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451.三王



「めんどくさい……」

三王を殺して戻ったら色々言われたけど説明するのも面倒臭いし勝手に行動するなとか怒られたから黙って無視していたら放置された。

「殺したんだから別にいいでしょうに」

そう呟くと一緒に居たミリが苦笑いを浮かべる。ミリは別に悪くないのだけど私の主という立場から一緒に責められてくれたのだ。そもそも責められるような事をしたつもりは無いけれども。

「スイ……あのさ」

「おーい!戻って来いってさー」

ミリが何か言おうとした時に遠くからアーランの呼ぶ声が聞こえた。ちなみに責めてきたのはアーラン達ではなくてこの基地の軍人達だ。どうやら幹部でもある三王が死んだことで魔物の統率が崩れて忙しくなるということだった。まあその魔物の八割近くはベヒモスが踏み潰してた筈だけどそれは知られていないので仕方ない。一応魔物の大多数は殺したとは伝えたのだけどね。

「戻ろっか」

「ん、分かった」

ミリが言葉を止めて私に戻るように言う。言わないということはそれ程大事な話ではないのかもしれない。ミリの事だから隠してそうではあるけどそこまで深刻そうでは無かったし大丈夫だと思う。



「スイ、君の力が強いのは分かった。そして死なない君だから頼みたいことがある。勿論危険があるから断ってくれても構わない」

アーランが私に対してそう言う。最初はミリに何だかんだで伺いを取ってたと思うけどいつしか私が自立して行動する事に気付いたのか私に対して話しかけるようになっていた。

ちなみにここはあの基地から離れて三日、少し離れた場所にあるこれまた同じ人類側の基地の中での一言だ。

「何?」

「次の幹部は屍人と呼ばれる魔物を扱うんだ」

「それで?」

「敵はその力で軍人の方や民間の人、魔物の屍も使ってとてつもない規模の軍を作り上げているらしい」

「ん、続けて」

「民間人はそれほど脅威じゃないし軍人の方も武器を持っていなかったりと決して強くはない」

「だけど見知った顔があったら攻撃出来ない?あと弱くても数が多すぎて軍人が出ても役に立たない?だから死なず単騎で突撃出来て躊躇なく殺せそうな私にその軍の足止めを?」

「まあそうなんだが……」

言おうとしていたことを言われたからかアーランが困ったように頭をかく。

「別にいいけど幹部はどうするの?殲滅しながら殺しに行けばいい?」

「いや屍人達は死んでも一定時間が経つと勝手に治るらしい。だから足止めをしていてくれ。その間に俺達が幹部を横から急襲をしかけて倒す」

「出来るの?」

「やるしかないだろう?それに俺達は決して弱くない。あと単純に俺達の戦い方とか的に少数相手は出来るけど数が多すぎると倒せてもすぐにやられる」

「ん、分かった。なら屍人を殺し尽くしておけばいいんだね?」

「え?あ、いや、うん?まあそうなるのか?というか……もうか」

アーランがちょっと首を捻るがすぐに気を取り直す。何故こんな話を今しているのかというと今まさにその幹部率いる魔物軍が大量に進んでいるからだ。この基地に向かって。


「んと、この世界脆いし魔力も使えないし娘達も出せないし面倒臭いけど頑張るかぁ」

私は基地の門前でストレッチをしながら魔物達を待つ。森の奥からドシンドシンと地面が揺れる程の数の魔物が溢れてくる。先頭の猿の魔物が見えた瞬間詰め寄って頭を掴むとそのまま元の位置に向かってぶん投げた。

ぶつかった猿の魔物は飛び散りぶつかられた人は首から上を無くした。いや元から無かったのかな?分からないけれどプツンと途切れたように地面に倒れ込んで動かなくなった。死んだら一定時間後に復活らしいがどう復活するのだろうか。

そんなことを考えながらとにかくど真ん中に突っ走って片っ端から適当に掴んで周りにハンマー投げよろしく投げまくる。大体飛び散るから散弾みたいになって一体で複数倒せる。とはいえ魔法もグライスなども使えないからかなり地味な戦いだ。投げるだけじゃなくて蹴り飛ばしたりボウリングみたいに投げたりって……思ったけど大体吹き飛ばしてることに気付いた。

「えーい、それー」

気の抜けた掛け声と共にぶん投げてたら魔物が離れようとする。まあ私の近くに居ても何も出来てないしね。

「逃がすと思うの?」

離れようとした魔物の背後に一気に近寄ってそのまま頭を握りつぶした。

「私の前に現れた時点でお前達が取れる行動は大人しく死ぬか抵抗して死ぬかの二択だけだ。逃げられると思うなよ」

私が威圧を込めて周りを睨むと魔物達が身体を強ばらせた。

「あはっ、屍人とかいうくせに死ぬのが怖いんだ? なら良かったね?何度でも何回でも死ぬまで殺され続けるっていう中々味わえない思い出を与えてあげる」

私の笑みに魔物達は恐怖の声をあげながら私に襲いかかってきた。




「アーラン、ほんとにあの精霊だけで魔物の軍を止められると思うの?」

エンネがそう言うとアーランは頷く。

「ああ、あの精霊は恐らく俺達が全員で掛かっても一撃も入れられない所か鼻歌混じりに呆気なく潰してくるだろうな」

アーランのその確信めいた言葉にエンネは驚く。知っているのだ。アーランの瞳はその者の持つ本質を見抜くと言われている心眼の力を持っている。その力で魔物の弱点を見抜いたり予知に近い形で攻撃を避けたりと今まで勇者パーティの危機を助けてくれたのだ。そのアーランがはっきりと自分達では適わないと断言する。それがどれ程の力なのかエンネは想像も出来なかった。

実際はアーランの感じた力はスイのごく一部でしか無かったのだがそれでも適わないと思えた。それは純粋に種族差としても現れているし積み上げてきた経験などもある。勿論アーラン達も並大抵の苦労はしていないがスイは文字通り死にかけたり死んだり世界を移動したりと規模がまるで違う。流石にそれと比べるのは可哀想というものだろう。

「アーラン、幹部を見付けた」

フェルリケの言葉に二人は話すのをやめて草むらから覗き込む。そこにはまるで自らが王であるかのように優雅に豪華な椅子に座りながら脚を組みカップを傾ける幹部が居た。

「情報通りならあれが幹部の一体だと思う。屍戯(しぎ)のラブだ」

幹部は三体、屍戯のラブ、虚影(きょえい)のボン、財煌(ざいこう)のバズ。この三体を倒して始めて魔王を倒すことが出来る。三体はそれぞれ魔王を守る結界の柱を担っているらしい。その性質上一つの所にはまとまる事が出来ない。だからこそ各個撃破が可能なのだが時間を掛けていたらもしかしたら新しい幹部が産まれたりして長期戦と化すかもしれない。ボンを倒したらしいスイの言葉からラブとバズを早く倒さないといけないのだ。

「アーラン一気に行こう。やつは油断している。急襲をかければ」

フェルリケの言葉にアーランは首を振る。アーランの瞳にはラブの桁外れの力が見えていた。

「なんだあれ……あんなの人が倒せるのか……?」

どう考えても自分達の予想を遥かに超える。急襲をかけても即座に自分達の首と胴体が離れている予想しか付かない。

「無理だ……あれに今挑んでも何も出来ない……」

アーランの苦渋に満ちた声にエンネ、フェルリケ、ロッコスの三人とも驚く、だがそれ以上に自分達にも分かるのだ。肌で感じる威圧感があれに挑ませるのを留まらせる。

「どうすれば……」

「なんだ?覗き見だけで何もせんのか?」

声が聞こえた。背後から。咄嗟に全員草むらから飛び出すように転げ出す。背後に居たのは先程まで優雅に座っていた筈のラブだった。

「ふん?今代の勇者は随分と弱いな?いや今までのと比べればまだ強い方か?とはいえ私も他の二人も些か強化されすぎていふようだが……まあいい。あれを殺すには私達では厳しそうだしな。せいぜいお前達にも役に立ってもらおうか」

何か言い続けた後ラブは即座にエンネの首を握りその首を折ろうとした瞬間、ラブの腕が切り落とされていた。

「ぐ!?うぉぉぁあ!?」

ラブが残った腕から呪いに似たどす黒い塊を投げつけるがそれはあっさりと弾かれた。

「あは♪オカワリ欲しくて来たんだけど……まだかな?」

そこに居たのは全身を赤く染め血と臓物に塗れた姿で片手にミリを抱えたスイが笑顔で腕を振り上げていたのだった。

スイ「軍っていうからちょっと楽しみだったのに数少ない」

ミリ「……軽く万は居た気がするんだけど?」

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