではない。しかも私じゃこの黒印を解除する事が出来ない。解除されるとしたら魔王が死に、異物が全て排除されてこの世界の本来の神がお役御免とした時だけだろう。
この世界では魔力を操ること自体が厳しいし黒印の詳細を知る事も出来ない、しかも呪いは専門外だ。はっきり言って治しようがないのだ。だから消せるかを聞かれても困る。
「ううん、聞いてもどうしようもなさそうだし良いや。スイを困らせたい訳じゃないしね」
ミリはそう言って少し笑う。
「スイ……スイが居なくなる時ってどういう時?」
「さっきも言ったけど魔王を殺したか追い出した時だよ。その瞬間に私は消えることになる」
「……そっか。スイって魔王?」
「……ん〜、多分ミリの想像してるのとは違うかな」
「殺したか追い出した時に消えるって言うからてっきりスイが魔王なのかなって思っちゃった」
ミリの言葉にまあそう勘違いされてもおかしくないかと少し苦笑する。
「まあ魔王ではあるよ。さっきも言ったけど別世界の、だけど。この世界の魔王とは異なる存在」
「……?魔王って複数居るんだ?」
「あ〜、もしかして別世界含めて魔王が一体しか居ないと思ってる?」
「違うの?」
「違うよ。神様か何かと勘違いしてるのかな……?まあ色々詳しく話すとこんがらがりそうだけど……どうする?聞きたい?」
ミリは私の言葉に頷く。
「うん。スイの事もっと知りたい。何処から来てどういう事をしてきたのかどういうことを知っているのか色々な事を知りたい。スイが居なくなるその日まで教えて欲しい」
ミリのそのまっすぐな言葉に私は少しだけ微笑む。
「そうだね、いっぱい話そうか。その日が来るまで」
私はそう言いながらミリの手を掴むと立ち上がる。
「その前に死人達の所に行って確認してこないとね?」
ミリは私の言葉に少しだけ移動の速さを思い浮かべて顔を蒼白にしながらもゆっくりと頷いた。
スイ「ビューン」
ミリ「(@△@)」




