444.世界の支配者
「ふむ……存外に早く出来たな。やはり余に匹敵する者が居れば城などそう時も置かずに完成するということか。いや、中々面白いな」
アウロゴーンは完成した城を見て愉快そうに笑う。崩壊した城の復旧に掛かった時間は僅か四日、正確には三日だが城なか飾りを付けたがったアウロゴーンによって一日伸びた。完成した城はスイとアウロゴーンの二人だけで作ったとは思えない程の出来であった。
「これで心置き無く戦えるな。では何処で戦う?」
「……お前本当に死ぬのが怖くないの?分かってる筈。お前と私が本気で戦えば私が勝つことくらい」
「であろうな。だがそれがどうした。戦いとは元より死を望む馬鹿の所業だ。それが相手の死か己の死かの違いでしかない」
アウロゴーンは平然とそう言い放つ。
「それにだな。余は既に長く生きた。勿論死にたくはない。だがな、やるべき事がある貴様とただ生き永らえているだけの余では命の重みが違う。どちらかが死なねばならぬと言うのならば余は自ら死を選ぶ。だがそれでは仮にも世界の支配者となり、世界を庇護する者としては失格だ。故に余は貴様と戦いの果てに死ぬことを望む」
そこまで言うとアウロゴーンはスイの頭に手を置く。
「理解出来ずとも良い。ただこういう馬鹿もいるというだけだ」
手を置いていたのを離してアウロゴーンは歩き出す。
「戦いの前に最期の食事と行こう。盛大に送り出してもらわねばな」
そう言って通り過ぎたアウロゴーンをスイはただ見つめる。やがて目を閉じるとアウロゴーンの後を追った。
「ここで良いか」
アウロゴーンに付いていき到着した場所は砂漠のようになっている場所だった。建造物らしき物どころか人が到達しているような気配すらない。
「まあ分かっただろうがここはまだ人跡未踏の地だ。余ですら支配者となってから知り得た場所でもある。人がこの場所に来る事はまず無いだろう。何かが起きても気付くことすら出来まい」
「つまり全力でやれってこと?」
「無論だ。この世界は余が本気を出しても壊れぬ程の強度がある。貴様がどの程度の力を持つかははっきりとは分からんが、まあ簡単に壊せる程ではない」
アウロゴーンはそこまで言うと以前やり合った際に使っていた長剣を何処からか取り出す。私はそれを見てグライスとネズラク両方を取り出す。
「ふむ、以前は使っていなかったな」
「この子は私もまだ力を把握してないからね。貴方で試させて貰うよ」
「ほう?良かろう。開始の合図などいりはせんよな?」
「当然」
お互いにどちらからともなく走り出し長剣とネズラクが重なり合う。即座にグライスで腕を切ろうとするが巧みに剣を動かしグライスを受け止められる。剣術の腕は明らかにアウロゴーンの方が高い。剣のみで仕留められるとは思わない方が良い。
「獄炎」
「魔刃」
放った魔法は剣の一振りで消された。これは以前も見た事がある。だから続けてコマの様に回りながらネズラクとグライスを叩き付ける。受け止められた後即座に蹴りが飛んで来たので私もそれに合わせて蹴りを放つ。互いの足がぶつかり合うが威力を殺しきれずに少し飛ぶようにして離れる。
「連封殺」
見た事が無い技が飛んで来たので咄嗟に離れる。直後私が立っていた場所に何らかの封印術式が発生する。
「ふむ、やはり当たらんか」
「魔法の封印?」
「一部の封印だな。魔法にすれば対象は増えるがその分効力が弱まる。直前の魔法のみに指定することで自力で解けないようにしているのだ」
アウロゴーンは堂々とそう言う。
「小手先の技は使わないとか何とか前に言ってなかった?」
「使えぬとは言ってない。ましてや互いに死力を尽くす戦いだぞ?どんな手を使っても命を勝ち取りに行くのが普通であろう」
「……ふん、まあそうだね。なら私も出し惜しみは一切しない。せめてすぐ死なないでね」
「最初から全力で来い。言ったはずだろう?」
「来い、ハティ、スコル、マナ、フェンリル」
私の呼び掛けに応えて四人が出現する。ジズやレヴィアタン等でも構わないけれど私が単純に動きづらい。大き過ぎるのは連携の邪魔にしかならないのだ。その点狼がモチーフだからかこの四人は連携がかなり上手い。しかもフェンリル以外はそれ程大きくないので動きやすくもある。フェンリルには人型で戦って貰えばいいだろう。
「ほう?面白いな。では余も見せよう。眷属達よ」
その言葉と共に現れたのは十数体の多種多様な存在だ。
「精霊と神の眷属だった者達だ。こやつらに死の概念は無い。存分にやれるぞ?」
そう言って笑うアウロゴーンに私もまた笑みを返したのであった。
何時間、いや何日だろうか。時間の感覚が曖昧になってきた。何せお互いの技で昼が夜になったり空間転移で場所がころころ変わったりするものだから日にちの感覚が分からない。だがそれもいつまでも続くものではない。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「なか、なか、やるではないか」
あれからアウロゴーンは追加で精霊や神の眷属、果てには神の部下だったらしい神まで召喚してきた。私もまた連携とか考えている余裕も無くなり、娘達を全員開放していた。
お互いにほぼ全力でひたすらに攻撃しあった。途中から軽い傷なら無視して切りかかっていた。互いに自然に回復するが故の行動だった。
しかもリソースはあちらの方が上。流石に私もほぼ無尽蔵に魔力を使えるとはいえ相手は世界まるごとみたいな存在だ。規模も出力も決して勝てなかった。
「ごふっ」
けれど勝ったのは私だった。理由はあまりにもしょぼい。ただただ種族の差だった。私は肉体的な疲労が存在しない。何せ魔力そのものが身体の生命だ。あくまで神の力を宿した人でしかないアウロゴーンでは肉体的な疲労を無視することは出来なかったのだ。
「くっははは、ごほっ、あぁ……やられたか」
「けほっ……そうだね、お前がやられて私が立ってる」
アウロゴーンの腹には私が突き刺したグライスがある。私の手からは既に離れてはいるけど既にグライスが自力で動ける事は知られている。何か抵抗しようとしてもグライスはその前にアウロゴーンの身体を裂くことだろう。
「もう良い、下がれ」
アウロゴーンの言葉に精霊達は素直に戻る。彼等には死の概念がないし意思らしい意思を感じないから仕方ない。だが眷属達や神は泣きそうになりながらも戦闘を止めようとはしない。彼らもまた既に傷だらけで立っているのがギリギリだろうに。
「余は下がれと言った。聞こえぬか!」
「いいえ、聞こえています!」
神の一柱がそう言う。その上で戦うのだと示すかのように私に敵意を向ける。
「もう良い、良いか、何度も言わせるな、下がれと言ったぞ余は」
アウロゴーンの言葉に項垂れて一人、また一人と消えていく。彼等には恐らく一生恨まれる事だろう。
「小娘、いやスイよ」
アウロゴーンは初めて私の名前を呼んだ。
「貴様はこれから先長き生を送ることだろう。幾多の困難と悲しみ、そして少しの喜びに出会う。だからこそ余は貴様を盛大に送り出そう」
そう言いながらも既に力を失い始めているのか。アウロゴーンの声は少し掠れていた。だがその声には決して誰にも折れないようなそんな強さを感じられた。
「世界よ!喝采せよ!余に打ち勝ち未来を勝ち取りし少女を!」
声に応じて世界が喝采する。光に満ち溢れたその道を進む。
「世界よ!咆哮をあげよ!まだ見ぬ苦難を乗り越えようとせん少女に激励を!」
声に応じて世界が吼える。響き渡るその音に背中を押される。
「世界よ!喜べ!ここに誕生した未来の希望を!」
声に応じて世界が歓喜する。進む道が希望への花道となる。
「世界よ!送り出せ!全てを勝ち取ろうとせん少女を!」
声に応じて世界が背中を押す。静かな風が優しく押してくれる。
「世か…ごほっごほっ……!ごふっ、そして迎え…てくれ、この馬鹿な余を…今再び……輪廻へ……」
声に応じて私は抜き放つ。優しげなその瞳のままの貴方を。
「彼は生きましたか」
私の背後から世界の具象化した存在だという女性が現れる。
「生きたよ。間違いなく。私の心にも彼は生きた」
「そうですか。それならば良かった」
彼女はスイの髪を一撫ですると彼の方へと歩み寄る。私はそれを見て後ろへと振り返る。胸糞の悪いことにほんの少しだけ泣き声が聞こえた気がした。
そして私はその場から光に包まれて消えた。
スイ「……」




