447.違和感の正体
「ご馳走様」
ミリに連れられてやって来たのは学校?学園?から出て少し歩いた先にあった飽食屋という店だった。メニューを見る限り量が多くてそれなりに美味しいみたいな店らしい。まあ安いかは知らないけれど失礼だけどあまりお金を持っていなさそうなミリが入ったから多分安いのだろう。
そこで頼んだのは何かの魚のムニエルっぽいものと細かい野菜が浮いているコンソメスープらしきものと小振りだけどやたら多いパン。パンは結構ガッツリとした食感でお腹に溜まる感じだ。コッペパン位の大きさだったのに二個も食べればお腹がいっぱいになりそうだ。
スープはかなり手間が混んでいるのかかなり美味しい。その代わり量は多くはないけれど高くてもこれなら食べるなと思えた。魚は美味しかったけれど良くも悪くも普通のムニエルだった。魚の種類は分からないけれどヒラメとかその辺りの感じがした。
そして食べた感想としてまずムニエルと魚が微妙に合わない。いや普通合うと思うのだが絶妙に何か違うのだ。これならご飯でムニエルを食べるかパンと合いそうな他の料理を頼むべきだったかなと思った。
多分ムニエルを作ってる料理人とパンを焼いている人が違うのだ。だからコンセプトが違ってそのせいで合わないのだろう。ちなみにスープはどちらにも合わなかった。というかスープは完成され切ってて他に何も要らない感じだ。
「スイ……?美味しくなかった?」
「ん?いや美味しかったよ。ただ合わないなって」
ミリが私の雰囲気かそれとも繋がりから伝わったのかおずおずとした様子で私に問い掛けてくる。だから素直に私も思った事を口にした。
「まあ安くて量が多くてそこそこ美味しいからいいんじゃないかな。単に食べ合わせが悪かっただけだと思うし」
私がそう言うと店の奥から何かが走ってきて思いっきり私の顔目掛けて投げつけて来た。避けたそれは机を拭く布巾だったようでべしゃっと床に落ちた。
「あんたに何が分かんのよ!このちんちくりん!」
投げつけてきたのはおそらくこの店の従業員。店主の娘か親戚かその辺りだろう。その女の人は顔を真っ赤にして私に怒鳴ってきた。
「ごめん。別に悪く言うつもりは無かった。ただどうしても私の口には合わなかったの。味は美味しかったんだけどね」
私がそう言うと顔を真っ赤にしていた女の人はむっとしつつもいきなり布巾を投げつけたからか決まり悪そうにしている。実際別にこの店の料理が悪いとは思っていない。値段がどの程度なのか平均を知らないからはっきりとは言えないけれど決して高くはないだろうその中では上等な部類だと思った。しかし一つ一つの味がいいだけにコンセプトがバラバラすぎて勿体ないなとは思った。
そう思ったことを言うとその女性以外の時間が止まった。比喩表現でも何でもなく物理的に完全に止まったのだ。動いているのは私とその女性だけ。
「……何これ」
女性の頭の上に浮かんでいるのは選択肢。幾つかある選択肢とどれを選ぶのかを点滅で知らせる矢印のアイコン。
「……本当にゲームがモチーフの世界なんだここ」
私はやっぱりなと納得した。違和感がすっきりして逆に気分がいいまである。ただこの選択肢が面倒臭い。恐らく選択するまで時間が進まない。
選択肢の内容は【"私"が料理を教える】【料理を教えない】【"ミリ"が料理を教える】【帰る】【怒鳴る】等正直どれを選んでも面倒臭い。
料理を教えるとかでも別に構わないのだが、七日後に勇者パーティが来る以上時間は掛けたくない。教えるのが三日四日程度ならまだしも一ヶ月とか掛かるとすると大変面倒臭い。ミリも恐らくそんなに料理が上手には見えないし出来たとしても店並のレベルかと言われたらまず間違いなくそれは無い。
だから教えないを選択する。どうやって選択しようかと思っていたら勝手に動いた。一応念じたら動くらしい。そして教えないを選択すると世界が再び動き始めた。
「何よ!このちんちくりん!ばーか!」
一体私が何を言ったという設定なのかは分からないけれど女の人はまた顔を真っ赤にして言いたい放題言ってから店の奥に戻って行った。
「……なんか納得いかない」
モヤッとした気持ちだけれどこの世界がどういう世界なのか分かったからまあいいとしよう。いや正直良くはないけど。
「ミリお金ってどうするの」
「あ、僕が払うよ。大丈夫だから」
ミリが財布から硬貨を三枚ほど出してお釣りを貰って帰ってきた。ちなみにお金を渡したのはさっき私に言いたい放題言った女性だ。とんでもない違和感である。大変気持ち悪い。ミリは慣れているのかそれともミリもまたこのゲームのような世界の住人ということなのか。
「私この世界から早く出たい」
「え!?それって僕との契約を破棄するって事……?」
泣きそうな顔でミリが言うので首を振って否定しておく。ミリがいないと今の私は恐らくこのゲームのような世界から排除されかねない。野良の精霊?とやらだと思われただけであれだけ過剰な反応を示されたのだ。間違えても自分から離れるなんてことする気はなかった。
「お?ミリじゃねぇか。いい精霊手に入れたんだってなぁ?」
寮舎に戻っている最中に背後からミリに声が掛けられる。掛けてきたのはミリと同じ制服に身を包んだ体格がそれなりに良い男の子。それとその両隣に取り巻きっぽいのが居た。不思議なのはその男の子の肩に物凄く小さな緑色のトカゲがいることか。
取り巻き達にも肩やら胸ポケットやらにモモンガみたいなのと猿が居た。なんか小さくて可愛いけど顔があからさまに馬鹿にしてる顔で凄くイラッとする。まさか猿とモモンガにイラッとするとは思わなかった。ちなみにトカゲはそんな様子は無いけど格下のように思ってるのは伝わってきた。
「ガーディ君」
「ガーディ様だろうがミリ」
ミリの言葉に間髪入れずにそう答えるガーディ君。取り巻き達も頷いている。どうでもいいけど何の用なのだろう。
「お前の精霊を俺に寄越せ。クワルトッサの俺の方が上手く使える筈だろうが」
「け、けど僕……」
「あぁ?文句言うつもりかよ。黒印が無ければお前が選ばれたりなんてしねえのによ。俺の方が絶対に役に立った筈だ。何でお前が」
ぼんやりと話聞いてたのだけれどミリから私を貰おう?奪おうと?しているようだ。けど少し面白いのがこのガーディ君から悪意を感じないのだ。滅茶苦茶口が悪いし態度も悪いのだけど声色や目線から感じられるのは心配の感情だ。
「ミリ、この子は?」
「え、あ、スイ。えっと、幼馴染のガーディ君だよ……タブの僕と違ってクワルトッサのガーディ君は凄いんだ。もしかしたら僕なんかよりもガーディ君とスイが契約した方がいいのかもね……」
ミリが物凄く卑屈になってる。そしてガーディ君は凄く居心地悪そうだ。何だこの子。口と態度が悪いだけでミリの事大好きなんじゃないだろうか。取り巻き達はそれに気付いてはなさそうだけど。
「ん〜、面白そうだけど私はミリと契約してるからごめんね」
「タブのミリよりクワルトッサの俺の方がもっと力を引き出せるんだぞ!?」
この子ミリを危ない目に合わせたくないのか。だから代わりに自分が矢面に立ちたがってる。ここまで口と態度と本心が乖離してる子も珍しいな。
「タブとかクワルトッサとかいうのが何かは知らないけれど私はミリと契約したの。君じゃない。でも安心して?ミリは必ず守るから」
私の言葉にガーディ君は睨み付けてくる。この子からしたら私はミリを危ないところに連れて行こうとする危険人物か。危険精霊かな?まあどっちでもいいけど。だからガーディ君の肩にポンと手を置く。そしてほんの少しだけ表面に魔力を纏わせる。制御してるから漏れないけれど凄くしんどい。
「私を傷付けられる存在はこの世界の何処にも居ないよ。そんな私が守ると宣言したんだ。だから信じろ」
私の言葉に何かを感じたのかガーディ君の声が詰まる。だから私はただ微笑んでミリの隣に戻ると寮舎へと押して帰らせたのだった。
スイ「♪」




